第249話 2学年の時間割


 始業式の放課後はクライン様の仕事もクランの仕事もないので、マリウス、ジョシュ、アシュリーと食堂でお茶を飲むことにした。


 話題は授業のこと。

 今年の時間割はこれだ。



 光 1魔法史学 2数学 3・4社交 

 火 1・2魔法学(属性魔法・無属性魔法)3文学 4外国語

 水 1・2魔法実習(属性魔法・無属性魔法) 3体育 4芸術(音楽)

 風 1魔法理論 2魔獣学 3社会 4古代語

 樹 1・2専攻授業(工芸) 3・4錬金術

 土 社会見学(月1回)及びダンジョン実習(任意)



 一番変わったのは樹の日の授業が自分の志望する学部学科向きになることだ。



 私は錬金術になるが、ジョシュはここが政治学や経済学になる。

 マリウスやアシュリーは1日騎士として授業で戦略や訓練だ。

 樹~闇の日の3日間を使っての野営訓練もあるそうだ。


 あと面白いなと思ったのが、応急手当と防具武器の簡易補修だ。

 戦場ではいつでも治癒魔法士や補修のできる人材がいるわけではない。

 一人でやらなくちゃいけないこともある。

 私はこれから工芸はしっかり学ぶので防具の補修は出来るようになるけど、応急手当は医療分野でソフィアのような回復魔法が使える人じゃないとあまり学ばないのだ。



「応急手当、私もやりたいな」

 するとアシュリーがキラーンと目を光らせて、

「エリーは皮革裁縫師、いまどのレベルだ?」

「2級だけど」


 ドレスの方が1級取れたので、皮革も2級取ったんだ。

 でもこちらの1級は取らないつもり。

 だってAランク冒険者が取ってくるような素材で、彼らの身を守れるほどのオリジナルの防具を作れって言われてるんだよ。

 聞けば付与は当たり前、鍛冶や細工を併用しないとそこまでにはならないんだ。



「俺の手袋作ってくれ。その代わり、授業内容を全部教える」

 2級皮革裁縫師だと防具を作る許可が下りるのだ。

 秀才のアシュリーなら細かいところまで教えてくれるだろう。


「あっ、ずりーぞ、アシュリー。俺だって手袋欲しい」

 マリウスが口をとがらせる。


 武器や防具は貸してもらえるんだけど、手袋や下にアンダーは自分で用意しなくてはならないんだ。


「手袋だけでいいの?」

「そりゃ欲しいけど……」

アンダーはさすがに……男の子だから私に頼みたくはないだろう。



「貸出品で我慢だけど、夏がなぁ」


 貸してもらえる防具はこれまでの生徒の汗と涙が詰まっている。

 そういうと聞こえがいいが、一番の悩みはギャンベゾンである。

 ギャンベゾンはプレートアーマーの下につける体を保護するジャケットだが、ウールと綿でできていてすごく臭いらしいのだ。



「アシュリーは水魔法あるからまだいいじゃん!」

「攻撃魔法主体でエリーみたいな魔力操作はできない」


 私は声を潜めていった。

「私ギャンベゾン縫えるよ。ちなみに付与魔法も得意。

 でもまだ資格取ってないからお友達価格でできるよ」



 二人は顔を見合わせて言った。

「い、いくらなんだ」

「安くするには、まず皮は用意してね。

 こっちで用意したらクランの在庫になるから高くなるよ」


「ふ、付与は?」

「素材によっては大きさ変更もできるけど相当高価だし、討伐も危なくなるから。

 無理して手に入れるとかしないでね。

 肌触りがさらりとしてべたべたしないように、速乾と清潔、消臭なんてどうかな?」

「値段……」

「素材による。見積りだすよ。付与はおまけね。

 あっ、でも他のヒトに言わないことも条件。

 私はマリウスとアシュリー以外の付与はしないし、作る金額も高くなります」


 付与魔法をガンガンつかうと、商業ギルドに睨まれるからね。

 それに、防具製作の価格は決まってるんだ。

 二人だけなら友達だからでいいけど、何人もやったら価格の値崩れの原因になるからね。



「いいなぁ、僕も騎士学部行きたい」

