第377話 ダンスの相手


 生徒会のみなさまと教師陣が集まって協議している。

 授業の一環とはいえ、主役である殿下方が来ないということは、パーティーを開催してよいものなのだろうか?



 すると王城から使者様が来られた。

 100年に1度くらいある、王城の防御魔法の誤作動のため、魔力のあるものが全員出られないというのだ。

 殿下方やクライン様、ダイナー様は出席できなくなったが、問題があるわけではないのでパーティーは開催してもよいとのことだった。



 でもほぼ主役の方々が出席されないので、ちょっと盛り上がりに欠けるもの事実だ。

 シリウス殿下がされるはずだった開会宣言を学院の先生がされて、とりあえず1曲目が始まる。

 私はダイナー様がいないのでお休み。


 ハッ! 忘れてた、あと一人誘わないといけない。

 でもアシュリーは全曲埋まっているって言ってた。

 メルだ! 彼に頼もう。


 こういう時に生徒会を手伝ってよかったと感じた。

 全ての座席が頭入っているからだ。

 それでメルのテーブルの方に目をやると、その先のテーブル席に座るソフィアの姿が目に入った。



 ああ、そうか。

 ソフィアも私と同じでお相手が来ていないんだった。

 いや、全員いないんだ。

 しかも他の男子と踊ったら不貞って言われるんだよね。


 そうだ。お兄さんがいるって言ってた。


 ソフィアは教会に入ったので姓はない。

 だけど元平民だからお父さんの名前にセンかゼンがつく。

 いや、聖女を輩出したから確か騎士爵と姓をたまわったんだった。

 えーと、確かウィトリーだ。

 お兄さんの名前は知らないけど、座席表の中にウィトリーという名前は1人しかいなかった。



 ジャイルズ・ウィトリー。たしか魔法士学部4学年だったと思う。


 テーブルを見てみると、彼の席に座っている生徒がいる。

 ソフィアと同じ茶色の髪の少年だ。

 顔もちょっと似ている。


 座っているということは、つまり今ダンスのお相手がいないんだ。

 きっとソフィアのお相手がいないことに気が付いていないんだろう。

 私は立ち上がって、彼のテーブルに近づいていった。



「あの、ジャイルズ・ウィトリー様」

 彼は見も知らぬ私の呼びかけだからか、嫌そうにこちらを見た。

「何か用?」


「私はエヴァンズ魔法学校2年のエリー・トールセンと申します。

 ソフィア様には親しくしていただいております」

「俺はソフィアとは関係ないから。

 ゴマすりたいなら、本人のところに行け」


「そうではありません。

 ソフィア様のお相手の方々がご都合が悪く、全員パーティーを欠席されたんです。

 先ほどそのことが判明したところですので、ウィトリー様にお伝えしなくてはと思ったのです」


「なんで俺に」

「その、ソフィア様は王族の方か、教会の方か、クライン伯爵家のご令息様、そしてソフィア様のご家族以外の男性とは踊れないと伺っております。

 ですのでお伝えしなくてはと思ったのです」


「俺はソフィアとは踊らない」

「えっ?」

 驚いて声を出してしまった。



「アンタ、兄弟は?」

「残念ながらおりません」

「俺、アンタ知ってるぜ。

 ものすごく優秀で男にもモテて、クライン伯爵家に仕えてるんだろ」


「いいえ、全くモテません。

 私は冒険者で、クライン伯爵家ではなくリカルド・ゼ・クライン卿とソレイユ様に一時的にお仕えしているだけです。

 これは私が苛めに遭ってしまったことによる救済処置であり、学生の間だけでございます」



「優秀だってことは否定しないんだ」

「優秀かどうかは自分では決められませんが、現在の成績はリカルド卿についで次席です」

「俺は魔法士学部でトップなんだよ」

「それは素晴らしい成績ですね」


 貴族を押さえてトップということは、学力だけでなく実技もすごいということだ。

 当然、半端でない努力もされたことだろう。


 すると彼は少し黙った。

 どうして黙るのかわからなかったので、私は彼の言葉を待った。



「なるほど、アンタは聖女の兄だからだとは言わないんだな」

「ウィトリー様はソフィア様のお兄様でいらっしゃいますが、それと素晴らしい成績なのは別の問題だと存じます」

「俺はな、どんなに頑張っても何をしようとも全部聖女の兄ってことで終わってしまうんだよ。

 別に聖女の兄になんかなりたかったわけではないのにな」


「それはそういうことをおっしゃる方の認識が誤っておられるだけです」

「一人っ子だとわからないんだよ。誰とも比べられないからな。

 この国で最も神に近い女を妹に持ったら、いや家族にいるだけでどれだけ比べられ、軽視されるか知らないんだ。

 いいことをしても聖女のおかげ、ちょっとでもドジを踏んだら聖女の兄のくせにとそしられるんだ」



 そう言われると何も言えなかった。

 私はソフィアの家族だから優秀でないといけないなんて思わないし、失敗しないヒトなんていないからだ。


「とにかく俺はソフィアのことはもううんざりなんだ。ほっといてくれ」

 そう言って彼は席を立ち、近くの女性を誘って行ってしまった。



 ああ、これは私の失敗だ。

 ソフィアがお兄さんと踊らないと聞いていたのに、おせっかいを焼いてしまったせいだ。

 でもこのままではソフィアが踊れない。



 そうこうしているうちに1曲目が終了した。

 次の曲はジョシュと約束している。

 私はジョシュの元に急いだ。


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