第339話 クラスメイトたち
体の調子が戻っても王都に戻って学校へ行くのが辛かった。
朝一番に執務室でクライン様とダイナー様に会い、葬儀に参列していただいたことと花輪のお礼を言った。
クライン様に何もかも見透かされそうな気がしたが、エマ様のお世話以外はしばらく休んでいいと言われただけだった。
クラスメイトたちにお悔やみを言われて、また気に病みそうになったがなんとかグッと堪えた。
それが無理をしているように見えたみたいで、「無理するなよ」と珍しくクールなジョシュに言われてしまった。
お悔みを言われるとは思ってもいなかったのがヴェルディ様だ。
いつもクライン様の邪魔はするなとガミガミ言われるだけなんだけど、なぜか角砂糖をもらってしまった。
「う、馬が好きだから、従魔も好きだと思う」
ああ、ヴェルディ様はご一家で魔獣好きだった。
「もしかして、ウチの子を抱っこしたいんですか?」
「ち、ちげーわ!
その……ちょっと気になったっつーか、主がしょげてると従魔もしょげるんだよ!
さっさと元気になれ‼」
みんなにその話をするとモカが、
「なんという典型的なツンデレ。その子、案外いい子かもよ」
「そうね、とても人気のある方だよ。
上位貴族だけど、親しみやすくて凛々しくて素敵って」
「確かに貴族の割には砕けてるね」
「うーん、でも乱暴な言い方をされるのって、騎士仲間と私ぐらいかもしれない。
クライン様の従者だから仲間枠に入れてくださったのかも」
私がそういうとみんながため息をついた。
「どうしたの?」
「いやニブいというか、エリーって恋愛脳じゃないよね……」
「えっ、私にぶいかな?」
(おかーさんは、そいつに好かれていると思うの。
だってこんなにやさしくてかわいいもの)
いや、ミラ……、それは子の欲目だから。
「私だってロブはカッコいいと思ったよ。恋してるのかなって思ったし」
「うーん、それ魅了だと思うよ」
「そうなの? ドラゴ君の鑑定で見たの?」
「見てないけどアイツ、フィレスの眷属だったから幻惑・誘惑の力が強いんだ」
フィレスさんは『常闇の炎』の中核をなすメンバーで、営業が主な魔族だ。
でも会ったことはない。
ちょっと変わったヒトなんだって。
ドラゴ君も、ビアンカさんも絶対会うなって言うし、ヒトを悪く言わないジャッコさんまで口ごもるくらいだ。
「でもスキル封じしたって」
「人間が魔族の力を完全に封じるなんてできないよ。
実際ロブがかなりの魔獣を手中に収めたのも魔族の力のおかげだと思う。
もちろんシーラは魅了ごときでは動かないから、心も伴ってるんだけどさ」
「そうなの……」
でも確かにロブがお父さんの命令で私と距離を置いたら、あの気持ちが恋愛じゃなく友情だったと思うようになったもの。
「わざと魅了しようとしたわけじゃないと思うよ。
ロブがエリーに好感を持っていたから、強く作用しただけだと思う」
「なるほど、確かにゲームのバートもすごいモテモテの遊び人タイプだった。
魅了型の魔族だったからなんだね」
モカがそう言うと、ドラゴ君は
「カロンはどっちかっていうと戦闘特化型だな。あとユナもたぶん魅了型」
「ユナも?」
「うん。魅了ってね、直接心に作用するだけじゃなくて、行動とか言動とかに乗せることが出来るんだ。
ユナって普通にしてたらあんまり魅力的に感じないけど、踊り出したらすごいよね」
「じゃあ芸術家や音楽家には魔族の血が流れているの?」
「全部じゃないよ。
レオンハルトなんか1滴も入ってないね。
ユナの場合は、あのケインって子がものすごくユナびいきだよね。
側にいる子をああいう感じの手下みたいにしがちなんだよ。だからそう思ったの」
そういえばマルト・ドロスゼンもそんな感じだった。
「あのいじめに加担したのも、エリーが思ったよりユナに引っ張られなかったせいもあると思う。
優しくしてるのに言うこと聞いてくれないってやつだね」
「アシュリーは? ユナにそこまで押さえつけられてないと思うけど」
「アイツはそういう抵抗力が元から強いんだと思う」
ユナが錬金術科をやめてからは、あんまりよく知らない。
去年まではビアンカさんがお化粧やふるまい方を教えていたから、少しは会っていたけど、私も忙しかったしそれからは全然だ。
だけどアシュリーと孤児院の子どもたちとスライム狩りに行ったとき、ユナは狩りや採取や家事を一切手伝わなくなったと聞いた。
女優がケガや手荒れをしてたら、ダメだからだって。
劇場の給金を孤児院に入れてくれているから仕方がないんだけど、とアシュリーは言っていたが少し寂しそうだった。
ユナに女優業を勧めたのは私だから、ちょっと悪かったかな?
