第291話 水着のデザイン

 

 私は翌週は何事もなかったように、クライン様の執務室でお茶を入れ、勉強し、友達に焼き肉をふるまい、エマ様のお世話をした。


 クライン様とダイナー様が少し心配されているようだが、無視した。

 申し訳ないけれど今の私にはその余裕がないのです。



 同時進行で裁縫室のドレスの手伝いもしていたが、依頼された分も何とか終わる目途が付き和やかな雰囲気になっていた。


「そうだ、エリーちゃん。セードンでは水泳するんデショ。水着どうするの?」

「どうするってこのままですけど」

 私がエヴァンズの制服を指さした。

 この制服は完全防水で汚れないし、魔法防御なども完備。これが一番安全だ。



 しかしビアンカさんが血相を変えて反対した。

「ダメヨ。そんなバカンスを無駄にするなんて。もっと楽しまなくちゃ!」

「でもルシィを泳がせるだけですし。

 私たちは浅瀬でちゃぷちゃぷぐらいでいいんです」


「そんなのダメ、アタシが作って……」

 ビアンカさんが言おうとしたその時、


「あのービアンカ様、デバリュー侯爵夫人が姪御様を連れて緊急のドレスのご相談がしたいとおっしゃってます」

「緊急ってたいしたことないデショ。後にして」


「それが姪御様のご婚礼が突然早まってバカンスの間に挙式されるそうなんです。

 ウェディングドレスとブライドメイドのドレス、侯爵夫人の当日のドレスなど20着近くのご依頼でして」

「何ですってぇ⁈ あれは10月でいいって話だったデショ!」


「なんでも相手先のご親類に他国の王族がいらして、このバカンスの間に来られることになったそうなんです」

「モウ! しょうがないワネ。

 季節変わるからデザインも変えないといけないじゃない!

 とにかく話を聞いてくるワ」



 ビアンカさんの作る水着は気になったけど、これで作ってもらう訳にはいかない。

 でも用意しないと無理してでも作るっておっしゃいそうだし、水着を自分で作ろう。


 試験もあるし、あんまり暇がないから錬金術で作れるタイプがいいな。

 ルシィと泳ぐから一緒にいて違和感がないのがいい。


 さてどうするか。


 よく考えなくちゃ。




 それで今、試験勉強の合間に水着について考えている。


 ビアンカさんの資料を貸してもらったのだが、水の中では無駄な装飾があると泳ぎにくいので出来るだけ体にフィットしたものが良いとある。

 布は防水と伸縮、そして通気性や体温を下げないよう付与した魔獣の素材でツルンとしたものの方が良いとされる。


 なるほど、でもちょっとフィットし過ぎでないかい?

 黒いシャークという魔獣の皮をつかった水着は全身にピッタリ張り付いて体の形がはっきりしてしまうのだ。

 これは遠泳用で少しでも水の負荷を軽減するものらしい。

 他にも上半身裸で、ハーフパンツを履くものもある。


 うーん、一応これでも女子だし。これは着られない。



 水着ではなく、ビーチウエアというものもある。

 割とあっさりしたサンドレスで、ノースリーブだが上にショールかガウンを羽織る。丈は少し短めでひざ下くらい。砂浜を散歩する用で、もちろん日傘が必須である。


 これじゃあ、一緒に泳げない。

 って、私泳いだことないんだけど。

 でもきっと見本を見せてもらって練習すれば泳げると思うんだよね。

『スキル取得大』に頑張ってもらわねば。



 私がうんうん悩んでるのをよそに、膝の上でルシィがごろんと寝返りを打ってあおむけになった。

「きゅきゅ」

「どうしたの? お腹なででほしいの?」

「きゅっ!」

 せがまれるまま、お腹を撫でる。


 ルシィの体はフワフワなんだけど、毛足の長いもふもふとはまた違うんだよね。

 毛の手触りはつるりとして、確かに水の抵抗が少なそう。

 カチカチの筋肉というより、柔らかい。脂肪が多いのかな?

 もみもみしてたら、きゃっきゃと喜んでいた。



「ルシィは私と一緒に泳ぎたい?」

「きゅっ!」

「私泳げないから、ドラゴ君とモカに教えてもらうの。ルシィも教えてくれる?」

「きゅっ!」

「ミラもモリーも泳ぎたいよね」

(やるのー!)

 モリーもフルフル多めです。


「それじゃ、みんなでお揃いの水着着ようよ」

「でもルーは余計なものがついてない方が泳げるんじゃないかな」

 ドラゴ君の指摘がもっともなので、私は頭を抱えた。



 ジャッコさんに聞くと、セルキーは群れを成して生きる魔獣だそうだ。

 でも群れにオスは1匹で、あとはメスばかりらしい。

 つまりオスが生まれても淘汰されて、強いオスしか生きていけないってこと?


「セルキーのオスは珍しいんだ。繁殖が必要な時に強い個体が生まれる。

 ルシィはそれなんじゃないか?」

 そ、それじゃあ、セルキーたち困ってないのかな?


「今は困るだろうがいないとなれば別の個体が現れる。

 生き物ってものは状況に合わせてしたたかに生きていくんだ」

 なるほど、うまくできているんだ。

 むしろ、ヒトはあまり順応しないのかな?


「そんなことない。

 昔より体格が良くなっているし、病気にかかっても薬やら治癒魔法やらで生存率が高まってる。

 ただ体そのものを変えるより状況を変える方が短時間で解決する。

 根もとから解決した訳じゃないからしつこく対応しないといけないけど」



 ジャッコさんのお話はおもしろかった。

 でも参考に……そうか、そうすればいいのか!


 私はこれまで得た情報をもとにみんなの水着を作り、ついでにエマ様の分も作った。







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