第290話 国外逃亡を考える
帰りの馬車はダイナー様に中に乗ってよいと言われたので、私はクライン様と同席させていただいた。
「エリー君、私たちが挨拶を受けている間、一体どこに行っていたのだ?」
やっぱり知られていた。クライン様には何も隠せない。
「申し訳ございません。お答えできません」
「そうか……、無理強いはしないが困っているなら私に相談してほしい。
そのことを心に留めておいてくれ」
「かしこまりました。お気遣いいたみいります」
ダイナー様も心配そうに見てくださったが、私が話さないのでそっとしておいてくれた。
ドラゴ君とも合流し、別館に到着するとエマ様が私に一番に駆け寄ってくれた。
「えりー!」
私は嬉しくてエマ様を抱き上げた。
ダメだ、私は今すぐこの国を逃げることは出来ない。
私はエマ様と来年も来ると約束した。
一緒に朝顔を植えるのだ。
せめて次にこの方の面倒を見てくださる方が見つかるまで、私はこの約束を守りたい。
「ああ、やっぱり女性には敵わないな」
クライン様がエマ様が一番に私に抱き着いたのを見て、ちょっとだけ寂しそうに笑った。でも嫌な感情ではないようだ。
そのあとエマ様がクライン様に抱っこされて、私はお茶に誘われたが今日はお暇することにした。
いろいろ考えたかったし、みんなにも相談したかった。
クランの部屋に戻ってから、私がハミル様に聞いた出生の秘密と、これから予想される悲惨な未来について語るとみんなものすごく怒ってくれた。
「そんなこと絶対あっちゃだめよ!
エリーは子どもを産む道具じゃないんだから‼」
(おかーさんにわるいことをするやつは、絶対にゆるさないの!)
「いつも王宮に近寄るとイライラと嫌な気持ちになったんだけど、そんな魂の穢れた奴らが住んでいるのか。
本気で許しがたいよ」
モカ、ミランダ、ドラゴ君が銘々に叫び、モリーも珍しく飛び跳ねて怒りを表していた。
ルシィはまだ赤ちゃんで意味が分からないようだが、なにか嫌な気配を感じて不安そうに私に抱き着いてきた。
「私今すぐにでも逃げてしまいたい。でもエマ様を置いていけない。
あの方には側にいてくれるヒトが必要なの」
「それはそうだけど……」
モカが口ごもる。
「ぼくは反対! エマにはクラインがいる。
エリーとおじさん、おばさんは命と魂の危険があるんだ。即刻で出るのが賢明だ」
「でもマスターにお返しする魔道具もできていないし、学生の移動はあの奴隷商人の一件で厳しく調べられるの。不審な動きはかえって怪しまれるかもしれない」
「王都さえ出れば、ぼくが転移する。
僕はエリーを守るように言われているんだから」
「ありがとう、ドラゴ君。
とにかくもうすぐ夏休みでしょ。
まず母さんにこれが本当か聞いてそれから動いたらいいと思うの。
元々学校を卒業したら、国外に出ようかと思っていたし、それが早まるだけよ。
ドラゴ君、戻ってからでいいからマスターに面談できないか聞いてくれる?」
「うん、わかった」
みんなと相談したうえで、考え付いた問題は5つ。
まずどの国に逃げるか。
近在の国ならほとんど条件は同じだ。
同じ神を信じ、神々からの加護や祝福を貴ぶ。
だからかなり離れた、神の加護など気にしない国がいい。
でもその場合、魔法が使えない国の可能性が高い。
そうなると、従魔のみんなと離れないといけないかもしれないんだ。
どれくらいお金がかかるのか。
ドラゴ君の転移があればよその国に行くのは可能だ。
だけどその先で身分の証が立てられなければ、非常に苦労すると思う。
だからどこかで身分を買わなくてはいけない。
今もお金はある。
あのスライムダンジョンの宝は相当なお金になるが、その後の生活資金やなにやらでいくらあっても足りないかもしれない。
この国のお金がよその国で同じ価値なのかわからないからだ。
父さんと母さんのこともある。
この件が本当なら私と母さんは即刻国外に逃げるべきだ。
でも父さんはニールのお店を捨てて、やっとセードンで落ち着いたところなのだ。
この話をすれば、きっとお店を捨ててくれる。
また父さんにそんな犠牲を払わせるのは辛かった。
しかも今度は国内ではない。二度と戻ってこれない。
そして、これまで知り合って仲良くなった方々を永遠の別れをするのだ。
私たちは逃げるだけでなく、名前を変えて生きていかなくてはならないのだ。
これまでたくさんした約束を破って逃げるのだ。
マスターとも、クランの皆様とも、マリウスやジョシュ、アシュリーにソフィアともお別れなのだ。
ハルマさんとシンディーさんともだ。
そうなればますますモカの家族を探すのも困難になるだろう。
最後にこれははっきり決まったわけじゃないが、私が賢者なら勇者を見つけて白の道具箱の中の聖剣を渡さなければならないかもしれない。
ハルマさんは勇者になりたくないとはっきり言っている。
そして、私が本当に賢者なら彼を選ぼうと思わない。
彼ではダメだ。
勇者というものは世界を救おうという気高い心構えが必要なのだ。
私たちの生活を一変させるほどの改革をしたユーダイ様のような。
でもこの世のどこにユーダイ様ほどの人々を救う活動をされている人がいるのだ?
人々から尊敬され、それだけの力を持つ人がいるのだ?
一番近いのはマスターだ。
ああ、マスターに会いたい。
会って相談したい。
私にはこれから進むべき道がわからないのです。
ああ、どうすればいいのですか?
ヴェルシア様、どうか、どうかこの哀れなあなたの信徒に導きをお与えくださいませ。
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ご指摘があったので一文を追加し、一部説明を追加しました。
作者だけわかっている状態で申し訳ありませんでした。
同じ神を信じ、神々からの加護や祝福を貴ぶ。←これだと加護が付いた子供が生まれる家柄の子と結婚して子孫残したいですよね。
だからかなり離れた、神の加護など気にしない国がいい。←つまり同じ神様を信じてない国にしようってことです。
でもその場合、魔法が使えない国の可能性が高い。←加護や祝福がある家とない家の違いは魔力の強さです。
ほとんどの平民が魔力判定で少しは判別されるものの使えない。
貴族も上位貴族であればあるほど強い。
魔法はすごく便利で使えたら、私たちだって使いますよね。
だから加護や祝福がなくていいのは、魔法が使えないからと繋げました。
それはどういう状態なのか?
以前愛情の重要性という話を書いているのですが、魔獣たちは何も食べなくても生きていけるのは魔力の元である魔素があるからと話しています。
魔法が使えないのは、加護や祝福の有無だけでなく魔素が少ないのでは?
そうなると魔獣たちが暮らしていくのに苦しい世界になるのではないか?
ビリーやドラゴ君みたいに元々すごく強いならともかく、ミランダやモリーのような小さくて年も若い魔獣が魔素の薄いところで暮らしていけるんだろうか?
しかも魔法がないということは、従魔の考えもない。
ミラはまだ猫に見えるけど、他の子たちはどう考えても不思議な生き物とみられて攻撃されてしまうかもしれない。
そんなのダメだぁ(←作者脳内)という結論から、従魔たちと一緒に暮らせないかもしれないという結論に達しました。
これちゃんと書かないとわかりませんよね。
本当に申し訳ありませんでした。
不出来な作品ですが、これを追記として読んて頂けると幸いです<(_ _)>
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