第242話 ソフィアの着付け


 お茶会の後、私はソフィアに謝られた。

「エリー、ごめんなさい。オスカー様に言われて断れなくて」

「構わないよ。練習用に何度も作ったから、料理はあったんだ。

 席の方もクランの人が何とかしてくれたし」

「モリーのことはわたくしがオスカー様に黙っていただくようお願いしておきます。

 ご自分からはわざわざ話をされないと思うけれど」


 しまった、そうでした。忘れてました。

 何を聞かれるんだろうって不安だったから、やっぱり緊張していたんだな。



「モリー、ごめんね」

 モリーは大丈夫と言わんばかりに体を震わせた。


「それにしてもソレイユ様は本当にエリーが好きなのね。

 袖の中に入るなんて余程だと思うわ」

「ここにね、聖属性の杭を入れてるの。釘ぐらいの細いやつ。

 だから居心地がいいみたいよ」

「まぁ、そんなの持っているの?」

「うん、リッチ対策」


 そういうとソフィアは黙ってしまった。

 ああ私ったら!

 ソフィアはエンペラーリッチを討伐に行くかもしれないんだった。



 慌てて話を変えようと言ったのもあんまりふさわしい話題ではなかった。

「ソフィアはダンジョン行くの?」

「いいえ、行けないの。

 わたくしがダンジョンでたおれてしまったら勇者と共に戦いにいくものがいないんですもの。

 でも別の戦闘訓練は受けることになっているの。

 オスカー様が今回王都にお戻りだからその指導を受けるかもしれないの」


「魔獣討伐と呪いの解除って言ってたね」

「ええ、呪詛の方は解除したヒトに降りかかってくることがあるわ。

 それを撃退して、さらに呪詛を行ったものを討伐しないといけないの」

 そんな……、ヒトを殺めないといけないってこと?

 聖女なのに?



「バトルプリースト、バトルビショップの立場を与えられたら殺生を許されるの。

 もちろん討伐対象だけよ」

「ソフィアが戦わなくてもいい方法ないかな?」

「ありがとう、エリー。心配してくれるのね。

 わたくしはあまり攻撃向きの魔法は使えないの。

 だから人間の討伐はほとんどできないわ。アンデッドには効くと思うけど」


 やっぱりアンデッドには効くんだ。



「あのね、ソフィア。

 もしアンデッドに会ったら、別に攻撃してこない時はどうするの?」

「攻撃してこないアンデッド? 

 そうね、わたくしに気が付いていないってことよね。

 ほかの人を攻撃する前に倒さないといけないわ」


「その、ほかの人も攻撃しない優しいアンデッドだったら?」

「エリーったら、なにか小説でも読んだの? 

 アンデッドは人が亡くなって肉体や思念だけが残ってしまって神の身許へ行けなくなったものなの。

 彼らの魂の救済のためにも滅しなくてはいけないわ」

「そうなんだ……」


 ビアンカさんって昔人間だったのかな?

 そういうこと聞けないしな。

 上級魔族だから他のヴァンパイアとは違うって言ってたし。

 でも私ビアンカさんしかヴァンパイア知らないし。

 うん、この話とりあえず保留。



 頭の中がグルグルしたけど、心を決めてソフィアを試着室へ連れて行った。



 私は例のドレスを取り出した。

「ソフィアこれよ。着てみて」

 彼女はそのドレスを胸に当てながら、見つめていた。


「エリー、とてもきれい! 素敵だわ」

「それにご報告もあります」

「えっ?」

「私、1級裁縫師資格取れたの! このドレスはソフィアに献納します。

 だからソフィアは公式にこのドレスを着ていいのよ。

 もちろん、無名の裁縫師だから無理に着てとは言わないけれど、気の置けない間柄の方々とならいいんじゃないかなぁ」



 するとソフィアは目をウルウルさせた。

「エリー、おめでとう。でもそんな大切なドレスをわたくしにくれるの?」

「うん、ソフィアのためのものだもの」


 ソフィアは涙をハンカチで拭って、

「ありがとうエリー、わたくしこのドレスを一生大切にするわ」

「すぐ着られなくなるよ。成長期だもん」

「いいえ、これだけはずっと手元に置いておきます」



 ソフィアの着付けは私と裁縫室のお姉さま方でした。

 ソフィアは質素な部屋に住んでいるけれど、着付けは王宮の方で手伝ってもらえるから慣れてるんだって。

 私は教会の方々を尊敬しているけれど、ソフィアの扱いをもっとよくしてほしいな。


 ヘアスタイルも古代風に飾りひもを編み込みながらのハーフアップにした。

 私はソフィアの髪をいただけだけど、久しぶりに長い髪をブラッシングしたので、1年前スライムダンジョンに行く前の自分の長い髪のことを思い出した。

 そして今が楽すぎて、自分が女らしくないなとも思った。



 私より5センチ以上は背が高いソフィアはすらりと姿勢がよく素敵だった。


 後ろのすそが少し長くなっているので、やっぱり夜用だな。

 昼のお茶会に着られるように後ろ短くした方がいいかな?


 そういうとソフィアはこのままでいいと言ってくれた。

「殿下方との交流の夕食会なら着ていけるわ。

 それにお茶会は……汚れる可能性が高いから着ていきたくないの」

 どういうこと?



「わたくしは殿下方に限っては結婚が許されているの。

 それをよく思わない方がいらっしゃるから……」

「まさかお茶かけられるの?」

「わたくしは平民ですもの」

 

 そんなソフィアも学校で苛められてるの?

 聖女にそんなことするなんて馬鹿なんじゃないだろうか?

 もう本当に貴族っていやだ。

 人を妬んでお茶かける暇があったら、ソフィアのようなしとやかさを身につければいいのに!


「ソフィア……」

「心配いらないのよ。それも聖女教育の一環なの。

 聖女たるもの、どのような妬みに会っても自制心を持って対応せよってね」


 そんなこと誰でもできることじゃないよ。

 やっぱりソフィアは本物の聖女様です。



「大丈夫よエリー、ちゃんと見てくださっている方がいるから。

 わたくしはよくクライン様に助けていただくわ」

「そうなの?」

「あの方には見えないものはないのよ。わたくしにわざとお茶をかけた方はそのあとお茶会でご一緒することはないもの」



 さすが有能ですね、「真実の眼」スキル。

 そういう点ではクライン様は信用できます。

 私の時は……付与で汚れなかったし、もういいや。

 うん、笑ってたもん。うん。



 お姉さま方はお茶のシミの心配をしていたが、聖属性の清浄クリーンの魔法できれいになるそうです。

 それでも大切なドレスだから汚されたくないんだって。

 嬉しいこと言ってくれます。


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ソフィアの髪型のイメージは、サンドロ・ボッティチェリの壁画の乙女のような感じです。

参考画像↓

http://www.bea.hi-ho.ne.jp/furukawa-ele/machi/community/BOTTICELLI.htm


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