第373話 ルカ


 コナーがやけ酒を飲んでいると、カウンターに12,3歳の一人の少年がやってきた。

 年の割には背は低くないがやせ形で、前髪の長い茶髪にそばかすの冴えない少年だった。

 肩に小さな黒い小鳥を乗せている。

 翼に従魔の紋章が入っている。どうやらテイマーらしい。


「おっちゃん、今日のおススメ頼む」

「あいよ、今日は遅かったな。カイオス様のお使いかい?」

「うん、手紙を届けてこいって」

「カイオス様の仕事を任せてもらえるなんて、名誉なこった」


 店の親父がモツのトマト煮込みと黒いパンを出したのを、少年は熱そうにハフハフしながら頬張っていた。



「坊主、カイオス様っていうと、あの黒騎士さまか?」

 コナーが好奇心に駆られて聞くと、少年はにっかり笑った。

「うん! おいら、カイオス様のお手伝いしてんだ」

「へぇ、すごいな」


「死んだ父ちゃんがカイオス様の従者やってたんだ。

 おいら、母ちゃんもいないからカイオス様が面倒見てくれてさ」


 少年は聞きもしないのに、ベラベラしゃべり始めた。

 有名な英雄と親しいことを自慢したくてたまらないんだなとコナーは感じた。



「そういやお客さん、酒が進んでいるようだけど何かあったのかい?」

 つまみもなく酒をあおっているせいか、店の親父がさりげなく聞いてきた。

「まぁな。最近の冒険者は腐ってると思ってな」

「そりゃまた、どういうことだい?」



 それでコナーは『カナンの慈雨』が自分の持ち物をり盗った犯人を貴族の横やりで逃がした話をした。


「『カナンの慈雨』がねぇ。そりゃ相手は相当な大物だな」

「物は戻ってきたんだが、気持ちが収まらねぇ」

「全くだな」

「カイオス様だったら、そういうの絶対に許さねぇよ」

 少年が横から割り込んできた。


「そりゃそうだが、品物が帰ってきただけマシだぜ。お客さん。

 最近の騎士団だったら面倒だからと取り合ってもくれねぇからな」

「そんなにひどいのか?」

「ああ、上級貴族ならみんないいなりさ」


「カイオス様は」

「コラ! ルカ。大人の話に口を挟むな」

「わかったよ、おっちゃん」

「いや、別にいいさ。ルカって言うのか? 俺はコナーだ」

「よろしく、コナーの兄ちゃん。こっちはくろうたどりブラックバードのリュンヌだ」

 黒い小鳥は紹介されるとピピィと鳴いた。



 それからコナーは時々この酒場でルカと会っていた。

 ルカは冒険者としてはまだ駆け出しのEランクだったが、生まれてずっと王都で暮らしていたらしく、なにかと詳しかった。

 安くていい宿屋や旨い飯屋の情報は日々の暮らしに直結する。

 街を転々としているコナーにとって、いろんな情報が聞けてありがたかった。



 コナーはルカにもエリーのことも聞いてみた。

「ああ、知ってる。魔族の手下だろ。『常闇の炎』の子だ」

「仲がいいのか?」

「全然、喋ったこともねぇ」

「まぁ、ランクの違う子には話しかけにくいからな」


 酒場の親父がいうには、エリーはすでにDランクだそうで、Eランクのルカとは受ける依頼も活動場所も違うので接点がないのだ。



「でも1回ぐらいあのティーカップ・テディベアを触ってみてぇな」

「よせよルカ、また値上がりしたって聞くぜ。

 ヤバい相手には近寄らないことだ」

 店の親父はルカのことを心配して言った。


「あの子の従魔は『常闇の炎』から押し付けられてるらしいからな」

 親父がそう言うと、コナーは驚いた。

「押し付けるって魔獣をか?」


「客から聞いた話だけで詳しくは知らない。

 ただティーカップ・テディベアをかけたデュエルを申し込んだヤツがいてな。

 そしたらあそこのクランマスターが来て、ぼっこぼこにした上に身ぐるみをはがされて、晒し者になったらしいぞ。

 つまりあの子は何も知らずにデュエルを申し込ませる囮なんだよ」


「うへっ! それひでぇ。

 相手が『冷血魔族』なんて、そりゃ無理だよな」

 ルカが顔をしかめる。どうやら彼は魔族が嫌いなようだ。



 コナーはエリーを脅しても彼女の魔獣が手に入らないことをその一言で理解した。

 

