第227話 レオンハルトルートのバッドエンド


 乙女ゲームのストーリーを熟知しているモカにレオンハルト様の事情を話すと、やはり詳しく知っていた。



「レオンのお兄さんはね、1番上は普通に亡くなったんだけど、2番目は彼の奥さんが呪詛を掛けているの。

 もちろん本人がじゃなくて、暗殺ギルドに呪殺を得意とするヒトがいるのよ。

 動機はレオンと結婚したいから。


 もともとレオンが好きでこの家によく遊びに来ていたのに、教会に入っちゃって仕方なしにそのお兄さんと結婚しちゃうの。

 それで満足していたらよかったんだけど。

 一番上が亡くなって今まで男爵夫人としてのほほんとしてたのが、伯爵夫人になって社交界だなんだってやらないといけない。

 好きでもない男のためにそんな苦労をするのが嫌になっちゃったの」



「そんな身勝手な理由、おかしい」

「うーん、これって乙女ゲームのストーリーに合わせるための話っぽいのよね。

 レオンハルトはその結婚で純潔を失って教会に戻れないし、その妻が途中で殺人を犯したことが分かって益々心が冷えてしまうの。

 その心を溶かすのがまどかなのよ」


「私だったらその役目、絶対負いたくないなぁ。

 レオンハルト様の心を傷つける前に何とか出来ないかな?」

「まずレオンのお兄さんを助けることが先決よね。

 暗殺ギルドとつなぎを取る方法はあるんだけど、エリーは子供だから無理かも」


「ちなみにその方法は?」

「王都の娼婦街の元締めに気に入られること。

 まどかは彼が盗賊に襲われそうになった時に助けるんだけど」

「それ私たちが助けたら?」

「2年以上先に起こるときしかわかんない」

 そっか、乙女ゲームは私たちが13歳にならないと起こらないんだ。



「暗殺ギルドなんか、ぼく反対。だいたいエリーが狙われてるかもしれないんだし」

「そうだね。簡単ではないよね。続きは学校が終わってから考えよう。

 モカは役に立ちそうな情報、思い出してくれる?

 私はとりあえずクライン様のお茶の支度しなくちゃ」


 私が走って食堂へ行こうとしたら、ドラゴ君がみんなをカバンに入れて(なぜかソルちゃんまで)、私の背中に飛び乗った。転移しないのね。

「従魔は勝手に走っちゃいけないからね」

「了解!しっかり捕まってて」

 身体強化を使って急いで走り抜ける。

 まだ朝早いから人気が少なくてよかった。



 食堂の人が頼む前に用意してくれていたおかげで、私は時間通りにクライン様の執務室についた。

 ソルちゃんに私たちといた間のことを内緒にしてって頼んだら、

(いいよー)と言ってくれた。


 魔獣は口にしたことは守るので、特別な場合以外は魔法契約など必要ないらしい。

 それで安心してクライン様にソルちゃんをお返しした。



「ソル、楽しかったかい?」

(とってもー! 次はリカもいっしょにいこー)

 ごめん、ソルちゃん。それは絶対に嫌です。


 クライン様は外で見せる優美な微笑ではなく、明るい笑顔で返していた。

 ダイナー様がよくこんな顔で笑う。

 このヒトもこんな顔するんだな。



 授業が終わって、モカにレオンハルト様のことを尋ねてみたが、いい案はないそうだ。


「でもレオンのバッドエンドは思い出した。

 元妻が死刑になるために牢に入ってるんだけど、レオンの側にいるまどかを殺すために脱獄するの。

 それでレオンがかばって死にかけるの。

 元妻がまどかにとどめを刺そうとしたときに、レオンが最期の力を振り絞ってかばって殺しちゃうの。

 そして罪を犯して神の御許みもとへ行けないと嘆きながらレオンはこの世を去るの」



「そんなこと、絶対にダメよ!

 レオンハルト様は教会でも特に熱心で敬虔な司祭よ。

 あのような方が神の御許へ行けないなんてそんな恐ろしいこと、絶対ダメ」

「エリーも信心深いものね」

「うーん、私はヴェルシア様に語り掛けてるだけだよ。

 レオンハルト様のようにこの世の安寧を祈ったりはしない」

 一般人とレオンハルト様を比べてはいけません。



「ぼくはレオンハルトなんて知らないけど、悪い奴ではないみたいだね。

 エリーが助けたいなら手伝うけど、危ない真似はさせないからね」

「うん、私も出来る範囲でと思ってる」

「お兄さんに治してもらえば? 呪詛なんて簡単に返せるよ」

「うーん、マスターが捕まればいいけど、お忙しいよね」



 それで私の案を言ってみた。

「あのね、モカの精霊魔法はどうなの?」

「レオンのお兄さんをシークレットガーデンに入れるの?

 できなくはないけど聖獣バレしちゃうよ」


「マリウスの時みたいに、夢の中での話ってことに出来ないかな。

 今度はお守りタリスマンにして」

「どうやって渡すの?」

「だね~」

 それが思いつかない。がっかり。



 するとモリーがぴょんぴょん跳ねた。

「モリー、どうしたの?」

 ドラゴ君が通訳してくれた。


「ソレイユに頼めばいいって。

 ソレイユなら転移も出来るし、教会のことで行ったことにすればいいって」

 モリー……賢すぎる。まさか、この子も聖獣?

 でも鑑定では聖獣ではなかった。



「ソルちゃんに頼むとクライン様に借りを作らないかな?

これ以上、深入りしたくないの」

 マスターがあれほどおっしゃるから従者は続けるけど、やっぱりね。

「またお部屋に遊びに来てもらって、ないしょだよって言えばいいって」


 モリー……ちょっと黒いですか?

 ううん、賢いから策略めいて聞こえるだけだ。

 だってモリーはレオンハルト様を助けても何のメリットもないもの。



 それで私はタリスマンを用意して、モリーはソルちゃんを部屋に誘って、モカに樹魔法で呪詛を解除してもらうことにした。


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