第226話 別れを告げられる
楽しいお誕生会の翌朝、私はいつも通り一番に目を覚まして朝ご飯と昼ご飯の支度をする。
ドラゴ君とミランダとモカは私のベッドで、モリーはソルちゃんと一緒に自分のかごの中だ。
ソルちゃんの朝ご飯も作ろう。
料理の香りがし始めると一番に起きるのはドラゴ君。
その次がミランダかモリーで、モカは一番の御寝坊さんだ。
今日の朝ご飯はマントウと昨日の海鮮の残りをトマトスープで煮込んだもの。
お昼はバーベキューの残りのお肉で作ったサンドイッチを作った。
モリーは目を覚ますとちゃんとソルちゃんを起こしていた。
モカはというと、
「モカ!いいかげんに起きなよ~!」
ドラゴ君が足を持ってグルグル振り回されても起きない。
ミラが弱めのウインドカッター放ってる。当たってもきつめのデコピンぐらい。
でもさすがに攻撃魔法なので、モカも魔獣の本能で起きるみたい。
モカが目を覚まして、ミラの攻撃を避ける。
ウインドカッターが壁に当たるけれど、この部屋は不壊の付与を掛けてあるので大丈夫なのだ。
モカがでへへと言い訳をする。
「フィギュアスケーターは三半規管が強いのよ~」
さんはんきかんって何だろう?
「なんかね、耳の奥にあるバランスを司るところで、強ければぐるぐる回っても眼を回さないの」
ふーん、いろいろあるんだね。
なぜかソルちゃんは興味を持ったのか、
(ソルもやって~)
それでドラゴ君がひよこのソルちゃんの足を持ってグルグル振り回した。
べつに目は回さなかった。
そういえば振り回しているドラゴ君が目を回していないじゃないか。
魔獣はさんはんきかんが強いようだ。
どうやらドラゴ君とソルちゃんは仲直りしたみたい。
「飼い主には問題があるけど、ソレイユは悪い奴じゃないから。
これからもモリーが世話になるし、エリーのお誕生会はいいきっかけになったよ」
私はみんなが仲良くしてくれて嬉しいです。
ソルちゃんは朝ご飯にパクつきながら、
(いいな~、ソルもまいにちあさごはん、たべたいー)
「クライン様は朝ご飯をくれないの?」
(あのね、まりょくくれるのー。
リカのまりょくはきよらかだから、ソルだいすきー)
クライン様は目も髪も白金で、強い聖属性だと聞く。
同じ聖属性のソルちゃんと相性がいいんだな。
そういえばロブは典型的な闇属性で、シーラちゃんの姿が銀色だから基本闇属性なんだろう。初めて見た時は目が赤いから火属性かと思ったけど、闇や風の色にも変わってたもんね。
「ドラゴくんって、青い目だから水属性なの?」
「ぼくは治癒魔法以外は全部ある。聖属性はあんまり得意じゃないけどね」
「ミラは私と同じ風よね」
「にゃ!」
「モカは……」
モカは体も眼も全部茶色なのだ。土じゃなかったよね。
「あたしは樹属性。シークレットガーデンの中だけいろいろ使えるけど」
「モリーは聖属性ね」
私がそういうとモリーは多めにフルフルした。
モリーは外にいるときは空の青が映って水色に見えたけど、実際には透明で核の部分だけ真珠色に輝いている。白いんだけどいろんな色がきらめいているような気がするんだ。
成長したら他の魔法が使えるようになるのかもしれない。
食事を終えて私が教会の奉仕活動に行くと言ったら、ソルちゃんが付いてくるという。
困った。今日はレオンハルト様の音楽のレッスンなのだ。
レオンハルト様に用事が出来たので、光の日に変更したのだ。
「ごめんね、今日は大事なお約束で連れていけないの。
ここでみんなとお留守番してて」
(ソル、きょうかいとなかよしだよー。どうしてもだめ~?)
「来ていいか許可を得てないからダメ」
そういうと、モリーがソルちゃんの横までいき、ボールのように弾んで気を引いてくれた。2匹は一緒に踊るように弾んでいる。
モリー、ありがとう。
ドラゴ君に教会まで送ってもらって、レオンハルト様の練習場に行くといつものように、いやいつも以上に眉をしかめていらした。
ご機嫌斜めの日だ。
レオンハルト様はご機嫌斜めでも私につらく当たったりはなさらない。
ただご自分に対して厳しくなるから顔が怖いだけなんだけど、モカを連れてきたときのように優しい顔をしてくれた方がやりやすいのは確かだ。
いつものようにフルートを用意してレッスンが終わると、少し話があると言われた。
「トールセン、私はこのレッスンを続けられないかもしれない」
「そうなんですか?お忙しくなるのですか?」
音楽は私の心の支えの一つなのに……。お願いだから続けてほしいです!
「実は私には兄が2人いるのだが長兄が落馬事故で亡くなり、次兄が今熱病で死線をさまよっている。もしかしたら私は還俗することになるかもしれない」
そ、それは、大変なことじゃないか!
「私は幼いころから教会しか知らない。音楽によって神に祈りを捧げお仕えすることが私の使命であると、今もそう思っている。
しかし私の家は伯爵家だ。家を存続させることは、この神に守られた国であるバルティス王国の貴族の義務である。それには従わないといけない」
「その……、お兄様の容体は?」
「ずっと高熱を発している。水魔法の使い手が冷やし続けているが熱は下がらない。もってあと1週間と言われている」
なんと声を掛けていいのかわからなかった。
「ラインモルト様の勅命で君にレッスンしているので、特別に兄の側から離れてきたのだ。これからまた実家に向かう。今日で最後になるかもしれない」
「おっしゃってくだされば、モカを連れてきましたのに。
いえ、今からドラゴに連れてこさせます」
「いや、いいのだ。モカに会うと教会での楽しい日々を思い出して辛くなるだけだ。それに一刻も早く兄の側にいてあげたい。
君は良い生徒だった。よく学び、練習も怠らなかった。私は誇りに思う」
「レオンハルト様……」
レオンハルト様が手を出されたので、私は初めて彼の手を握った。
いくら子供で男装していても、女性に触れたくないと初めの頃に言われていた。
だから、これは余程のことなのだ。
教会を出ると従魔全員とソルちゃんが私のことを待っていてくれた。
どうやら私がレオンハルト様のためにモカを呼び寄せようと思ったのが伝わったらしい。
「モカ、ちょっとだけ話しできないかな?」
私たちはヒトが周りにいないことを確認し、シークレットガーデンの中に入った。
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モカはドラゴ君にジャイアントスイングされていると思ってください。
投げ出しませんけどね。投げてもいいような気もする。その方が起きそう。
朝のちょっとしたじゃれ合いです。
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