 ジョシュが珍しく愚痴ってる。


「行けばいいじゃない。ジョシュの腕前なら絶対トップクラスだよ」

「反対されてるって言ったろ。でもやっぱり楽しそう」


 ジョシュ、ちょっとかわいそう。

 せっかくヴェルシア様のジョブ判定で自分に向いているものがわかるのに、違う方向に進めと言われるのは嫌だよね。

 でも反対されるのも愛情からだし、どうしてもいやなら自分で親を説得しなきゃ。

 でもジョシュはそういうのはしないそうだ。



 というわけでアシュリーには応急手当の指導を、マリウスにはその練習台になってもらうことで二人に手袋を作ることになった。

 他の防具はダンジョン次第だって。



 ジョシュはものすごくレポート漬けになるらしい。

「1年でも結構出してたのに、大変じゃん」

 マリウスがレポートと聞いて嫌そうに言った。


「こればっかりはこの道を選んだから仕方ないんだけど」

 ジョシュが肩をすくめると、アシュリーが言った。

「俺は文官も気になっていたが、やはり騎士の方が手っ取り早く金になる。

 早く孤児院に恩返ししたい」


 そうだ、騎士を目指していたから気が付かなかったけど、アシュリーなら成績、美貌共に花形文官である外交に携わってもおかしくない。

 キラキラの金髪も青い瞳も華やかで、貴族のご令息って感じがする。



 ふと私たちのテーブルを食堂の女の子たちがチラチラ見ているのに気が付いた。

 そうなのだ。

 実はマリウス、ジョシュ、アシュリーは平民女子の間で人気が高まっているのだ。


 3人ともAクラスで成績優秀。

 紳士的で優しいマリウス。

 美形ではないけど切れ者のジョシュ。

 そして貴族的美男子のアシュリー。

 しかも3人とも私より8センチ近く背が高いのだ。


 去年とは違う意味で肩身が狭いです。はい。



 するとメアリー・ティムセンがマリウスに近寄ってきた。

「マリウス。ピクニック、天気が悪くて残念だったね。次は絶対行こうね」

「おう、でも仲間に話したら他の奴らも行きたいって。いいだろ?」

「えっ~、そうね。次の次ならいいよ」

 うん、外堀埋められつつありますね。マリウス。


「エリーも行くか?」

「えっ、私は、ごめん。忙しい」

 怖いこと言わないでよ。マリウス。

 乙女の恋路は邪魔したら生きてけません。



「そうだよな。最近モカと遊んでないから遊びたかったんだが」

 メアリーがモカという女の子の名前に反応している。


「私そろそろ帰るから、モカ呼ぼうか?」

「いいのか? やりーっ!」

 あっ、メアリーが悲壮感あふれる顔している。



 するとドラゴ君がみんなを連れて転移してきた。

 モカはマリウスをみつけるとテケテケと走り寄り、ジャンピングハイタッチをしていた。

 マリウスも予想していたらしく、もちろんハイタッチを受けてそのまま抱き上げて肩車していた。

 モカは笑うようにキャッキャしていた。


「ティムセンさん、モカは私の従魔のティーカップ・テディベアだよ。

 マリウスは魔獣が大好きなの」

「そう……なの」

 ティーカップ・テディベアなんか買えないと小声で言ってたが、世界中のお金を積まれたって売りませんよ。



「じゃあ、そろそろ帰るね」

「名残惜しいがまたな」

 マリウスがモカを肩から降ろしてちょっとしんみり。モカもちょっとしんみり。

 仲良しだからね。



「「「また明日」」」

 ジョシュはけだるそうに手を振っただけだ。

 すごくご機嫌ななめだ。


 ジョシュはメアリーのマリウスへのロックオンはちょっとうざいって言ってた。

 私が帰った後で、みんなの話に割り込んでくるんだって。


 うーん、恋する乙女だし、それぐらいは許してあげてほしい。

 ジョシュの女嫌い……、治ればいいなぁ。





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