第363話 御恩
クライン様とテリーさんはそれから細かい打ち合わせをした。
「コナーからエリー君について問い合わせがあったら、貴族の横やりがあって釈放せざるを得なかったことにするんだ。
君には申し訳ないが、貴族には逆らえなかった
「わかりました。次期近習様のお名前は出してもよろしいですか?」
「いや、控えてくれ。
ああ、アントニウス君やカイオス君には言ってくれて構わない」
そのあと、クライン様が言ったことに私はショックを受けた。
「この件の報酬は、クライン伯爵家ではなく私個人で支払う。
冒険者ギルドにそう手配しておくので安心したまえ」
ええっ! クライン様にお金を出してもらうなんてできない。
「どちらにせよコナーのヤツが、彼女の言うような冒険者なら排除しないといけませんからね。
それにしても次期近習様がこれほどご親切とは知りませんでした」
「エリー君は見ての通り、ソルの世話を任せられる数少ない人材だ。
ソルは彼女の従魔とも仲良くしている。
だが平民のため、足を引っ張ろうとするものも少なくない。
このような言いがかりで失うのは惜しい」
「はぁ、ちなみにそれは何人ぐらいいらっしゃるんで」
「3人だ。私とエリー君。あとの1人は聖女のソフィア殿だ」
「なるほど、それは確かに貴重ですな」
しげしげとテリーさんに見つめられて、私は恐縮した。
いえ、そんないいものじゃないんです。
これはソルちゃんと仲良しのモリーとみんなのおかげなんです。
私の膝の上でソルちゃんが、ドラゴ君、モカ、ミランダからなでなでされたり、クッキーを食べさせられていた。
みんなに心話で(ソル、でかした)と褒められている。
(エリー、おかしつくってー)
「はい、明日はいかがですか?」
(たのしみー)
何作ろうかな?
そうだ、プリンとりんごゼリーも作ってあげよう。
帰りの馬車は安全のため、御者台ではなく中に乗せられた。
「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません」
「君のスリ疑惑が公になれば、学校を退学になる可能性が高い。
そうなるとさすがに従者には雇えない。エマも悲しむだろう」
(エリー、リカのじゅうしゃやめるのー?)
「いいや、あと3年は勤めてもらうつもりだよ」
「はい、出来る限り勤めさせていただきます。
あのクライン様、今回の依頼料は私が払います」
「お金よりも身分の方が問題かな。
平民で未成年の君ではさすがにAランク冒険者を3人も雇うのが難しい。
それに君は容疑者だからね。
私は妹の為なら何でもするつもりだよ。
だからこの件は私に任せてくれ」
「ですが」
「ああ、そうだ。マドカとの『令嬢対決』をやってもらうから、その準備を頼む。
あれが出来る人間は限られている。
それで納得してほしいな」
エマ様のためとはいえ、本当にいいんだろうか?
でもおっしゃる通り、私の依頼ではテリーさんや
今回はお言葉に甘えることにしよう。
とにかく『令嬢対決』頑張ります!
「それはそうと、エリー君。
マドカが芸術対決の楽器はピアノがいいって言うんだ。
ピアノは弾いたことはあるかい?」
「いいえ。興味はあるんですが触ったこともありません」
「そう、では特訓しなくてはね」
「学校でお借りできますでしょうか?」
「いや我が家の本邸にある。それを使いなさい」
「本邸には近づかない方がいいのではないでしょうか?
以前家令の方にご注意を受けました」
「ローグだね。気にしなくてもよい。
彼は私の意思に逆らうことはしない。
しかも『令嬢対決』は王命だから、私ですら断れない。
とはいえエリー君は気になるよね。サミー」
「はい、リカルド様」
「エリー君が本邸に出入りするときはいつも側についていてくれ」
「かしこまりました」
「指導は私がする」
えっ、クライン様が?
「トールセン、リカルド様はすぐれた演奏により、陛下よりピアノを賜ったお方だ。
安心して習うがいい」
ダイナー様がにこやかに言うので、お忙しいのに申しわけないなと思ったが受けることにした。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
クライン様が
「本当はレオンハルト殿に頼もうと思っていたのだ。
ただ彼がちょっと寝込んでしまってね」
「前にお訪ねした時はお元気そうでしたのに」
「マドカがどうしてもというので、彼に音楽指導を頼んだんだよ。
でも彼女はああいう女性だし、繊細なレオンハルト殿とは合わなくてね」
ああ、まるで目に見えるようだ。
「しかもマドカはそのことを王宮の茶会で自慢したんだ。
それからいろんな女性たちから指導を受けたいという申し込みが殺到したらしく、心労が溜まったそうだ」
「司教になられたのですから、そういう煩わしさから解放されたと思っていました」
「残念だが彼は司教になりたてだ。
古参の司教に言われるとまだ断れないだろう」
ああ、お気の毒に。モカをお貸しした方がいいのではないだろうか?
モカを見ると、行くって頷いてる。
「クライン様、近いうちにレオンハルト様に面会されるご予定はございますか?」
「いいや、だがオスカー殿とは今晩会うよ。何か言付けでも?」
「図々しいのですが、お見舞いにモカをお貸ししたいと思うんです。
レオンハルト様はティーカップ・テディベアが大好きなんです」
「ああ、前にもお使いに出していたね。
そういえばオスカー殿はクマ型のお菓子をよく買っていたな。私も時々いただく。
わかった、モカ君は預かっておこう」
「よろしくお願いします」
私はモカを抱き上げて、クライン様に渡した。
「いつもながらフワフワだね。よしよし、おとなしくしてるんだよ」
そういってクライン様に抱きしめられると、モカは感動のあまり力が抜けてデロンとなった。
この間のまどかさんとの対決の時の姿に、モカの推し活魂が再燃しているのだ。
クライン様がモカをあやしているので、必然的に隣に座るダイナー様がのぞきこむ形になっていた。
最推しのお二人に挟まれて、モカは真っ赤になりブシューっと湯気が立った。
あっ、ダメだ。
限界突破して、くんにゃりした。
「おや、どうしたのかな?」
「大丈夫です。幸せを嚙みしめているだけですから」
「ふぅん?」
モカのこんな様子を見ると、平和だなっていつも思う。
ヴェルシア様、クライン様には大変なご迷惑をおかけしてしまいました。
何とかこの御恩を返さなくてはいけません。
やっぱりエマ様とのことですよね。
クライン様とエマ様の幸せをどうか見守ってくださいませ。
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オスカーはレオンにはクマさえ与えておけばご機嫌だと思い、クマのお菓子や雑貨をよく買います。
ついでにそのお菓子をリカルドにもお土産にしているので、よくもらうのです。
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