第263話 幸せな夢


 その夜、いつものように卵を抱いて眠っていたら夢でモカのシークレットガーデンの中にいた。


 そういえばモカの庭って結界のはずなのに、そよ風が吹いているんだよね。

 サクサクと土を踏みしめる感触も、いろんな花や草の匂いもとても気持ちがいい。

 ああ、これがユグドラ様の庭なんだ。



 そこにシーラちゃんが現れた。

 晴れ渡る空の下で立派に育ったりんごの木の下で、元の大きさに戻っていた。

 白銀のうろこに薄絹の蝙蝠の羽。

 やっぱりシーラちゃんはこの美しい姿が一番似合っている。


 シーラちゃんがフーっと息を吐くと口から白い糸が出て、みるみると籠を編み上がった。器用にりんごの実をもいで中に入れる。

 シーラちゃん、それ毒蜘蛛のスキルだよね。残っちゃったの?



 あっ、そうだ! 

 そのりんごが神様の食べ物だって知ってるのかな?

 知らなかったら、危ない!



(そのりんご、食べちゃダメだよー、シーラちゃん)

(食べないわ。もぐのを手伝っているだけ)

(もう元に戻れたの?)

(いいえ、戻ったら木がもぐの手伝ってねって言ってるの。

 今助けてもらってるから恩返しね)



 今私が見ているのはシーラちゃんとりんごの木の夢なのかもしれない。

 見ているだけで心安らぐ光景だった。

 ああ、なんて幸せなんだろう。

 自分の心が満たされていくのを感じる。



(シーラちゃん、助けてくれてありがとう)

(わたしこそ助けてもらったわ。あのままではわたしは穢れたままだったもの)



(あんなに小さくなるまで魔力あげちゃダメだよー)

(ぎりぎりまであげたから、時間がかかったおかげでドラゴ様が見つけてくれたの)

(うーむ、そうなると一概に悪いって言えないか)

 シーラちゃんはウフフとほほ笑んだ。



(とにかくこの目は私が大事に預かっているから。私が死んだら必ず取りに来てね)

(ええ)

(その時はロブの目も返してあげてね)

(エリーよりロブが長生きで望んでくれたらそうするわ)


(ねぇ、シーラちゃん)

(なぁに?)

(シーラちゃんはこっちの目で見たものは見られるの?)

(いいえ、それは今はエリーの物なの。私と正式に契約してもらえば心話で見られるけど)


(そっかぁ、まだ決まってないけどロブのお見送りに行くつもりなの。だからシーラちゃんも見られるかと思ったの)

(エリーが見てきて。それで教えてくれる?)

(もちろんだよ。また遊びに来るから早く元気になってね)

(ええ、待ってるわ。その時はあの子も連れてきてね)




 あの子? 誰?

 シーラちゃんに聞き返そうとしたら目が覚めた。



 すると、私の胸の上に小さな白いふわふわが乗っていた。

 私の顔を覗き込んでいる。

 黒くてつぶらな瞳に、黒い鼻と口元、放射状に生えるひげ。耳や尻尾はない。

 前足はあるけど、後ろ脚……なのかな? まるで魚のひれみたいな形。

 初めて見るお顔です。



「あなたはだぁれ?」


(かぁたま)

「喋れるの?」

 まだ夢を見ているんだろうか?



「ええっと、鑑定」


(種族)セルキー

(名前)-------

(魔力量)89401

(属性)闇魔法、水魔法

(スキル)心話、魅了、人化、遠泳、潜伏、隠蔽

(称号)ルエルトの御子



「セルキー……」

 初めて見る魔獣だ。

 そしてまた、私よりも魔力が強いです。

 しかも隠蔽できる!



「名前つけていいの?」

「きゅ!」

 すると甘えるように私の鼻に鼻ををこすりつけてきた。

 鼻チュー、嬉しいです。


「そうね、あなたはルシィ。どうかしら?」

 すると、ルシィは光輝き、尾びれ? のところに私の印が入った。



(かぁたま)

「ずっと待たせてごめんね。ウチの子になってくれてありがとう」

 ルシィを抱きしめておでこをこすり合わせると、嬉しそうにきゅきゅと鳴いた。


 私が周りを見渡すと、ルシィも真似をして見渡した。

 みんなはまだ寝ていた。

 もしかしたら、ルシィは私だけを起こしたのかもしれない。



(ねぇたま いないでちゅ)

「ねぇたまって?」

(おっきい あかくろ でちゅ)

 ああ、シーラちゃん。あなたを慕っている子がここにいる。



(あっ いるでちゅ)

 そういってルシィは私の心臓のあたりに顔をこすりつけた。

「きゅ!」


「そうよ、ここにいるの。でも別のところにもいるのよ。

 今はちょっぴり元気がないから休んでいるの」

(あうでちゅ)

「もうしばらく待ってね。とにかくまだ夜だからもうちょっと寝よう」

「きゅぅ」



 ああ本当に幸せな夢。

 大丈夫、私は大丈夫。

 だってこんなにもみんなの愛に包まれている。


 ヴェルシア様、私にこれほどの愛を与えてくださり、感謝いたします。



 私はルシィを抱きしめて、再び安らかな眠りについたのだった。



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 セルキーはスコットランド地方などの伝説のアザラシの魔獣です。

 毛皮を脱ぐと中はヒトの姿をしています。


 今のルシィは見た目タテゴトアザラシの赤ちゃんです。


 エリーが目を開けた時のイメージ。外部サイトのためリンク貼れません。

ギャラリー上段、3枚目の感じ。

https://www.asahi.com/and_w/20190708/668548/



 セルキーは女の子キャラで描かれることが多いと思いますが、ルシィは男の子です。


 卵は各々の個性によって生まれたばかりでも精神年齢が違います。

 シーラちゃんやモリーは割と大人っぽかったし、ミラは小さい子って感じでした。

 ルシィは知能はありますがほぼ赤ちゃんです。


 は言い間違いです。まだ助詞を使うような長い文章の心話できません。

 でちゅは大きくなると取れます。


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