第225話 サプライズ
ロブとの食事を断ったので、私はみんなとクランに戻ることにした。
予定が空いてしまったけど、薬師ギルドに納品する薬の調合に当てることにした。
イライラした気持ちを抱えながら薬を仕上げた。
鑑定したら効果がいつもより少ないようだ。
集中力を欠いてしまったのだろう。
今私が取った資格はこれだ。
裁縫ギルド 二級裁縫師、三級皮革裁縫師
薬師ギルド Cランク(三級薬師)
調理製菓ギルド 三級調理師(製菓含む)
ロブがいいヒトと言っていたサブギルマスのオットーさんも信頼できそうになかったので従魔ギルドはもう行かない。
もう2月だ。
なんとしても3月にある次の1級裁縫師資格を取りたい。
合格のためには優れたデザインのドレスを作ること。
でも着る人の着心地や機能性も兼ね備えていないといけない。
クランの裁縫室にあるデザイン帳や資料は参考にするとビアンカさんのデザインに似てしまうのでダメだし、手芸でターシャさんに勝つなんてまったく不可能だ。
どうしたらいいのか頭を抱えていると、モカがポンと私の肩を叩いた。
「エリー、あのね。明日の闇の日、早めに学校に戻らない?」
「早めに? どれくらい?」
「うーん、晩御飯前くらい」
「いいけど、晩御飯は私が作ればいいの?」
「えーっと、あたしたちはいらないから」
「でも私は食べないとね。いいわ、何かつまんでいくから」
「うーん、じゃそれで」
翌日の闇の日、夕飯がわりに私は作り置きしてあったパンを齧ろうとすると、
「あたし、おなかすいたー」とモカは私から奪って走り去った。
モカ~、私の夕飯―!
それで他にないかとクランの調理室をあさっていたら、りんごがあった。
使う予定のない食材を置くところにあったから、食べてもいいやつだ。
いただきまーす。
するとミランダがにゃーんと私に飛び掛かかり、奪って走り去った。
ミラ~、私の夕飯―!
それから学校にいる間に使う食材を買いに、みんなで市場に出かけた。
もう遅いので新鮮な食材ではないが、売り切りたいので結構安く買えるのだ。
比較的よさそうなトマトとジャガイモなどを購入。
ジャガイモ入りのニョッキにして、トマトソースであえればいい。
塩漬けのオークがあるので、それも入れよう。
するとお安くなったマントウがあった。
マントウは肉入りのおかずをふくらし粉の入った小麦粉の皮で包んで蒸したパンの一種で、王都に来て初めて見たものだ。
なんでも遠い東の国ではよく食べられているらしい。
肉だけでなく、いろんなおかずを入れてもいいんだって。
私が父さんのパンでおかずをくるんで焼けばいいと案を出したが、もうすでに似たようなものはあったのだ。
私とみんなの分で5つ買うとおまけに1つ、くれた。
ワーイと思って夕飯代わりにかじろうとすると、今度はドラゴ君に取られた。
ドラゴく~ん、私の夕飯!
「エリー、マントウはあったかい方がおいしいよ。
学校についたら僕らの分も蒸しなおしてよ」
「そうだね。モカがみんな夕飯要らないって言うから、一人で食べなきゃと思ったけどマントウくらい食べれるよね」
「うん、大丈夫。それにモリーは一緒に食べたいんじゃない?」
「そうだね。あっ、そうだ! この一つはソルちゃんにあげよう」
「え~、ソレイユ? 別にいらないんじゃない?」
「ダメダメ、モリーがお世話になってるしね。
ロブに渡すつもりだったお菓子もソルちゃんにあげよう」
みんなで一緒に食べる方が絶対おいしいもの。
お腹もすいたし、早く学校へ行こう。
学校につくとまずクライン様の執務室に向かう。
モリーを迎えに行くためだ。
ノックをするとソルちゃんが私を認識して鍵を開けてくれる。
「モリー」
よびかけると、モリーはいそいそと私の元に寄ってきて最後は私の胸元まで跳び上がったのでキャッチした。
(ねぇエリー。リカがそとにでていいって、いったのー)
そう言ってソルちゃんが私にクライン様の手紙を渡した。
確かにその通りのことが書いてある。
(モリーのかごがあるってきいたのー。ソル、ちいさくなるからそこにとめて―)
私はいいけどドラゴ君がと振り返ると、なんとドラゴ君は頷いていた。
いいんですか?
