第246話 留学


 ロブからやっと連絡が来て、週末の土の日に会うことになった。


「連絡しなくてごめん」

「ちょっと心配したけど、ロブとシーラちゃんが元気ならいいよ」

「うん、元気は元気なんだけど……」

 なんか話し辛そうだ。


「ロブ、私は冒険者だから無理して話さなくってもいいよ」

「いや、やっぱ言うわ。俺、エリーとの交際を反対されている」

 ああ、私の評判悪いもんね。



「ごめん。私が迷惑かけてたんだね」

「謝るのはこっちだろ。元々はマルトが仕掛けたんだから」


「ううん、その前に私がクライン様と噂になったから。

 私の畑に仕掛けた付与のせいでクライン様の手を痛めてしまったの。

 それで治癒魔法かけた時に素手であの方の手を触ってしまったんだ。

 クライン様は手袋されてたし、一瞬だよ。

 でもよく考えれば聖属性の塊のような方なんだから私が治す必要なんて全然なかったの。余計なおせっかいを焼いてこんなことになってしまったの」



「そうか、素手はまずかったな」

「ほら、平民同士ならそんなこと気にしないじゃない?

 だから先輩に指摘されるまで知らなくてどうしてこんなに誘惑したって言われるんだろうって思っただけだった」



「エリーはあんまり貴族と付き合いはないのか?」

「ニールではほとんどなかったよ。

 司祭様方は貴族なんだろうけど手袋はされてないし、お互い触ったりしないし」

「まっ、そうだな」

「受験勉強のためにお会いしたハインツ師とエイントホーフェン伯爵夫人ぐらいだよ」

「なんだよそれ。賢者と王室専門のマナー教師じゃねぇか」


「その、私の後援者に王族のラインモルト枢機卿がいらっしゃるの。

 今ニールで遺跡の発掘調査されてて私も手伝ってた」

「なんか知り合いのレベルがさらに普通じゃなくなった。じゃ『常闇の炎』とは?」

「こっちに来る時の乗合馬車で一緒になって、ドラゴ君と仲良くなったの。

 それで入った」

 ローザリア嬢のことは伏せておこう。

 私は守秘義務は抵触しないけど、クランの依頼は明かすべきじゃない。



「俺はエリーがそういう誘惑だの、金銭狙いだのしないのはわかっている。

 でもうちは商人だからさ。評判が第一なんだ」

「うん」

「うちの顧客は貴族も多い。

 跡取り息子が騙されているなんて評判が立つと困るって言われた」

「うん」

「でも俺はそういうのはあんまり関係ないと思ってるんだ。

 俺の店の評判は俺が作るものだ」

「うん」


「俺が誰にも馬鹿にされないくらいの成功をすればいい。

 だからエリーは心配しないでくれ」

「ロブ……」


「だから心配すんなって。元々そうしようと思っていたから。

 俺は注目されてるけど俺自身じゃなく、親父の息子だから注目されてるんだ。

 ほとんどの奴らが俺じゃなく、親父の金を見てるのさ」

「そんなことないよ」


「従魔ギルドはちょっとは俺の能力を見てくれてると思う。

 でも優遇されてるのはやっぱり親父の金だ。

 金があること自体は問題じゃない。むしろ優位に立てるし、機会も増える。

 俺はそれを活用して親父以上になりたいと思う」


「すごいね、ロブ。私だったら甘えちゃうかも」

「いいや、エリーはそういうのに絶対甘えない。

 だからそんなに頑張れるんだと思う」

 俺が頑張りたいのはエリーを見てるからかもなとロブは微笑んだ。



 別にそんなにいいものじゃないよ。



「ただ俺、留学することが決まった」

 えっ? でも子供は外国に出ることが禁止されているんじゃなかったっけ?


