第243話 ドレスのお披露目
ドレスを着替えたソフィアは本当に美しかった。
私も時々言われるけど、本当の美少女ってこういうのを言うんだよね。
ソフィアの美しさや清らかさが私のドレスをさらに素敵に見せてくれていた。
ビアンカさんの言う通りだ。
ドレスは着てもらってこそ初めて良しあしがわかるのだ。
それから私はソフィアをビアンカさんのいる応接室の方へ案内した。
どうかソフィアがビアンカさんを敵認定しませんように!
部屋に入るとビアンカさんは貴族向けの盛装してソフィアを出迎えた。
「ようこそ、ソフィア様。
私は『常闇の炎』裁縫頭のビアンカと申します。
本日はエリーのためにお時間をいただき、恐悦至極に存じます」
「いいえ、こちらこそお招きいただきまして、ありがとう存じます」
「さっ、どうぞこちらへ」
ビアンカさんはさりげなくソフィアの手を取り、奥の席までエスコートした。
一人ハラハラしているのは、私だけだった。
そういえば、ビアンカさんは王妃様にドレスを買い上げていただいたことがあるって言ってたな。
当然、デザインを合わせるためにお話しされたこともあるだろう。
心配しなくてもよかったのかもしれない。
でもオスカー様は気を付けよう。
だって
「エリーのドレスはいかがでございますか?」
「柔らかな質感なのにたくさん刺繍を散らしてあって華やかですね。
美しいだけでなく羽のように軽いですし、着心地よくてとても気に入りました」
「ありがとう存じます。エリーは私どもの裁縫室に入ったばかりの新人ですが、1級裁縫師の技術も備えております。
そしてあなた様を大切に思う気持ちはだれにも負けておりません。
どうかこれからも友人としてよろしくお願い申し上げます」
「エリーは得難い友です。こちらこそよろしくお願いいたします」
「それから今後は無理にわたくし共にドレスを頼もうとなさらないでください」
「それは……申し訳ないのですが、わたくしに依頼先を決める権限がないのです」
「存じております。
私どもも友人だから優遇されていると噂が立つのはよくありません。
お互いに避けるのが賢明です」
「ええ、その通りですわ」
ビアンカさんは私の方を向いていった。
「エリー、あなたがソフィア様のドレスを縫うには、自分のブティックを持ってそこを人気店にするしかありません」
「はい、肝に銘じます」
そっか、ドレスメーカーとして独立して認められないといけないんだ。
「ただし、ときどきプレゼントするのはいいワヨ」
そういってビアンカさんは私にウインクした。
突然の女言葉にびっくりしていたが、ソフィアは楽しそうに笑った。
それからビアンカさんは黒い皮のバインダーにドレスの献納書類を挟んで差し出し、ソフィアが受け取りのサインをした。
「
ビアンカさんが確認していたが、ソフィアはきっぱりと自分の名前でよいと言った。
これで正式にこのドレスがソフィアの物になったのだ。
お茶会の後だったけど、カノンさんが軽いハーブティーを出してくれた。
「ここからはちょっと砕けさせていただくワネ。
ソフィア様、ちょっと言ってやってくれません?
エリーったら、こんなにかわいいのにおしゃれしないんですヨ」
「そうですね。学校は仕方ないと思うんですけど、今日みたいなお茶会でまさか男装してくるとは思いませんでした」
「ラインモルト枢機卿からもらったのも着ないといけないからって、アタシがドレスにしようって言っても聞かないんですヨ」
「まぁ、そんな。
もちろんラインモルト様の贈り物も大切だけど、ビアンカ様のような目上の方の意見を聞かないなんていけないわ、エリー」
あれっ? なんか風向きがおかしなことに……。
「「「「「女の子なんだから、もうちょっとおしゃれしなさい!」」」」」
それからしばらくソフィアとビアンカさんたち裁縫室のお姉さま方からお説教されたのだった。
横にいる従魔のみんなもうんうんと頷いている。
誰も助けてくれません!
「で、でも普段も男の恰好してないと学校だけなんで男装なんだって言われるし」
「誰に?」
「えーっと、ジョシュとか、マリウスかな」
「そうなの?
マリウスさんなら、時々ご祈祷にいらっしゃるからわたくしが話しておくわ」
「やめて、ソフィア。
私、マリウスの彼女からなるたけ近づかないでって言われてるの」
「まぁマリウスさん、恋人がいらっしゃるの?」
「えーと、彼女候補?」
「そうね、優しい方だからきっとおモテになるわね」
「ジョシュは女嫌いだし、女装したら嫌われるかも」
「女装じゃないデショ。女の子なんだから。大体そんな頭のカタい男なんてダメヨ」
ビアンカさんにジョシュ、ダメ出しをされてます。
「そうなんですけど、ちょっとややこしいんです」
理由は知らないけど、ジョシュは多分女性のことで傷ついているんだと思う。
「ねぇ、エリー。
あなたが無駄なことにお金を使いたくないという気持ちはいいと思うの。
でもね、悪意を持つヒトって小さな綻びを見つけてそこを突いてくるの。
あなたがそういう格好をしていることが隙になっているのではないかしら?」
ソフィアが私の手を取って、心配そうに言ってきた。
「でも今から女の子の恰好しても遅いよね」
「それはそうかもしれないけど、これから目立たないようには……無理ね」
「うん、クライン様の従者を止めさせてもらって、転校するしかないと思う」
結局、学校絡みの時の男装はいいことになったけど、せめて普段は可愛くするように口を酸っぱくして言われたのだった。
ソフィアはビアンカさんやお姉さま方とすっかり仲良くなり、ニコニコ顔で帰って行った。
彼女の見送りをしたあとビアンカさんに頭を撫でられながらいわれた。
「エリー、あの方は本当によいお友達だから大事にするのヨ」
はい! もちろんそうします。
でも今日はちょっと疲れました。
お茶会も緊張したけど、女性陣のお小言って沁みるわぁ。
ヴェルシア様、私ドレスは嫌いじゃないけど、動きやすい方が好きです。
これっていけないのでしょうか?
私はいいと思うんだけどなぁ。
それにしてもビアンカさんの正体がソフィアに知られなくてよかった。
ふたりとも私の大好きなヒトだから、敵対してほしくないもの。
ヴェルシア様、どうかこれからも私たちが仲良くやっていけるように見守ってくださいませ。
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ソフィアもレオンハルトと同じようにたくさんプレゼントをもらいますが、いわれのない贈り物は受け取らないので、それらはすべて教会への寄付になります。
でも今回のエリーのドレスはソフィア個人が受け取りました。
それはそのドレスに対しての所有権を持つのと同時に、責任も発生します。
ビアンカさんはその意味を分かっているので、聞き返したのです。
公明正大な聖女ではなく、少女ソフィアとしてエリーの友情を受け取ったのです。
エリーがびくびくしてるのは、ビアンカさんがアンデッドの頂点であるヴァンパイアということを知られたら討伐されるかもってことですが、日の光を浴びても大丈夫で、鏡にも映って、バクバク飲み食いできるビアンカさんの正体はなかなかバレません。体温調整だってお手の物です。
それにアンデッド系の魔族とアンデッドの魔獣は似ているけど違うんです。
そのことはいずれ本編で書いていこうと思います。
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