第247話 シーラちゃんとのお泊り会
新学期が始まる前に、シーラちゃんが寮の部屋に泊まりに来ることになった。
ロブと離れて2年以上私たちとやっていかなければならないからだ。
たまに会う分には仲良くできても、これまで個室だったシーラちゃんが私たちと寝起きしてストレスがかかるかもしれない。
どうしてもだめなら、モカのシークレットガーデン内にシーラちゃんの個室を作ることも検討していた。
「モカの負担にはならないの?」
「あたしは大丈夫。
お兄さんに言って触ってほしくないもののところには近寄れないようにしてもらえばいいから。
ただ迷子になるかもしれないから気を付けないとね」
モカの庭には、バロメッツのような樹木型魔獣もいるし、マンドラゴラの群生地もあるし、他にも珍しい樹木がいろいろ生えているそうなのだ。
野生時代に面白そうだと思ったものは植えてあるのだという。
「マンドラゴラなんか1,2株しか植えなかったのに、すっごく増えてるのよね。
気がついたらてくてく歩いてるしさ」
「ええっ! マンドラゴラって歩くの?
土から抜けるとき叫び声あげないの?」
マンドラゴラを引っこ抜いたときに叫ぶ声を聴くと死んでしまうのだ。
「自分たちで移動する分には叫ばないよ。
私も動くって知らなかったから、もしかしたら特殊個体なのかも。
こないだダンス教えたらみんなで踊るようになっちゃって結構かわいいの」
「それってモカの従魔みたいなものなのかな?」
「うーん、よくわかんない。入らないでほしいところだけお願いしてあるけど」
「あの庭、どのくらいの広さなの?」
「実はあたしにもわかんないんだ。
新しい畑が欲しいなとか、魔獣と戦える広場が欲しいなって思ったら、そのスペースが出来てるの」
「モカには樹霊神ユグドラ様の加護もあるものね」
「もしかしてユグドラさまがいらっしゃるのかなぁってエリーみたいにお祈りしてみたの。
でもお答えはなかったわ」
聖獣でも神様と交信なんてなかなかできないよね。
でもモカの加護がマンドラゴラやバロメッツを特殊個体にしているかも。
バロメッツの1匹だけよく動く子がいて、根っこはつながっているけど走り回ったりするんだ。
「マスターのお手を煩わせたくないけど、シーラちゃんのこと一緒にお願いに行くよ」
「大丈夫よぉ。お兄さんはやってくれるって」
モカは身内だからだろうか?
自信満々である。
うん、もしシーラちゃんに個室がいるときはお願いします!
それからドラゴ君がロブの家までシーラちゃんを迎えに行き、連れ戻ってきた。
「ただいま~」
「おかえり、ドラゴ君。シーラちゃんもよく来てくれたね」
シーラちゃんはドラゴ君に巻き付いてやってきたが、部屋につくと巻き付きを解いて、よろしくというように静々とお辞儀をした。
「おお! なんか三つ指ついているように見える」とモカがニヨニヨしている
みつゆび?
「あのね、向こうの世界でお嫁入りするときにする挨拶よ」
うん、シーラちゃんにしてみたら
お嫁入りの練習みたいな感じかな。
「案内するほど広くないけど、よかったら好きに見て回ってね。
錬金窯と保存庫の中にだけ入らなければいいから。みんな案内してあげて」
「シーラ、まずはドラゴ君のベッドが見たいよね。こっちよ」
「モカ! なんでベッドからなんだよー」
「そりゃこれからそこで寝るから」
「シーラがぼくのベッドで寝たら、ぼくはどこで寝るのさ?」
「えっー! ドラゴ君冷たい」
「みゃみゃー!」
どうやらモカとミランダはシーラちゃんの味方のようだ。
「シーラ、ぼくと結婚するわけじゃないからね。そこんところ覚えておくように」
ドラゴ君が牽制するけれどモカはシーラちゃんをけしかける。
「このチャンスに既成事実作るのよ!」
「ぼくもシーラもまだ幼いから、そんなことできないよ!」
うん、私もこの部屋で既成事実とやらはしていただきたくないなぁ。
でもカーバンクルとギーブルってどうやって子供作るんだろう?
他種族では恋愛できないってドラゴ君言ってたよね。
魔獣同士なら大丈夫なんだろうか?
そんなこんなで軽いひと騒ぎがあったけれど、シーラちゃんは私の部屋を見て回ってドラゴ君のベッドの近くで休むことになった。
さすがに3メートルの巨体を乗せるベッドは入れられなかったが、ロブがくれた丸いクッションボールの上で小さくなってとぐろを巻いていた。
背中の羽はきれいに畳んで、丸まっても問題ないようだ。
「それとね、まだ孵ってないんだけど、もう1匹仲間が増えるの。この子よ」
私が専用の籠に入れている魔獣の卵を見せると、シーラちゃんは少し顔を近づけた。
「シーラがその子のこと知ってるって。ロブんとこに来ようとした子だって」
ドラゴ君がすかさず通訳してくれる。
「そうなの。ウチに来たいって言ってくれたから来てもらったの。
私のところではこんな風に従魔が増えるのよ。これ以上は増やさないつもりだけど。
シーラちゃん、我慢できる?」
シーラちゃんは頷いた。
「独占したいのはドラゴ様だけなのって、もうシーラ! 結婚じゃないからね!」
「ロブはもういいの?」
「エリーならいいって」
おっと、まさかそう来るのか。ちょっと恥ずかしいです。
ご飯の時間になって、シーラちゃんには私の作った料理とドラゴ君がぶつ切りお肉を用意した。
ドラゴ君がシーラちゃん専用食器にどかどか入れてるお肉がちょっと不穏な空気を放っていたのだけれど。
何のお肉かなぁって鑑定したら、シーラちゃん、オーガとかトロルとかも食べるんだね。
見るんじゃなかった。
まっ、ヒトじゃないし気にしないでおこう。
「ねぇ、シーラちゃんって狩りしたことあるの?」
シーラちゃんは首を横に振った。
「やってみたい?」
シーラちゃんは強く頷いていた。
「そうか、じゃあシーラがエリーの従魔になったらヒト気のない狩場があるから連れってたげるよ。みんなもいいよね?」
「「「おー!(にゃー、フルフル含む)」」」
ドラゴ君の言葉にみんな同意の片足をあげている。もちろんモリーも手のように体を伸ばしていた。
これからのみんなの活躍がすごく楽しみだ。
夜になってシーラちゃんの銀色の体がほんのり赤らんでいて見ている私たちが恥ずかしかったが、ドラゴ君が無情にもこう言った。
「今日はみんなでエリーのベッドで寝よう!」
シーラちゃんはそれもいいと思ってくれたみたいで、私のベッドの上に全員乗ったのだった。
セミダブルでよかったです。
ヴェルシア様、予定外でしたがシーラちゃんも仲間になってくれることになりました。
私たちが仲良く暮らせますように。
そしてロブをこれからもお守りくださいませ。
------------------------------------------------------------------------------------------------
三つ指をつく挨拶は丁寧なあいさつのことなので、結婚の挨拶とは限りません。
しかもその場合花嫁が親にお世話になったことへの挨拶のことが多いでしょう。
昔風に夫を三つ指ついて迎える感じと混同してるんだと思います。
モカは前世中学生なので、ちょいちょいいろんな誤用をしております。
それとオーガやトロルは人を食べると言われているので、人間は食べません。
でもあくまでオーガやトロルのお肉なのでエリーは目をつぶることにしたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。