第251話 ロブへの贈り物


 学校が始まってひと月が経とうとしている。


 あれからシーラちゃんは2回泊まりに来た。

 なんとあの卵の面倒も見てくれるのだ。


「この卵は闇属性が強いから、シーラが補強するって言ってる」

 そうか、私に闇属性がなかったから孵りにくかったのか。


「それだけじゃなくて、やっぱりエリーの魔力が弱いんだよ。

 愛情は十分で卵はエリーに愛着を持っている。だからシーラが力を補強するんだ」

「そうなるとシーラちゃんの卵にならない?」

「大丈夫。シーラはまだ幼いから、従属させられない」


 そうか、それが5年と130年以上の違いってことね。



 他のみんなとも仲良くしてくれてるので大丈夫そうだとロブと手紙でやり取りしていたのだが、またブツっと連絡が途絶えた。

 ドラゴ君の心話にもシーラちゃんは答えない。


 また私とのことで反対されていて、行動制限を受けているのかもしれなかった。



「ロブとシーラちゃん、大丈夫かなぁ」

「ぼく、見てこようか?」

「うーん、もうちょっと待ってみようか」

 私はドラゴ君を止めた。


 去年、ジョシュとエドワード殿下がマドレーヌを買ってくれた深緑祭を、今年は私たちで回ろうと約束してあるのだ。

 ドラゴ君が訪問したら、ロブの家の使用人が嫌そうな顔をするという。

 出来るだけ新緑祭までは刺激したくない。



 新緑祭のあと本格的にロブはロシュフォール公爵家に従者として勤めに行くことになったのだ。

 そうなると休みの日も会えるかわからない。

 だから新緑祭はどうしても行きたいと思っているし、その日にシーラちゃんの従魔登録をすることにもなっている。

 もちろん、冒険者ギルドの方にだ。

 冒険者ギルドは新緑祭の日なのですいているから、人目をあまり気にしなくてもいい。


 従魔ギルドの手続きはそのままにしておく。

 あくまでもシーラちゃんはロブの従魔で、私は金貨一枚/月で貸してもらうことになったのだ。

 それ以上安いと譲渡と疑われるので、この金額になった。



「ロブはきっと反対されてるから動けないのかもしれないけど、信じて待とうよ」

「うーん、エリーがそういうなら。でも……」

「何?」

「ちょっと嫌な予感がするんだよね」

「そうなの……」

 ドラゴ君の嫌な予感は結構当たるかならなぁ。



 でも新緑祭まであと少しだ。今週末の土と闇の日がお祭りなのだ。

「じゃあ風の日になってもロブから連絡が来なければ、見に行ってくれる?」

「わかった」


 そうこうしていると水の日に手紙が来た。

 忙しいので詳しく書けないが、土の日の夕方予定通り会おうということが書かれていた。


「よかった、ロブから返事が来て」

「ぼくの嫌な予感はまだするんだけど」

「もしかして当日なのかも。気を付けてあまりお祭りを歩かない方がいいのかもね」

「うーん、そうかもしれない」


 というわけで当日は絶対ドラゴ君から離れないことを約束させられた。



 それで私たちはロブのためにお守りを作ろうということになった。

 モカがいうには、

「バート、ううんロブは闇属性、魅了のような精神攻撃に強いの。

 だからやっぱり健康祈願の聖属性のお守りがいいんじゃない?」


「ならあの神レベルのタリスマンは?」

「うーん、お兄さんの隠蔽が破られるとは思わないけど、外国で他の人の手に渡るとヤバいから違うのがいいと思う」

「そうだね、ロブが人にあげるとは思わないけど泥棒に遭うかもしれないしね」

 マスターの隠蔽がついているので、もう私では泥棒除けの付与はつけられない。



「逆に闇属性のお守りの方がいいんじゃないかな。

 自分の属性の強いものが側にいると心地いいんだ。

 シーラがぼくにくっついてくるのはぼくの闇属性が強いからだよ」

 ドラゴ君、それだけじゃないと思うよ。


「容量の大きめの装身具にぼくとエリーとで闇属性を付与するなんてどうかな? 

 エリーがホーリーナイトにおじさんとおばさんにペンダントプレゼントしてたよね。あんな感じで」

「でも装身具難しいかもしれない。公爵家の従者ならお仕着せがあるの。

 カフスボタン1つでも決められているはずよ。

 あちらの学校の制服もよくわからないし。ペンダントつけてもらえるかなぁ」

 うーん、困った。



「ねぇ、エリー。文房具は?」

「それだ!」

 たしかクライン家家宰のローグ様は万年筆を使っておられた。

 他の使用人の方も使っておられたけど、ローグさんのが一番立派だった。


「ロブは従者だし、あんまり高級すぎるのもよくないよね」

「そうね。乙女ゲームでバートは割と安物の古いひびの入った万年筆使ってるわ。

 まどかが、物を大事に使う人が本当にチャラいのか不思議に思うシーンがあるの」

「そうなんだ」


「でもそうなると……」

「何?」

「ロブの初恋の人はエリーってことになる」

「ええっ! でも私は乙女ゲームではサポートするんだよね?」

 シーラちゃんに殺されそうもないし。


「この世界が本当にアイささなのか、あたしも確信が持てないんだ。

 エリーの知り合いの人はRPGだっていってたんでしょ」

「うん」



 モカは考え込んでから言った。


「ロブを見送ったらそのハルマさんって人に会いたい。あと劇場のトラウトさんも。

 この世界のことをもうちょっと理解した方がいい。

 何よりあたしの頭が混乱しちゃうから、お願い」


「うーん、そうね。でもモカの正体がバレるのも困るし。

 マスターと相談して、了解してもらったら会おうか」

「ありがと。あたし、そろそろお母さんたちも探したいの」

「そうだね。私のことばかりかまけててごめんね」



「いざとなったら、ぼくが二人を始末してもいい」

「いやドラゴ君、それはダメ」

「別の口封じを考えよう、殺しちゃったらもう二人から情報取れないから。

 あたしはそっちがヤダ」

 モカもドラゴ君も結構物騒です。



 それから帰りに文具店によって万年筆を見たが付与が入りそうなものはなかった。

 真ん中ぐらいの価格帯の万年筆を2本購入して、さらにスウィフトさんのお店で小さいけれど質のよい闇の魔石をいくつか購入した。


 あとはこの万年筆にどうやって魔石を取り付けるかだな。


 細工がいいかな?

 それでデザイン画を描いた。

 ポケットに差し込むクリップの部分を銀でギーブルであしらったデザインだ。

 目の部分に魔石を入れる。



 ヴェルシア様、どうかロブの気に入るものが出来ますように。



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