第372話 コナー②


 エリーのことを調べ始めたら、簡単に接触できると思っていたのにしばらくは全然捕まらなかった。

 朝に教会に行っているのは前にマリアが話していたので知っていたが、他に移動しているのをあまり見かけないのだ。



 学校の女子寮で張ることは出来なかった。

 警備がひどく厳しいからだ。

 去年、魔法学校の生徒を狙った誘拐事件が起こっていたせいだという。


 教会も同じだった。

 人の出入りは多いが、近くにいるだけでしょっちゅう声をかけられる。

「神はいつだって私たちを見守ってくれています。

 いつでも相談にいらしてください」

 教会とは悩めるものが訪れるところだからか、おせっかいが多すぎた。



 だがやっと冒険者ギルドの無料剣術指南を受けていることをコナーは掴んだ。

 でも全然一人にならない。

 とにかくいろんな冒険者に声をかけられてかわいがられている。

 1人になったと思ったら、少し目を離したすきに消えてしまう。

 なぜだかわからなかった。



 エリーのファンだという口の軽い冒険者に酒をおごって聞いてみたら、転移のできる魔獣をテイムしていてそれで移動しているという。

「あの子、スゲーんだぜ。

カーバンクルにティーカップ・テディベア、ケット・シー、セルキーまでいるんだ」


 コナーは最近までルエルトにいたので、セルキーがどれだけものすごい魔獣なのかよく知っていた。

 美しく、知能の高い、人化もできる、誇り高い魔獣だ。

 どんなに金を積んでも手にすることが出来ない魔獣をテイムしていることが信じられなかった。



「ポーションでも料理でも裁縫でも超一流。魔道具だってバンバン作るんだ。

『常闇の炎』でエリー印のポーションが出たら、割高でも絶対買えよ。

 同じポーションでも、味も旨くて日持ちも効果も倍だからな」


 余りに効力が違うので同額で売らず1.5倍の値段で売っているそうだが、本当にヤバいときに飲んで助かった冒険者は後を絶たないという。



 そしてやっと教会ダンジョンに行ったことを突き止めた。

 ティーカップ・テディベアを肩車していた話がギルドで噂されていた。

 もはや幻の魔獣となりつつあるティーカップ・テディベアを目にできるのはエリーの従魔だけだからだ。



 翌日エリーが小さな男の子を連れて、ものすごい量の荷物で換金に来ていたのに、ギルドの窓口嬢がおののいていた。


「エリーちゃん、これ全部換金するの?」

「はい、えっと友達と4等分します。

そこからこの金額をひいて各自の口座に振り込んでいただけますか?