でも彼女が私を
あのまま放っておいたら、危ないと思ったんだ。
「それでよかったんだよ。
ユナみたいなタイプは変に我慢して使わないより、舞台の上でパーッと力を使うのがいいと思う。
それこそマルトみたいに誰かを操るようになったかもしれないからね」
「そうだね。
それが彼女の魅力になって、女優としてみんなを惹きつけるのはいいことだと思う」
「魅了は使い方によっては悪いものじゃないんだ。
人間だって別人みたいなお化粧したり、相手に合わせて態度を変えるでしょ。
あれだって一種の魅了だよ。
お互い好き同士なら問題ない。
ただヒトの気持ちを捻じ曲げて使うことがあるから、恐れられているだけ。
要は本人次第だよ」
これはメアリー情報だけど、ユナは侍女・メイド科ではかなり成績がいいそうだ。
舞台で侍女やメイドの役が結構あるので、真剣みが違うらしい。
洗濯や掃除、子守や裁縫など孤児院でやっていたおかげで、今すぐにでもメイドの下働きの引き合いがあるらしい。
でも女優優先で断っているそうだ。
貴族の家では平民が侍女・メイド科を卒業してもすぐにメイドにはなれず、台所や掃除の下働きから始める。
その仕事が認められたものだけがメイドのお仕着せがもらえるのだ。
裕福な商人や騎士の家では下働きなしでメイドになれるので、平民はみんなそちら狙いだそうだ。
もちろん、裕福な家の娘の場合は別。
行儀見習いとして貴族の家でもメイドになって、気に入られたら侍女に昇格することもあるらしい。
でもせめて騎士爵ぐらいのヒトと結婚してねって言われるらしい。
そんなわけでメアリーは変わらずマリウスにロックオン中だし、アシュリーはモテモテである。
仕事を始めてから、結婚相手を探すのでは遅いらしいのだ。
私の仕事が多いということでクライン様へのお昼のワゴンサービスがなくなり、最近は友達とのお昼ご飯を再開した。
だけどモカはマリウスと遊びたいのに、メアリーが入ってくるのでちょっと
「お昼休みぐらい、のんびり遊びたい」
でも私のところに戻ってきたモカを名残惜しそうにマリウスが見ているのは、彼女には内緒だ。
言ったらマリウスと遊ぶからね。
メアリーにしてみれば、放課後のマリウスはクライン騎士団の練習場に行ってしまうので、休み時間しかない。
このクラスは予科である今年度までで、本科に進んだら騎士科の生徒たちはいろんな騎士団に回って修行してくる。
そうなると他の女性に見初められることもある。
だから予科の間に彼女という地位を得たいのだ。
今回のダンスパーティーもメアリーがマリウスを誘ってパートナーになっていた。
「女性の方から誘うなんて……。いやだわー」
なんて言われていたけど、一瞬の恥より一生の後悔する方が嫌なんだって。
恋する乙女は強いです。
アシュリーは意外なことにキンバリー・ロイドさんと組んでいた。
実はこれも彼女からの誘いらしい。
アシュリーが理由を聞いたら、見た目と答えたそうだ。
彼はそういうのを気にしないので、ゲラゲラ笑ってOKしたそうだ。
「いや、これでよかったんだよ。
ロイドより金持ちの女学生はほぼいないから、嫉妬の苛めなんか起こらないだろ」
確かに。いても大貴族のご令嬢だ。
アシュリーはユナの件もあって、女の子の嫉妬にすごく敏感になったようだ。
ロイドさんは優し気な姿と違う結構上から目線のヒトだけど、私とは友好関係を保っている。
リュミエールパッドも絶賛してくれた。
「あなたって本当に役に立つのね。ビリー様と私のためにこれからもよろしくね」
なぜか奥様目線で話をされます。
マスターののろけ話もされるが、それは護衛ならばすることなのでのろけでは全然なかった。
でも話をするロイドさんはかわいかったので、私はニコニコと聞いている。
マルト・ドロスゼンの妨害さえなければ、平民女子との仲は良好だった。
ニールにいたころの友達が出来なかったのがウソみたいだ。
穏やかで優しい日々を送っている。
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ユナに紹介されたメイドの下働きは、苦学生に対して学校が斡旋するアルバイトのことです。
優秀な生徒を派遣して実績を積んでほしいので、お声がかかったというわけです。
文官学部だと定型文の文書の作成とか、紙を同じ大きさにカットするとかをやらされます。熟練の魔法師がやった方が早いですが学生支援のためにさせています。
魔法士や騎士を目指している子はダンジョンを勧められます。
エリーやユナ、マリウス(クライン騎士団見習い)みたいに仕事を持っているような学生はとても少ないです。
ちなみにニールにいたころのボッチは、ニールの領主のバカ息子に好かれていてみんなに近寄らないようにされていたからです。
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