第374話 エリーのお支度


 とうとう学院祭のダンスパーティーの日だ。

 学院祭は2日間行われて、私の出席する2と4学年は土の日、3と5学年が光の日に行われる。

 私は今日しか出ないから準備を全部セッティングして、明日の受付をするヒトに引き継がないといけない。



 

 学院のダンスパーティーはまだ成人していない生徒がほとんどなので、昼食会として行われる。

 ただしドレスコードは夜会用に準じる。


 ドレスを汚さないため軽食ばかりだが、最後のデザートには素敵なケーキが出る。

 試食させてもらったが、すごくおいしかった。

 そのケーキは家政学部コック科5年の主席の生徒が作ったそうだ。

 そのヒトは素晴らしいコックになるだろう。



 会場ではなにかと忙しいのでほとんど食べられないだろうけど、あのケーキだけは絶対食べようと心に決めていた。

 まだ子どもでコルセットではないから普通に食べられるし、自分で着替えられる。

 子どもって素晴らしい。




 それでいつもより早起きして、食事とお風呂をすませた。

 風魔法で髪を乾かし、ビアンカさんに教わったフェィシャルマッサージをする。

 血行が良くなって顔色が冴える。


 めったにしないけど、今日は化粧もする。

 かるく頬紅とリップグロスをしただけだが、雰囲気はかわる。

 アイメイクやおしろいは使わない。子どもには仰々しすぎるから。

 眉の形はビアンカさんに会うたびに直されるので、いつもきれいになっている。



 メイクのあとは髪を整えてドレスを着る。

 私はクローゼットにしまっておいたドレスを取り出した。

 このドレスもビアンカさんと裁縫室のお姉さま方の力作だ。


 ビアンカさんがリュミエラ様の糸をルベライトという赤い宝石で染めたい言っていたのだが、そんな高価な素材を使ってもらうわけにはいかない。


 まず宝石と糸が高いし、それを染めるのは錬金術師が必要だ。

 石の色を抽出、糸に定着するには錬金窯が不可欠で、さらに糸を紡いで織って、デザインして、縫ってとたくさんの工程を経て出来る。



 本来ならソフィアに納品した刺繍のドレスだってもっと高価になるはずだ。

 私が錬金窯を持つ錬金術師の卵で、なおかつドレスのすべての工程を請け負える職人見習いだからまだ安価に作れるだけなのだ。

 全部リュミエラ様の糸のドレスを、聖女であるソフィアだって着られないのに私が着るなんて恐れ多すぎる。


 それでも付与が出来るから狙われがちな私の安全性が高まると言われて、仕方なくドレスの下に履くパニエをリュミエラ様の糸で作っていただいた。

 いや充分高価なんだけどね。

 素晴らしく軽く肌触りのいい、美しいレースとフリルのパニエだった。



「エリーちゃんは色が白くてかわいいから、この青緑色の瞳にクランベリーレッドが良く映えるワ。とっても素敵ヨ」

 このようにビアンカさんのお墨付きをいただいた。



 私は子ども体形なので、リュミエールパッドで胸元を強調しない。

 鎖骨がきれいということで襟元は横長のラウンド型のバトー・ネックにした。

 胸元から肩まで続きのフリルになっていて、そのままケープ袖になったものだ。

 お胸がないことを気にする人は多いが、その分フリルやレースを多用できるのが利点だと言えよう。

 コルセットの代わりに背中をリボンで編み上げて、ダボつかないすっきりとしたシルエットになっている。



 今年の流行は薄い色合いで、秋っぽいサーモンピンクや紫色が人気だそうだ。

 逆に濃い色合いは少ないらしい。

 それでも上位貴族の誰かとかぶりそうなものだが、ドレスの色被りはご法度でその辺は抜かりなく違う色になっている。



 今は長袖が流行っていないので手首の聖属性の杭を外さなければならないが、代わりにももにガーターリングで止めた。

 このガーターリングが素晴らしい逸品で、ターシャさんが私の紋章のマートルの花をレースと刺繍で作ってくださったのだ。

 ヒトにお見せできないのが残念なくらいだ。

 そしてポケットの中のボタンを外すと杭に手が届くようにできている。

 普通はドレスにポケットはつけないけどね。

 

 一応このポケットにマジックバッグを縫い留めてある。

 杭をここに入れればいいと思うけど、私の手芸の神であり、師匠であるターシャさんの逸品をつけないという選択肢はなかった。



 髪は短いので、少しピンでまとめてドレスと共布のコサージュで飾った。

 これで毛足が見えず、アップスタイルの代わりをしている。

 最後にかかとの高いダンスシューズを履いて完成だが、仕事があるので編み上げブーツを履いてゆく。


 

 

 アクセサリーは染物に使わなかったルベライトのチョーカーを首に巻く。

 リボンベルトに石がついたシンプルなものだ。


 白の長手袋をはめて、出来上がり。



 最後に鏡を見て、しっかりとおかしくないかチェックをする。

 ビアンカさんはいいと言ってくれたが、派手な色なので少し気後れした。


 ちゃんと似合っているだろうか?

 



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ちょっと違うんですが、エリーのドレスの襟元のイメージはこんな感じ。

https://item.rakuten.co.jp/color-story/xnpj005/


エリーはオフショルダーにはしません。


ルベライトはこんな色です。

https://karatz.jp/about_rubellite/

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