第382話 ディアーナの思い


 祖父の呪詛について何もできないことにディアーナは落ち込んでいた。

 エドワードはディアーナの予言があたったと言ったが、ディアーナにしてみれば外れたと感じた。

 本当はシリウスが矢傷を受けて死んでしまうはずだったからだ。

 もちろん死んでほしくなかったから、警備を厚くしていたのだ。



 ディアーナは転生者だった。

 彼女の前世はスポーツが好きで陸上をやっていたが、アニメやゲームも好きなごく普通の中学生だった。

 姉の影響でちょっぴり腐っていただけだ。



 中学に入学すると、隠れ腐女子だったディアーナに同じくスポーツの得意な親友ができた。

 親友は初め腐っていなかったが、ディアーナの熱心な布教活動の結果、すっかり感化されいつも熱く語りあっていた。

 一緒にコスプレしたり、ディアーナが小説を、親友がマンガやイラストを描いたりで薄い本まで製作していた。

 毎日が楽しくて充実していたが、恋をしたことはなかった。



『あいササ』を始めたのは、そんな時だった。

 友達の親戚に似ている人がいたからだ。

 その中でも推しはリカルドだった。

 もちろん、BLの攻めとしてだ。

 ゲームのリカルドはヒロインと幼馴染のサミー以外には冷たかったが、その分攻略が進むと溺愛気質のスパダリ要素が満載だったからだ。



 だからこの「あいササ」の世界に転生して、本物のリカルドに会ったときの感動と言ったらなかった。

「ショタリカ、尊すぎます。生まれてきてくれてありがとう」

 ショタリカと呼ばれて、リカルドは少し眉をあげたがすぐに気を取り直したようだった。



「サミーはどこにいるの?」

「サミュエル・ダイナーでございますか?

 今回は王宮には連れてきておりません。

 なぜ彼をお知りになったのですか?」


 ディアーナが紹介されていないサミーの話をした時のリカルドの不思議そうな顔といったら!

 スマホで撮影して親友と共有するのにと、彼女がいないことが本当に寂しかった。


 エドワードは兄なので、同じ名前だなと思っていただけだったが、リカルドの幼いながらの怜悧な美貌を見てはっきりと自分が転生したとわかったのだ。



 そして本物のリカルドはゲーム以上にすごい人物だった。

 ゲームでは妹が死ぬことで冷酷な人物になってしまうが、彼は自力で妹を救い出し、冷酷にはなっていなかった。

 5歳の時に出会ったが、すでに勉強も魔法もなんでもできてパーフェクトだった。

 その年で大人並みに仕事をし、自分たちの世話役にもなっていた。

 

 そして本当の父や母、乳母や侍女よりも、彼はディアーナを見てくれた。




 王女として、しとやかで完璧な女性を目指せと言われたディアーナだったが、それは本来の活発な気質とは真逆だった。


 みんなの手本になれと言う、そんな立場はディアーナには重荷だった。

 だけどリカルドはそんな彼女の悩みを見抜き、彼女の心身の健康のために武芸を身に着けることを勧めてくれ、親や教師たちを説得してくれた。

 おかげで乗馬も剣も弓もさせてもらえた。



 彼女の書く素人小説も読んでくれた。

 お気に入りの近衛騎士をモデルにしたものだ。

 もちろんBL要素満載だったのでおかしな顔をしていたが、それでもちゃんと感想を述べてくれた。

 厳しいことも言うけれど、ゲームと違う他人を気遣える優しい少年だった。


 だから好きになった。

 前世ではできなかった恋をしたのだ。



 乙女ゲームの話をちゃんと聞いてくれたのもリカルドだった。

 初めは小説の話だと思って信じていなかったが、ユリウスとローザリアの事件をきっかけに信じるようになった。

 回想シーンで語られるだけの逸話に、いつごろ起こると年表を作ってくれたのも彼だ。


「ディアーナ殿下、この内容は予言という形で王家に伝えるのです。

 ゲーム終了までの間、あなたの予言は重要視され、あなたは重用されるでしょう。

 でもあまり具体的にすると、殿下が起こしたようにも見えますので、ぼやかして言うのです。

 そしたらご自分が嫁ぎたいところに嫁げるかもしれませんよ」



 ディアーナもいずれは誰かに嫁ぎ、子をなすように教育されていた。

 けれど彼女は現代日本での価値観を引き継いでいた。

 国民の期待を背負っている義務もあるけれど、どこか自分の選んだ人と結婚すると思っていた。

 その気持ちにも気がついていたのだ。


 だが一番嫁ぎたかったリカルドの元には嫁げなかった。



 クライン伯爵家は元王家で、今も王家でもおかしくないほどの尊敬と権力を握っていた。

 だが王家としてはそんな家を捨ておけるわけもない。

 そのために近習として忠誠を誓うよう、王と当主の間で個別の契約を行っている。

 その中にどちらかの家に光の精霊の加護または祝福が途切れた場合にだけ婚姻を結ぶが、それ以外は認めないというものがあった。


 これは2つの家の血が濃くなってしまって、本当に必要な時に婚姻できなくなっては困るからというのが理由だ。

 そして今王家もクライン伯爵家も光の精霊の祝福や加護を持っている。



 だからディアーナは女王になりたかった。

 力をつけて、結婚はできなくてもリカルドに側にいてほしかった。

 エヴァンズに通って騎士としての力をつけようと思ったのもそのためだ

 エドワードはそんなディアーナの気持ちを知っていて、臣下に下ってもいいと言っていた。



 だがシリウスはちがった。

 彼は母親前王妃を亡くし、今は権力から遠ざかっているが、そのせいかリカルドを心の支えにしていた。

 リカルドはディアーナだけでなく、シリウスやエドワードのこともよく見て、いいところを認め伸ばすようにしていたのだ。


 だから王位を求めていたし、認められるために積極的に行動していた。

 令嬢たちが王妃としてふさわしい存在か、周りの生徒が臣下として力を発揮できるかそういう目線で動いているのを知っていた。

 ソフィアがシリウスを恐れるのは、彼の目線が王妃としての及第点を取れているかどうかを見ているからだった。



 実際のところ、シリウスもディアーナも五十歩百歩といったところだった。

 シリウスは能力があるのだが、人を使うのが下手だった。

 ディアーナは人気があったが、本人の力をあまり認められていなかった。

 エドワードはやる気がないが、可もなく不可もなくで一番有力視されていた。


 誰が選ばれるにせよ、リカルドがいれば安泰だと思われていた。


 王族たちの意識が低いのは、事なかれ主義で父親先王にべったりだった今の王の影響だった。


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ショタリカ……ショタのリカルドです。


この作品でBL展開はございません。


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