第364話 おやつの時間
翌日、クライン様がニコニコしてオスカー様とレオンハルト様の話をしてきた。
「モカ君の貸し出しの件は、大変喜んでくれたよ。
ただ1週間ほど借りるかもしれないということで預かり証を書いてもらったよ」
「ありがとうございます」
お二人のことを信頼しているが、お忙しい方々だ。
急な仕事でモカを別の人に預けるかもしれない。
預かり証があれば、他の方が担当されても返していただける。
内容はどちらかといえばお礼状だったけど。
「それとオスカー殿から次はポテトチップスを頼むとのことだ。
別の塩辛いおやつでもいいそうだよ」
オスカー様、そんなお使いを恐れ多くてクライン様に頼めません!
今回は特別なんですから。
授業が終わった後、クライン様は私を馬車に乗せてくださった。
帰りも送っていただくことになり恐縮したが、コナーさんの件が収まればまた普通の生活に戻ることが出来る。
それまでの我慢だ。
別館に着いたら、私は厨房でプリンの製作に取り掛かった。
プリンはジャッコさんにミルキーウェイカウの牛乳とバターを注文して材料を用意した。
何しろ、ソルちゃんから預かった魔石では一生分のお菓子が作れそうなんだもの。
バターを塗った型にカラメルソースとプリン液を注いでオーブンに入れる。
鉄板に少し水を入れて蒸し焼きだ。
次は作り置きしたモリーの形をしたりんごゼリーをマジックバッグから取り出す。
このりんごゼリーは、りんごの果汁に青い食用染粉を入れた水色のゼリー液にモリーの核に見立てた白いキャンディーを中心に埋め込んで固めたものだ。
キャンディーを中心にするために2回に分けてゼリー液を冷やすのがポイントだ。
モリーに似たスライム型は売ってないので自分で作った。
以前のモリーは小指の第2関節くらいの大きさだったが、今ではもう少し大きくなっている。
丸だとコロコロ転がるので、下の方がスカートのようにひらひらして滑るように動くようになったのだ。
クランの細工部屋に行くと、端材の金属がたくさんある。
それで一番金属として安定しているミスリルを買ってきて、錬金した。
ミスリルは熱にも衝撃にも強いし、何より魔法で加工しやすいので錬金術に向いている。
高価な材料だったけど、リュミエールパッドの最大の功労者はモリーだから惜しくはない。
初めてこのゼリーを作ってモリーにプレゼントしたら、あまりにそっくりなので喜びに打ち震えてくれた。
(もったいなくて、たべられません)
「もったいなくないよ。いつでも作るから、しっかり食べてね」
ゼリーに食いつくモリーを見ると、ちょっと共食いにしか見えなかったが美味しかったようだ。
(スライムとちがって、あじがします。りんごあじ、おいしいです)
モリー、スライム食べるんだね……。
そんな自信作のりんごゼリーをソルちゃんの前に出した。
全員分のゼリーを白い皿の上に乗せると作業台の上でモリーがわらわらしているようだ。
(すごーい! モリーがいっぱいー)
ソルちゃんも気に入ってくれたようだ。
(モリーもおさらにのってー)
それで白いお皿にモリーも乗せる。
モリーは賢いので全然動かないでいる。
知らないと全然わからないと思う。
(みんな呼んでくるー)
ソルちゃんに呼ばれてクライン様、ダイナー様、エマ様が厨房に入ってきた。
「エリー君、すごいね。この型作ったの?」
「はい、ミスリル製です」
「太っ腹だね」
クライン様は遠慮なくゲラゲラ笑う。
私のつくったものがユニークだとよく笑われるのだ。
この方のどこが冷酷無比なんだろうか?
