第248話 2学年が始まった


 2学年の授業が始まった。

 私の朝がクライン様のお茶くみから始まるのは同じだ。



「君のクランはエマの家庭教師の件は許可をくれないんだね」

「申し訳ございません。サブクランマスターのクララが申しますにはこの件はクランマスターにはかりたいとのことです」



 そうなのだ。クララさんは実は大反対している。



 本来なら妻の愛人の子とはっきりわかっている子供を家に入れるということはないのだ。

 しかもクライン伯爵家という名門中の名門においては考えられない。

 特に相手が平民ならばなおさらのこと。

 生まれてもそのまま修道院に入れるか、悲しいことだが命を奪うという。



 なのになぜクライン家に入れたのか?


 生まれた子供が優秀な能力や加護を持っているなら、愛人の子でも遠縁に養子でも出す。利用価値があるから。


 妻の愛人がクライン家以上の家柄、王家や公爵家の子どもで内密に預かる必要があるという場合なら実子であれ、養子であれ、ちゃんと貴族籍を入れるはずだ。

 不安定な戸籍では守り切れないからだ。



 なのにどうして家の籍には入れたけれど貴族籍は認めていないのか、不明なことが多すぎるというのだ。



「エリーちゃん、これはあなたがかかわっていい案件じゃないと思うの」

 でもこちらから断れるようなことでもないので、話を引き延ばしてうやむやにしようという作戦なのだ。



 モカの乙女ゲーム情報では確かクライン様には妹がいるんだけど、赤ちゃんの時に毒殺されてしまうという話なのだ。

 クライン様が薬に興味を持つのはそのことが原因で、その派生で錬金術を学ぶというのだ。


 でも実際にはエマ様は生きていて、クライン様に守られてはいるものの家庭教師がいないという不遇な生活を送っておられる。

 6歳ぐらいの小さなお子様なら、しばらく成長できない私でも教えられることはあると思う。


 まだ取っていない資格はあるものの、主要なものは取ったので慌てて取らなくてもよいと言われている。

 だから時間は作れると思う。


 だがクララさんがあそこまで反対するのだ。

 理由はわからない限り、受けられない。



「ではクランマスターのビリー殿が戻ったら、返答してくれたまえ」

「かしこまりました」



 2学年もクラス替えはなかった。

 本来ならドロスゼンの代わりに女子が入ってもいいと思うのだが、マリウスの後に続く成績ではしばらく男子が続くそうで、やっと来た女生徒が男爵令嬢と少々ややこしいそうなのだ。


 伯爵令嬢以上か平民の秀才しかしないAクラス女子に学力が少し劣っていて、しかも身分も高くないとなると、妬みが起こるのではないかという。



 Aクラスにはディアーナ殿下、ラリック様、クライン様がいらっしゃるからだ。

 同じクラスになってお三方と親しくしたいのだ。

 実際モリス様、カナリー様、サスキア様は、ラリック様の取り巻きのようになっている。


 これは侯爵令嬢のデュラス様が、席の近いモリス様を召使のように扱うので、ラリック様が見かねておそばに置いておられるのだ。

 でも知らない方々にすれば取り入っているように見えるのだろう。


 そのせいで姫騎士志望の生徒たちから陰口をたたかれているという。

 三人とも、ちゃんとした伯爵令嬢なのに。



 それにしても不思議なのは公爵令嬢が侯爵令嬢に面と向かって注意をしてはいけないらしい。

 やんわりと当たりさわりなくふわっと注意するだけ。

 面と向かって敵対関係になってしまうと、デュラス様の人生を左右するからとのこと。


 デュラス様みたいな方は、学院へ行けばよかったのに。

 学院の令嬢科ならば格下の貴族の生徒から侍女を選んで、同じクラスに入れるのに。

 どうして行かなかったんだろう?



 この話はクライン様とダイナー様が話していたので知った。

 こんなつまらないことで揉めるなんて、やっぱり貴族は嫌だな。



 それからクライン様からもロブの留学の話もされた。

 ロブは帰ってくるのだから、気を落とさぬようにと言われた。

 慰められたんだろうか?

 大丈夫だということを言うと、無理しなくてもよいと言わんばかりに微笑まれた。


 いや、本当に大丈夫です。

 ロブは手紙くれるし、シーラちゃんとつながってるんだから。

 あとはシーラちゃんを正式にお迎えするだけです。



 今日は授業の説明とクラス委員を決めることになっていた。

 クラス委員の男子は、去年もされていた文官学部志望のシスレー子爵令息で即決まった。


 女子が問題で、去年は初めデュラス様がクラス委員をされていたのだが、夏休み後クラス替えでドロスゼンが手伝うという形でほぼドロスゼンがやっていた。

 彼女が退学後はシスレー様がおひとりでさばいておられた。

 なぜなら、一度引き受けたのにきちんとやらないデュラス様のことが信用できなかったそうなのだ。


 デュラス様……、苦手なタイプだ。文官になりたくないんだろうか?

 


 案の定、「このクラスには召使が一人いるじゃない。彼女にさせればいいわ」と私の名前が挙げられてしまった。

 クライン様が私にはさせることがあるのでと拒否してくれたけど。

 結局、クラス委員の経験が一番有効なのは文官学部なので、デュラス様が受け持ってロイドさんが手伝う(つまり実質ロイドさん)ということになった。

 


 でもこんな風に助けられるといいのか、悪いのか、ますますエマ様の件を断れない。

 私としてはごたごたさえなければ、このお話をお受けしてもいいと思っているのだが難しいところだ。



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 学院の社交科は、別名貴族学部令嬢科と呼ばれていて結婚や社交のための交流目的で女子しかいません。


 デュラス様は勉強はまあまあできるのですが、文官になろうとする気持ちがあんまりないのが節々で感じられるので、エリーは疑問に感じているのです。





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