「1つだけ方法があるんだ。

 国賓として招かれた場合だ。国賓と言っても実質人質だな。

 もちろん俺が招かれる訳じゃない。ロシュフォール公爵家のアキレウス様が現在15歳でその従者としてついていくことになったんだ」



 ロシュフォール公は上王陛下の弟君で、臣下に下られたお方だ。

 アキレウス様は今年学院を卒業された方で、穏やかでおっとりとされているくらいしか知らない。

 王位継承には少し遠いけれど、クライン様に選ばれれば王になる可能性があるはずだ。



「そういう人間でないと人質の役にならないだろ。

 次代はシリウス殿下とエドワード殿下の一騎打ちで、ダークホースでディアーナ殿下と言われている。アキレウス様には回る可能性は薄い」

「なのに行くの?」

「ウチは海外とも商売している。

 俺が向こうの言葉が出来ることも付いていく理由なんだ。

 それに見分を広めることは自分の実力をあげるにもいいと思う。チャンスだとも思っている」



「……そうなんだ。寂しくなるね」

「ああ、そうだな」

「その間シーラちゃんは?」

「留守番だ。シーラ見てビビらないのはエリーぐらいだから」

 あのかわいさを知ればみんな好きになると思うけど。でもやっぱりギーブルだもんね。


「それで頼みなんだけど……」

「なに?」

「シーラを預かってくれないか?

 シーラの食費は出すし、ずっと小さいままでいるように言うから」

 こんなことエリーにしか頼めないとロブは心苦しそうに言った。


 確かに好き嫌いの激しいシーラちゃんをロブの家の人たちが持て余すのは目に見えるようだ。

 放し飼いにして召喚する方法もあるけど、ギーブルの放し飼いって誤解を招きそうだし。



「私自身は預かるのは構わないよ。シーラちゃん大好きだし。

 あと寮の部屋は個室なんだけど、次の年もそうとは限らないから従魔になってもらわないといけないと思うの。

 だから私が学校にいる間はロブから借りるって形にしないといけないかも。

 あとクランの従魔舎に入れていいかは今すぐ返事できない」


 それにシーラちゃんの気持ちも聞かなくちゃね。

 一時的とはいえ従魔契約するんだから。



「だよなぁ。一応2年ってことだけど、伸びる可能性も高いしな」

「とりあえずクランの方で了解が取れたらいいってことにしようか。行く前にまた会える?」

「ああ、出発は7月なんだ。ただこの3か月でみっちり従者として叩き込まれるからさ。さほど時間は取れないと思うけど、必ず会おう」



 そのあと、ロブは恥ずかしそうにしながら、

「それでさ、その……俺、エリーたちと魔導写真を撮りたいんだ。集合写真でいいんだ。ダメかな」

「そんなの、全然いいよ!」


 私の返事にロブの顔はぱぁっと明るくなって、すぐに行こうということになった。

 私、いつものエヴァンズの制服だけどいいかな?



 連れていかれたのは王宮近くの魔道具店だった。

 スウィフトさんやベルさんのお店とは格段に違った、値段が。

 なんだか芸術品を置いてあるようなお店だった。

 どうやらディクスン家の経営の魔道具店らしい。

「ここで撮ってもらえるから」


 ロブは写真家の人と仲がいいみたいで、その人は私を見てニヨニヨしていた。

「笑ってないで、俺たちは忙しいから手早く撮ってくれ」

「ハイハイ、ぼん


 それで私とロブ、シーラちゃんとドラゴ君、モカ、ミランダ、モリーのみんなで記念撮影をしたのだった。



 ロブは私が魔導写真に慣れてるので驚いていた。

『常闇の炎』でドレスカタログの撮影したというと、

「お前のところのクラン、とんでもねーな。この撮影結構大変なんだぞ」

「そうなの? うちの裁縫頭が趣味で撮ってたけど」

「魔力をスゴク喰うんだ。あの写真機」

「それなら問題ないかも。その人、魔族だから」


 ロブはそれを聞くとすごく納得していた。

「ならエリーにドレス着てもらえばよかった」

 うん、知ってたらもうちょっとましな格好してきたよ。


 こうして写真は次に会ったときにもらうことになった。



 帰ってからジャッコさんにシーラちゃんの件を相談すると、

「一時的でもエリーの従魔になるんだったら、うちの従魔舎に入れても構わない」


 それなら学校で個室じゃなくなっても大丈夫だな。

 それで私はロブに従魔としてシーラちゃんを受け入れるとレターバードを送った。


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 エリーがビリーと仲良くしていた記憶は、ビリーによってドラゴ君とすり替えられています。

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