というわけで、ソルちゃんを私の部屋へご招待することになった。
マントウとお菓子があってよかった。
私の女子寮の部屋は屋根裏部屋で、広いけど屋根を支える梁が見えてちょっと天井が低めだ。
ソルちゃんには飛びにくいのではないかと思ったが、ソルちゃんはひよこになってモリーと一緒に私の左袖の中に入ってしまった。
ソルちゃん、そこ好きだね。
みんなが入ってドアを閉じると、モカが叫んだ。
「我が庭よ、開け。シークレットガーデン」
私たちはモカのシークレットガーデンの中に入ってしまった。
その時モリーとソルちゃんが光ったので前が見えなかったが、光が消えるとはっきりと見えた。
『エリー おたんじょうび おめでとう』
木と木の間にそう書かれた幕が渡してあり、カラフルな飾りが付いて煌めいていた。その下に白いテーブルクロスがかかった大きなテーブルがあった。
真ん中に赤いいちごをたくさん乗せた大きなクリームたっぷりのケーキがあり、周りにもお菓子がたくさん並んでいた。
その少し離れたところで、ルードさんが炭に火をつけて網を乗せていた。
「「「「「「エリー、11歳のお誕生日おめでとう!」」」」」」
(にゃにゃー、フルフル含む)
私は胸がいっぱいになった。
「ありがとう。みんな本当にありがとう!」
「今日はお兄さんとルードさんにも協力してもらったの。
あの幕はみんなで書いたんだよ」
「モカさんがいうほど、俺は大してやってませんよ。
おかげで異世界のバーベキューというものを体験できますし。
海鮮もいいと聞いたので海で楽しく漁もしてきました」
「ルードさん、私のためにありがとうございます。
あの……マスターは?」
「マスターは少しお忙しくて来られないんです。
でもこのテーブルやら飾りつけやらはマスターがご用意されたのですよ」
嬉しくて涙が出てきた。
「エリー、泣かないで。どうしたの? 悲しいの?」
ドラゴ君が心配そうに聞く。
「違うの。これはね、うれし涙っていうのよ。
ヒトは悲しい時だけじゃなくて、本当に嬉しい時にも涙が出るものなの」
「そっかぁ、じゃあ心配しなくてもいいんだね」
私がドラゴ君を抱き上げると、ドラゴ君はハンカチで涙を拭いてくれた。
ルードさんが手を叩いた。
「さぁあぁ、皆さん。何でも好きなモノ焼きますよ。
モカさん考案の焼き肉のタレとBBQソースもあります。
このタレの元になるせいゆなるものも、マスターが東の国に探しに行ったんですよ」
マスター、ありがとうございます!
「エリー、食べよう!」
「うん! 何がおすすめ? モカ」
「やっぱり、最初は牛タンでしょ!」
「たしかミノタウロスの舌を、レモンと塩で食べるヤツですね。用意してあります」
ルードさんはそう言って手際よく、ぎゅうたんなるものを焼き始めた。
ソルちゃんは元の神々しい姿に戻って私の肩に止まった。
「ソルちゃんは好きなものある?」
(けがれてなければ、なんでもたべられるよー)
「ソレイユ、いつもモリーが世話になってるからな。いっぱい食べていいよ」
ドラゴ君が胸を張って言う。
ありがとう、みんな。
私は幸せです。
ヴェルシア様、今日と言う一日を与えて下さり、感謝いたします。
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これをSSにするか迷ったんですが、SSは読まない人もいると思ったので本編に入れました。
モリーを狩りに連れてったのはこの相談するためだったんですよー。
BBQだけど鍋オーブン(ダッチオーブン)の使い方をモカが分かっていないため、こじゃれた料理ナシでほぼ焼肉です。
あとマントウとは饅頭、つまり今回は肉まんのことです。
せいゆは醤油です。調味料さしすせそのせ(せいゆ)です。
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