3杯目 男は話し始めた。
「ところで話は交通事故に戻るんだけどさ。」
ふと、彼のコップを見るとそこにはカフェオレが湯気をたてて入っていた。きっと僕が彼のガールフレンドについて考え込んでいた間に届いたのだろう。僕のコーヒーも少し前に来ていたらしい
「あぁ、君の彼女が亡くなった事故か。」
聞くまでもなかったが、何故か確認しなければならない気がした。
「うん、彼女がひかれた後の死体からは目が飛び出てたって言ったよね。」
「うん、覚えてるよ。」
「実は右目だけ、僕が持って帰ったんだ。事故のどさくさに紛れて。」
僕はぎょっとした。
「え、本当に?目玉を持って帰ったってこと?」
「そう、彼女が大切にしていた利き目を持って帰ったんだ。」
僕はしばらく彼の顔を見つめていた。言葉が出てこなかったからだ。
「ちょっと顔を近づけてくれるかい?俺の顔に。」
少し違和感を感じながらも顔を近づけた。彼はゆっくりと前髪をあげる。
「うぉ!」
軽く叫ぶ、彼の右目は明らかに彼のものではなかった。黒目はあらぬ方向を向いていて目というよりかは黒い穴の中に目のようなものを置いた感じがした。
「俺は彼女が大切にしていた利き目を貰うことにしたんだ。俺の右目をとる代わりにね。友達に頭のネジが緩んだ優秀な医者が居るんだが、目の処理などはそいつにやってもらった。」
俺の話を男は唖然として聞いていたがやがてニヤリと笑った。
「類が友を呼ぶとはほんとなんだね。」
男はかけていたサングラスを外した。
「え!」
驚愕した、男の左目には俺と同様にそして俺以上に綺麗な目玉が黒い空洞の中に転がっていたのだから。
「まぁ、僕の場合は目が欲しくて殺したんだけどね。」
男はまたニヤリと笑いながらサングラスをかける。
「さ…殺人?嘘だろ?じゃ、死体とかはどうするんだよ。」
目の前で起こっていることに整理がつかず動揺し言葉に詰まりながらも質問をすると、すぐに返答は返ってきた。
「カニバリズムって知ってる?」
男は話し始めた。
【短編】男は話し始めた。 Lie街 @keionrenmaro
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