でもまどかさんには結構厳しい対応だったけど。
ダイナー様もニコニコしていて、エマ様はびっくり顔だ。
(エマ、このなかにモリーいるよー。みつけてー)
ソルちゃんの挑戦にエマ様はお皿をフルフル揺らしたり、のぞき込んだりするけれど見つけることが出来なかった。
モリーはゼリーそっくりに揺れて、擬態がバッチリなんだもの。
そりゃ、見つからない。
それで私がスプーンの背でつついてはどうかと渡すと、エマ様はツンツンするもわからない。
エマ様はモリーを傷つけたくないので、スプーンを突っ込んだりしないのだ。
「みょりー、どこ~?」
エマ様が降参の問いかけをすると、モリーは自分からフルフルと震えた。
1人と1匹の様子がかわいくて、みんな声を立てて笑った。
モリー当てがすむ頃に、ちょうどプリンが焼きあがった。
オーブンから取り出して、氷魔法で冷たくする。
ドラゴ君だけ、熱いのも好きなのでそのまま食べることもある。
家族の中で火属性魔法が使えるのはドラゴ君だけで熱くても平気なのだ。
火といえば、みんなからこっそり聞いたのだが、モリーがソルちゃんの指導を受けて『聖なる炎』を練習しているらしい。
本当は『
モリーは私と一緒によくお祈りもしている。
なんだかまどかさんよりモリーの方が先に聖女になりそうだ。
私がそうクライン様に言うと、真顔で返された。
「もうすでにモリーの方が聖女らしいよ。
マミーぐらいなら、生まれてすぐでも倒せたんじゃないかな?
治癒魔法の方もかなり熟練してきてるしね。
そのうち欠損も治せるようになるかもしれない」
すごいなぁ、モリー。
努力家さんだものなぁ。
プリンは型ごとお皿の上に乗せて、まずはドラゴ君、ミランダ、モリーに渡し、エマ様とソルちゃんの分も用意する。
「エマ、ソル、ぼくたちの真似してね」
そう言って、ドラゴ君はお皿の下と型を押さえながらくるりと1回転した。
ミランダとモリーもそれに続く。
プリンをプリン型から外すには、遠心力を使うと簡単なのだ。
エマ様も、ソルちゃんも真似をしてクルルと回る。
外れるとフッと軽くなるのですぐわかる。
キレイに外れた。
よかった。
「エマ、おにいちゃまのプリンもはじゅしゅ!」
「ありがとう。うれしいよ、エマ」
(サミーのはソルがするねー)
「ありがとうございます」
型から出したプリンをフルーツやクリームで飾り付ける。
フルーツは飾り切りをしたものだ。
例えばイチゴは緑のへたをキレイにとって縦に切ると、ハートの形になるのだ。
他にもオレンジをフラワーカットして、バラの花のように飾る。
さらに名前の書いたネームプレートと枝のようなチョコもつける。
そして作り置きしてあったフィンガービスケットを添えて出来上がり。
これはユーダイ様のレシピブックに載っていたプリンアラモードというお菓子だ。
プリンは美味しいお菓子だが、見た目が素朴だ。
だけどこうすればパーティーにだって出せる。
ああ、とても幸せな時間だ。
エマ様が笑顔が輝いている。
この笑顔をいつまでも大切にしたい。
おやつの時間の後は、エマ様とソルちゃんはお昼寝だ。
エマ様はクライン様の指導できれいに歯を磨けるのだ。
そういうところもあの方は抜かりはない。
一応私もチェックして、寝かしつける。
ミランダとモリーは護衛に残したつもりだったが、一緒にお布団に入ってしまう。
この別館は許可なく入れないから、構わないかな?
ドラゴ君と一緒に寝室から出るとクライン様とダイナー様が待っていた。
「じゃあ、私たちはピアノの部屋に行こう」
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モリーの形状は、プルプルの丸みを帯びたアポ〇チョコがみたいな感じです。
ア〇ロチョコじゃないのでイチゴ味じゃないです。
ウミウシのひらひらみたいなのが下の方についています。
調べたらパックマンというゲームのモンスターズが近いかも。
目はありません。
参考
https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BA
色的にはアオスケが近い。カローラ乗ってるんだ……。
モリーは透き通った水色に真珠色の核を持っています。
その核を覆う液体と薄い膜で構成されています。
ひらひらも膜の変形です。動く用です。
硬度も形も大きさも自在に変態でき、バレエを踊るときは人型のシンボルマークみたいになります。
口もありませんが最近は味わうことも覚えたので、体の一部を伸ばして少しずつ取り込むように食べます。
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