第356話 嫌な予感
今日はドラゴ君(鞄の中にモカとミランダとモリー)についてきてもらって、ダンジョンの報酬の換金に来てます。
夕方を過ぎると冒険者ギルドの換金所が混雑するので、授業を終えたらすぐに来た。
よかった、まだ込み合う前で人は少ない。
本当はマリウスたちと来たかったんだけど、授業が違うから品物を預かっている私たちだけで来たんだ。
相談の結果、薬草や魔獣の素材、魔石を納品して4人で等分することになった。
いや正しくない。花粉除けの覆面分を除いた19階までの分を等分だ。
私は料理しかしなかったけど、従魔のみんなが頑張ってくれたからね。
20階の分は採取した薬草と素材は私たちが、魔石はソルちゃんに渡すことになった。
クライン様とソルちゃんはいらないというが、そうはいかない。
魔石は一部を残して換金して、そのお金で何かプレゼントすることに決まった。
あの後20階はちゃんと復活してるみたい。よかった。
これでまたあの中庭の花畑が見られる。
プレゼントを買うのも私だ。
清廉スキルのおかげか、みんな私のことを信頼してくれている。
まぁ丸投げと言ってもいいけど。
換金を待っている間、ソルちゃんのプレゼントを何にしようか考えていた。
何か欲しいものあるかな?
観賞用の鳥を売っているお店に行ったら、鳥かごとか鎖とかダメなやつばっかりだった。
おもちゃはほとんどなかった。
全然参考にならない。
ソルちゃんは自由が好きなのだ。
一番マシなのが止まり木だったけど、私が生ける止まり木だし。
そんなことを考えている間に納品したものの計算がすみ、カウンターに呼び出された。
お金は各々の口座に入れてもらう手続きをした。
ソルちゃんの分の残りの魔石は錬金術に使えるので、もう一度クライン様と相談するつもりだ。
さぁ帰ろうと、ドラゴ君の手を握るとポンと肩を叩かれた。
振り返ると知らない男の人だ。
いや、違う。
父さんの偽の葬儀に来ていた。
えーと、母さんのこと姉御って呼ぶ冒険者だ。
たしか名前は……。
「俺のこと、覚えてる? お父さんの葬儀であったよね?」
「はい、その節はお世話になりました。コナーさんでしたよね」
「うん、そうだよ。あの時は相当しょげてたけどだいぶ元気になってよかった」
「ありがとうございます」
コナーさんはにやにや笑って、私に耳打ちした。
「ちょっと顔貸してほしいんだけど。内密の話があってさ」
「内密ですか? えーとお金は貸せません。私、学生なので」
「いやいや、そんなんじゃないから。姉御のことだから」
「母さんの?」
嫌な予感がする。
「母さんはまだ海の向こうの国にいますよ。手紙が来てすぐには帰れないようです」
私が苦もなく嘘をつける……。
母さんは二度と帰ってこないので、帰れないではない。
これは命の危険があるシグナルだ。
ルイスさんの時と一緒。
「ならアンタが代わりでいいや」
「伝言でしたらここでどうぞ。手紙のやり取りはしています」
「いや、だからさー」
そう言ってコナーさんは私の腕を掴んで引きずっていこうとする。
何気に痛いし、ついていきたくない。
ドラゴ君がその手を払うのと同時に誰かがコナーさんの腕を掴んだ。
ハルマさんだ。
「エリーちゃんが嫌がっているのがわからないのか?
兄貴分の俺が聞いてやってもいいけど?」
さすがにAランク冒険者のハルマさんの威圧的な態度に、コナーさんのニヤついた笑いが消えた。
コナーさんは大した内容じゃないからと、言い訳して帰って行った。
でも諦めていないみたい。
母さんのことって何だろう?
