第292話 水着のお披露目


 クライン家別館での恒例のお茶会でエマ様への夏休みの宿題について話した。



「エマ様には私たちのいない間、朝顔の観察日記と水泳をやってもらいたいと思います」

「水泳? どこでやるんだい?」

「浴槽しかありませんね。でもエマ様はお体が小さいですし、顔を水につけて遊んでもらう程度になります。

その間、安全のためパペットメイドさんにしっかり監視していただきたいんですが」

「わかった。命令にしっかり付け加えておこう」


「よろしくお願いします。

 それでエマ様の水着も作ってきたんですが、お受け取り願えますか?」

「ああ、代金を支払おう」

「お金はいいです。勝手に作ったので」


「こういうことはちゃんとしなければいけないよ。それでどんな水着何だい?」

「そうですね。せっかくなのでお披露目しましょうか? 

 全員分持っているので着替えてまいります」

 するとクライン様とダイナー様は黙り込んでしまった。



「……その、トールセン。君も着替えるのか?」

 ダイナー様がおずおずと聞いてきた。

「はい、その方がエマ様も不安じゃないでしょうし。何か問題でも?」

「いや、問題というか……」

「まぁエリー君は慎み深い女性だから、おかしなことにはならないと思うよ。

サミー」

「誤解です、リカルド様。

 女性は水着姿にならないものですから、心配しただけです!」



 そうだったのか! 

 そういえば、ビアンカさんの資料も全員男性の絵だったな。

 上半身裸っておかしいと思ったんだ。

 確かにあのフィットしすぎる水着はダメだけど、私のは大丈夫だ。

「ご心配なく! 本当に大丈夫ですから」



 私はお昼寝のすんだエマ様に水着を着るように勧めた。

 初めて見る水着にエマ様は驚いていたが全員同じのに着替えるということで、快く着てくださった。

 もちろん私も着た。制服の上からだ。

 おかげで水着と制服の二重の効果が得られる。

 今の私、最強かも。

 ちょっと動きにくいけどね。水中用だから仕方がない。



「どうぞー、お入りください」

 それでお二人がそろそろと部屋に入ってきたが、私たちを見るなり吹き出してゲラゲラ笑い始めた。



「ええっ? どうしてですか? 考えに考え抜いた水着なんですよ!」

「いや、その……。

 ククッ……エリー君、こんなにお腹が痛くなるほど笑うなんて初めてだよ」

「トールセンが普通の女性でないことはわかっていたが、ここまで斜め上を行くとは思わなかった」

 そういってダイナー様も笑った。

 失礼な!

 私はちょっと大きくなるスピードがゆっくりなだけで普通の女性ですよ!



 私たち全員が着ていたのは、ルシィそっくりの着ぐるみ水着だった。

 一番大きな私から一番小さいモリーまで同じ姿の真っ白でフワフワになったのだ。


 これでルシィは着てないけど全員お揃いだし、肌や体形の露出はないし、本当は群れで行動するセルキーの一団のようではないか。

 しかも顔までしっかり覆ったら、呼吸だって苦しくないのだ。


「そんなにおかしいですか……」



 すると涙まで流しながら笑っていたクライン様が、

「いやいやエリー君もエマもみんなも、よく似合っているよ。

 でも白いセルキーはね、赤ちゃんの時だけなんだよ。

 魔獣辞典でも茶色や灰色だったろ」

 そ、そういえば……。


「特殊個体ですか?」

「いや、氷の上で育てるために赤ちゃんは目立たないよう白く生まれて、自分で行動できるようになると色が付いてくるんだ」

 し、知らなかったぁ。さすがクライン様、よくご存じだ。



「リカルド様、今話すり替えましたね」

「ふふ、他に言いようがないだろ。クククッ」

 なんか含みがある言い方だなぁ。


「ありがとう、こんな幸せなひと時はなかったよ。

 そうだ、エマのために大きな浴槽を作ろう。

 君たちが一緒に泳げるくらいのをね。ぜひエマと遊んでくれたまえ」

 そういって二人はまだ笑いながら外へ出て行った。



 あまりに笑われて私ががっかりしているとドラゴ君が、

「エリー、気にすることないよ。僕はみんなと一緒で嬉しいよ」


 モカもなぜだか鼻息荒く、興奮した状態で、

「あたしも。これは相当かわいくできてるよ。

 これからは着ぐるみマスター目指そうかなって思うもん。

 それにみんなでやれば怖くないから!」


(ミラもそう思うの。おかーさん、似合っててかわいいの)

 モリーも強めのフルフルしてくれた。


 ルシィとエマ様は私に抱き着いてきたので、だっこするとルシィはいつもより黒目がちの目をウルウルさせて引っ付いてきた。

 この格好を喜んでくれているみたい。


 エマ様も、

「エマ、みんにゃといっしょでうれしい。エマもえりーのじゅーまににゃれる?」

「従魔にはできませんが、エマ様はみんなと同じくらい大切なお方です」

 私がそういうとエマ様も私の胸に顔をうずめた。



 別にいいや、クライン様やそのほかの人たちに笑われようとも。

 私はみんなとエマ様と幸せでいられたらそれでいいもの。


 水着の件は嫌なことを少しは忘れさせてくれた。

 だから成功だ。

 早くみんなと泳ぎたいな。



 ヴェルシア様、私たちの夏休みをどうぞ見守ってくださいませ。



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 お約束はしてないけど、以前近況ノートで水着回について書いたので、わたしなりのエリーたちの水着について書いてみました。

 ご期待のとは違うとは思いますが……( ´艸`)ムププ


 ちなみにモカはSSSR級の爆笑するリカルドと突っ込みを入れるサミーにものすごく満足しています。


 次の第293話は非常に辛い話になっています。

 お心を強く持って読んでいただくか、1話飛ばしていただくとよいかと存じます。

 申し訳ございませんがよろしくお願い申し上げます。





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