第381話 三人の王位継承者
先王が呪われたということは大変な醜聞だ。
こういう話は広げない方がよいが国王命令のため、リカルドは3人の王子、王女たちに話すことにした。
国王が言っていた呪詛を他者にうつすとしたら、この3人が一番有力になる。
知って覚悟を決めることで、術を受け入れやすくなると考えての命令だろう。
本当は国王が一番血が近いので最有力候補なのだが、きっと自分の命を捨ててまで
ただ呪詛をうつすなど、禁呪になる。
リカルドは延命措置のためできないし、賢者であるフジノ師は鑑定能力が高いだけ、ハインツ師は戦闘能力、レント師は錬金術特化だ。
実際のところ、そのような禁呪を使えるものは限られてしまう。
リカルド自身は出来るかもしれないがやりたくなかったし、他にできそうな人物となると、やはり魔族しか思い当たらなかった。
3人の王位継承者は皆ダンスパーティーの支度のまま、1つの談話室で固まってリカルドを待っていた。
「「「リカルド!」」」
全員が立ち上がり近寄ってこようとしたが、リカルドはいつものように冷静な態度を崩さなかった。
「おはようございます、シリウス殿下、エドワード殿下、ディアーナ殿下」
「その、おじいさまは?」
ディアーナの問いかけにリカルドは答えず、側にいた侍女たちにお茶と着替えの用意を命じて全員下がらせた。
「先王陛下は決して良くありません。強い呪詛をかけられ、意識がございません」
「そんな……」
「父上は?」
シリウス殿下がすこし焦ったように言った。
「国王陛下は打開策がないか探っていらっしゃいますが、私の見立てでは難しいと思われます」
「呪詛ならば、解呪できるはずだ」
「はい。
ですが先王陛下が即位の時に神より授けられる本当の名前を使われています。
ご本人とその近習しか知らされない名前です。
そのため呪いが魂に刻み込まれてしまったのです。
あとは術者に解呪させる方法しかありません」
「ならばそのものを見つけ出せばよい」
「まだ呪詛の解析が出来ていませんし、術者も不明です」
「なぜそなたがやらぬ?」
「私には別の務めを言い渡されました。
とにかく皆様、落ち着いてくださいませ」
準備が整ったので、3人はダンスパーティー向けの装いから着替えて、お茶を飲むことになった。
侍女たちがお茶を注ぐと、リカルドは侍女全員に席を外すように言った。
「皆様、お辛いとは思いますが、どうかお力落としのないように。
私もこれからできるだけのことはさせていただきます」
「……どうするというのだ」
「まずは先王陛下の元にソレイユを侍らせます。
少しですが『癒しの光』で苦しみが緩和されることでしょう。
同時に3人の賢者が呪いの解析をいたします。
そして陛下の手の者が術者を捜索いたします。
先王陛下の近習である祖父は亡くなっておりますので、真の名を知るものは限られます。先王陛下がお心を許されたお方でしょう。
その線から探すのが一番早いのではないかと存じます。
まだ生きていれば解呪できますし、他の方々を呪わないようにできます。
ただ私は王都から出られませんので、ヒトを派遣することになります。
そのためにも陛下には王城の門を開けていただかなくてはなりません」
「そのようにすぐに父上に進言しよう」
「ありがとう存じます。シリウス殿下。
先王陛下のことはまだ伏せておいた方がよろしいかと存じます。
ですので学院でのダンスパーティーは開催させた方がよろしいでしょう。
皆様が出席できないのは、100年に1度くらいある王城の防御魔法の誤作動のため、魔力のあるものは全員出られないということにしましょう。
その手配もよろしくお願い申し上げます」
お茶を飲み干すととリカルドは手紙を書かなくてはならないと席をたった。
シリウスも立ち去り、後にはエドワードとディアーナだけになった。
「ディー」
エドワードは慰めるようにディアーナの肩を抱いた。
「ディーの予言、
ほら、王族の誰かに危険が及ぶってヤツ」
「うん……」
「大丈夫だよ。いつもみたいにリカルドが何とかしてくれるさ」
「エドったら、ちょっとはリカルドのことを考えてあげてよ。
『癒しの光』には恐ろしく力がいるんだもの。心配だわ」
「うん、だから私たちはリカルドに面倒かけないようにするのはどうかな?」
「それは当たり前ね」
エドワードは困った様子でつぶやいた。
「ソフィア、大丈夫かな?」
「どうしてソフィアが出てくるのよ」
「だって今回の件は大っぴらに出来ないから、ダンスパーティーは行われるだろ。
でも彼女のパートナーは全員ここで足止めされてるからさ」
「そうだけど、そんなことよりやるべきことがあるはずだわ」
「例えば?」
「そうね、王室の禁書庫で解呪の方法を見つけるとか」
「そういうのは、リカルドが知っているよ。
彼は禁書庫の出入りを認めてもらっているから」
「……じゃあエドはどうしようというの」
「いつも通り過ごすだけさ。私たちがイライラすると周りに波及するからね」
「そうね、リカルドの足を引っ張らないようにするのは重要よね」
「ディーは本当にリカルドが好きだねぇ」
「もー、うるさい!」
ディアーナはイラついてエドワードの髪の毛をぐちゃぐちゃにしたが、それはいつものことなので気にしなかった。
彼は何もしないことが、勘繰られずに情報漏洩を防ぐのがわかっていたからだ。
リカルドに頼りすぎていることはわかっていたが、今はやはり頼るしかなかった。
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