「ありがとうございます。ハルマさん」
「ハルにい、ね。」
あっ、砕けて話せってことですか? 了解。
「送ってく。歩きながら話そう」
ハルにいはドラゴ君とアイコンタクトを取り、私は背中を支えられて一緒に冒険者ギルドを出た。
「ハルにい、ありがとう。このまま学生寮に帰るよ」
エマ様のところには、後でモカに行ってもらおう。
コナーさんが私とハルにいの後をつけてこないとは限らないから。
「アイツと親しいの?」
「全然。父さんの葬儀の時に1度会っただけ。
母さんと護衛の仕事で一緒だったから、姉御って慕ってくれてるの」
「護衛の仕事なら多人数だな。
ちょっとさ、アイツには黒い噂がある」
「それってどんな?」
「アイツはよく亡くなった冒険者のギルドカードを持ち帰るんだ。
その度に死んだヤツの装備とか金目のものを持ってるんだ。
アイツが直接手を下してるかはわからないけど……。
見殺しとか囮とかにしてるんじゃないかって」
えっ、何それ?
「俺今ソロだからいろんなヤツを指導したり、一時的に組んだりしてるんだけどさ。
いろいろ話を聞くんだ。
その中にこないだまで、ルエルトにいたヤツがいてさ。
兄貴と慕っていた先輩冒険者が死んで悲しみに暮れていた時に、その兄貴が恋人のために買った指輪が質屋に並んでたそうだ。
調べたらその兄貴が死んだときに冒険者カードを持ち帰ったアイツが質入れしてたんだ」
私は驚きで目を見開いた。
恋人へのプレゼントなら冒険者の財産というより、個人の財産だ。
「それでソイツが詰め寄ったら、死んだ冒険者のギルドカードを持ち帰ったから、その財産をもらうのは当然だって。
でも装備ならまだしもただの指輪なら恋人に渡すのが、義理ってもんじゃねーか?
大体そういうことがあったら、その冒険者の葬儀に出て遺体を見つけた時の話をしてやるものだよ。それもないんだ。
しかも5回もあるって絶対おかしい。
ちゃんと普通に仕事するときは大体何人も組んでいる時で、ギルドカードを持ち帰るときはソロの時なんだ。
しかもそういうことを起こすと街を移動してる」
それすごく真っ黒じゃない!
「どうして5回もあるって知ってるの?」
「Aランク冒険者になるとギルドの登録情報が照会出来るんだよ。
主な功績なんかが見られるんだ。
さっきの話のヤツに頼まれてね。
普通はそんな照会なんてしないから街を変えたらわかんなくなるんだ。
でもちらほら似たような話をする奴がいてさ
どうやらギルドに届けず、行方不明のヤツもいると聞いてる」
「ハルにい……」
なんだか口の中が乾く。
そんな人がどうして私や母さんに話があるの?
「エリーちゃんは結構ギルドでも目立つからさ。
モカちゃんを肩車してることもあるだろ。
ティーカップ・テディベアがとんでもなく高額で売れるって知ってるよね?」
「モカはマスターからお借りしてるのに」
名目上でしかないけど、こういう時のために主になってもらったんだもの。
「アイツはそんなこと知らないんだろう。
それにエリーちゃんはかなり稼いでる冒険者だぞ。
手に職もあるし、発明だってしている」
ハルにいにそういわれると、自分が狙いやすい獲物になったような気がした。
私には側に親もいないし、クランに所属していてもまだ仮なのだ。
「とにかくヤツには気を付けるんだ。
何を言ってくるかわからないけど、たぶん目的は金だ。
俺でよければ相談に乗るし、男に言いにくかったらシンディでもいい。
とにかく二人にならないこと。
特に絶対にしちゃいけないのは一緒にダンジョンに行くこと、いいね?」
そう約束させて、ハルマさんは学生寮の門まで送ってくれた。
「心配しなくても僕がそんなことさせないよ。僕は強いから安心して」
ドラゴ君が私の手をギュッと握ってくれた。
いつもありがとう。
でも怖い……。
もしそんな人に母さんの身許がバレていたら……。
ううん、母さんがいない限り、証拠はないはずだ。
私は堂々としていればいい。
ヴェルシア様、父さんと母さんを守るウソとはいえ、ウソをつけばまたウソで塗り固めなくてはならないのですね。
マスターに清廉スキルは私を守るためのものと言われたことを今日実感いたしました。
人間相手にこれほどの危険察知は他にはないでしょう。
素晴らしいスキルをお与え下さり、心から感謝いたします。
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