「学費も莫大で借金してるって話だぜ。

 だから魔族にあごで使われてんだ。騙されてやがんの」

「そういってやるなよ、ルカ。田舎から出てきて騙されたんだろうよ」

「でもよりによって魔族の手下だぜ」


 それを聞いたコナーは前に聞いた話や見たことを思い出した。

 ポーションも料理も裁縫も魔道具も作って、ダンジョン攻略もして、魔獣の世話をして、貴族の荷物持ちをしていた。

 子どもとは思えないほど働いている。

 金回りがいいんじゃなくて、死ぬほど働かされていると気が付いたのだ。

 エリー自身も苦学生と言っていた。



「で、何? あの子がなんかしたのかよ?」

「いや、たまたま母親と顔見知りでな。どんな子なんだろうと思っただけだ」

「ふーん、コナーの兄ちゃんは親切なんだな」

「そうでもないさ」


 コナーはルカに褒められて、なんだかくすぐったかった。

 親が死んでから誰も信用できなかったが、このあか抜けない素直な少年の尊敬は悪くなかった。



 エリーから金が引き出せないとしたら、稼がないといけない。

 金にならないなら、マリアを警吏に突き出そうと思った。

 しかし彼女は今この国にいない。


 騎士団も冒険者クランも信用が置けないとしたら突き出すならカイオス・タイラーがいいだろうとコナーは考えた。

 自分の実績のためにもルカの指導をして、カイオスの信頼を勝ち取り、マリアを売る。

 ついでに退学になったエリーをどこかへ売り飛ばせば、多少の小銭にはなると算段した。


 そのためにも王都にいなくてはならず、金が要った。



「ルカ、お前、ランクアップしたくないのか?」

「そりゃしたいけど……、カイオス様が攻略はまだ早いって」

「12だろ。俺はその時分じゃダンジョン潜ってたぜ」

「でもさすがにおいら一人じゃなぁ」


「俺が一緒に潜ってやろうか?」

「えっ、マジで?」

「ああ」

「いいのか? おいら金払えねぇぜ」

「これからも旨い飯屋やいい防具屋なんかの情報くれればいい」

「ホントか! やりぃ~。あんがとな、コナーの兄ちゃん」



 そうしてコナーとルカは一緒にダンジョンに潜ることになった。


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『常闇の炎』は決してブラックではありませんが、エリーの基準がクランの幹部の方々なのでいっつも働いています。

クララさんはワーカホリック気味です。仕事が好きな人。


エリー自身は楽しんで働いていますし、従魔たちが良く助けてもいますが、外から見ると十分オーバーワークです。

ブラッククランで働かされていると、思っている人も少なくないです。



冒険者のランクアップ


Fランク……登録し、講習をうけたらなれるが、決められた期間に採取と討伐の納品を終えないと冒険者資格を剥奪される。



Eランク……駆け出しだが冒険者に認められる。必要数の採取と討伐を終えないといランクアップできないが、資格はく奪はされない。


マリウス、ジョシュ、アシュリー、今回出たルカはいまココ



Dランク……必要数の採取と討伐、それから下のランクの引率か講習を行うことでランクアップする。

この討伐の中に対人戦が出来ることが必要で、賊の討伐及び捕縛をしなくてはいけない。


エリーは賊の討伐は行っているが、そのほかの成績が足りていないのでいまココ。

孤児院の子どもたちと下水道に一緒に行ってるのも実はカウントされているが、エリーはわかっていない。



Cランク……必要数の採取と討伐、それから下のランクの引率か講習を行うことでランクアップする。

このランクから護衛の仕事ができるようになる。

大体の冒険者はここ止まり。


コナーはいまココ。


ハルマとシンディは格上の魔獣を討伐したことで特別功績が認められてBランクに上がっている



Bランク……必要数の採取と討伐、それから下のランクの引率か講習を行うことでランクアップする。

ここからは指名依頼を受けられるようになる。

あとクランを作ることも可能だが、たいていは大手クランに所属する。

討伐内容はかなりレベルが上がるので、これより上に上がるためには特別な功績が必要となる。


例えば未踏破ダンジョンの攻略など。

ハルマやマリアが行ってAランクに上がっている。



Aランク……これ以上にランクアップするためにはスタンピードを食い止めるや、エンシェントドラゴンを討伐するなどの国難を救うような英雄的行為が必要になる。


もっともSランクに近いのはカイオスだが、国難といわれるほどの問題が起こっていないのでそこまでの功績は立てていない。


『常闇の炎』の5人はランクアップしたくないのでここで足踏みしている。



Sランク……国を救うような英雄的行為をした冒険者に与えられる栄誉。お金も貴族位ももらえる。もらえる爵位は功績による。


貴族になるのでヴェルシアのスキル判定を受けなければならない。

国から特別任務を与えられたりする。


ビリーは常に王都への魔獣の侵入を抑えていて、そのことを知る貴族から時々推薦されるので困っている。

その貴族たちの目的は、爵位を与えてビリーたちを顎で使うためだから。

それでローザリアの護衛をし、エリーと出会った。


なんて設定があります。

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