 あとは全部私のところに入れてください」


「ふーん、魔道具売ったのね。何作ったの?」

「花粉を吸わないための覆面です。20階の必需品ですよ」

「えっー、なにそれ。気になる!」

「ごめんなさい。魔道具の詳しいことはクランを通してください」

「もう教えてくれたっていいじゃない」


「そうだ、あとコレも換金していただけますか?」

「うわっ、何なの、このとんでもない量の魔石は?」

「えっと、ちょっと助っ人が強くてですね。20階の魔獣全部倒しちゃったんです」


 そう言って窓口嬢に耳打ちしたら、ひどく納得していた。

「それはしょうがないわね」

「そのお金はさっきのとは別に私の口座に入れてください。

 しばらく私が預かることになってるんです」

「はいはい、了解。これからも頑張ってね」

「うーん、ダンジョンはなかなか行けそうにないです」



 エリーがすまなそうに言うと、窓口嬢はガックリと肩を落とした。

「エリーちゃんが卸してくれる魔獣素材は、きれいに解体してあって高値で売れるのに~」

「うふふ、ミラが頑張ってくれるんですよ」

 すると男の子のカバンから、ミィと鳴き声がした。


「あら、ミラちゃん。そこにいるのぉ。お姉さんのとこにおいで」

「あの……後ろのヒトもいますし、今日は遠慮させてください」

「ああん、もう! エリーちゃん、真面目! 次はよろしくね」



 コナーに鑑定スキルはなかったが、魔石を除いたのを安く見積もっても60万ヤン以上の収入があったと見た。

 それが4等分でも15万以上。

 1度の攻略でそれほどの収入があるなら、エリーの金回りは決して悪くない。

 クランに所属しているのはややこしいが、学生ということはまだ仮の身分だ。

 それほど出張ってくるとは思わない。



 コナーは今までは装備を奪ってきたが、今回の目的は恐喝だ。

 母親がお尋ね者なら、エリーの将来は確実に閉ざされる。

 この話が正確かどうかは問題ではない。

 要はエリーに本当だと思いこませて、金を出させればいいのだ。

 搾り取れるだけ搾り取って、エリーを売り飛ばす算段までした。


 整った顔立ちに所作が美しいから、確実に高値で売れる。

 残念ながら貧相な体つきだが、子どもにしか欲情しない変態には受けるだろう。

 エリーの意志ならば従魔たちも全部売ることが出来る。

 卵から返した魔獣を無理に引き離して早死にしようが、金になってしまえばどうでもいい。

 ティーカップ・テディベアなら1億は下らない。

 口元が緩むのを抑えるのがやっとだった。



 それで声をかけた。

 エリーも初めは他の冒険者たちに見せるのと変わらぬ様子で警戒していなかった。

 しかしコナーが顔を貸してくれと言っただけで、突然警戒し始めた。

 大したことじゃないと言っても、態度は頑なだった。

 その様子を見て、Aランク冒険者のハルマに止められた。


 ハルマはコナーにとって鬼門だった。

 コナーが殺した冒険者の弟分とつるんでいるのを見たからだ。

 案の定、エリーはギルドの剣術指南には来なくなった。



 それでコナーは学校を張ることにした。

 学校はヒトの出入りが多いので、教会や女子寮ほど警備は厚くなかった。

 張っていると簡単に見つかった。

 時折放課後に、比較的質素な貴族の馬車の御者台にいた。

 いつも王立魔法学院へ向かっていて、荷物持ちをさせられている。


 それで学院の方で張っていたら、やっと接触できる機会を得た。

 馬車で出てきたが、すぐ近くの花屋に入っていったのだ。

 しばらくして貴族たちだけが馬車に乗り、エリーは1人になった。



 コナーはチャンスに心躍った。

「みーつけた」

 そう言って腕を掴んだと同時にポケットに魔石を入れた。

 もし逃げられても、スリの冤罪を擦り付けて絶対に言うことをきかせる罠を仕掛けたのだ。


 逃げられたものの、この罠がうまくいくはずだった。

 示談にするといえば言うことをきくはずだ。

 この罪自体も恐喝のいいネタになる。



 なのに貴族の横やりが入ってしまった。

 中立のはずの冒険者が、釈放せざる得ないほどの後ろ盾がいるということだ。

 しかも次の王都警備の輪番はエリーが仮とはいえ所属する『常闇の炎』だ。



 いったいあの小娘に何があるんだと、余りにもうまくいかないことにコナーは酒をあおるしかなかった。


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 エリーのファンという冒険者はいろんなパターンがあります。

 エリーのポーションや魔道具のファン、エリーの従魔がかわいいのファン、エリー自身が気さくで話しやすいファンなどなど。

 みんな温かい目でエリーたちを見ています。


 セクハラタイプは、こういうファンたちが排除しています。

 ポーションが流通しなくなったり、従魔たちが姿を見なせくなったら嫌ですから。


 エリーは魔法学校に通っているので、いつでも冒険者を辞められるのをみんな知っているのです。

 とっても貴重な存在なのです。



 エリー印のポーションが販売されていることをエリーは知りませんが、ビリーはちゃんと買取価格を高くしています。


 マリウスたちは、エリーが上質なポーションを友達価格で売ってくれるので買っていましたが、ジョシュに騎士団で同じようなポーションが飲めるとは限らないと指摘され、最近はまずいポーションを買って慣らしています。


 ちょっとした裏話。

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