第215話 従魔ギルドの害


 ロブはモリーを人差し指でなでなでしていた。どうやら気に入ったらしい。

 シーラちゃんは……ドラゴ君のあーんに夢中です。

 恋ってすごいな。

 ロブの初恋の人を殺すなんて絶対信じられない。



「全くエヴァンズっていったい今どうなってんだよ。

 近習の聖獣に騙されてテイムなんて普通ありえないだろうが」

「どうって、何が聞きたいのかよくわからない。上級生のことはわからないよ」


「お前の学年だけでいい。今回は異例尽くしなんだ。

 まずディアーナ王女がそっちに入学して、ラリック公爵令嬢までついてったろ」

「うん」

「しかも次期近習のクライン伯爵令息までそちらに入学して、1学年は学院ではなくエヴァンズに入ればよかったとさえ言われてるんだ」


「クライン様がいるから?」

「そうだ。王はまだ決まってないが、クライン伯爵令息が王国を仕切ることはもう決まっているんだ。彼には権力が集中する。学生の間によしみを結びたい生徒はたくさんいるからな」



「私、クライン様と同じ錬金術科志望なの。成績も同じ位でよく話しかけられた。

 だから悪い噂を立てられてしまったの」

「男装の毒婦か」

「うん」

「そうか。顔と成績がいいくらいでお前みたいなお人よしがどうしてそんな噂が立つのかさっぱりだったがそれなら納得だ。

 しかも聖獣にまで好かれちまってるときたらな」


 ソルちゃんとは最近だけどね。



「その……あんまり近づかない方がいいぞ。お前が野心家ならいいけど違うだろ」

 ロブ、私もそうしたいけど、もう遅いんです。

「私はのんびり従魔たちと過ごして、魔道具作れたらいいって思ってるの。

 政治とか権力とか、ついでに言うと贅沢にもあんまり興味がない」


「金は嫌うなよ。金は使いようによっては最高の道具なんだ。その金に振り回される奴は多いけどな」

「そうだね。素材として高価なものが必要なこともあるからお金は大事だけど、それだけじゃないと思ってる」



「今学院では、ディアーナ王女の女王説が急浮上している」

「そうなの? あまりご興味なさそうだけど」

「興味なんか示したら潰されるからな。女性王族は婚姻の道具にされるから」

 そういえば、失敗は許されないっておっしゃってたな。


「お前、ややこしいところにいるんだな」

 ロブにそう言われるとなんだか悲しくなった。

 望んでなかったけど、ど真ん中のクライン様の従者なんだもの。

 そしてそのことはロブに言いたくなかった。



「で俺に話って、モリーの紹介でいいのか?」

「それもあるけどモリーを従魔ギルドにも登録した方がいいのかな?

 あんまり私の従魔だって公表したくないの。それで冒険者ギルドにはクラン名で登録してあるんだけど」

 誰かがモリーのことを冒険者ギルドに問い合わせても、『常闇の炎』の名前しか出ない。もちろん担当テイマーは私の名前だけど。


「なるほど。ならしない方がいい。

 ランクアップには有力な魔獣をテイム出来ることが必須だが今回は聖獣の力を借りたってことだろ。

 能力を認められないかもしれないし、ミューレン家の依頼のため納品しろって言われるかもしれないからな」

「やっぱ、そうなるよね」



「従魔ギルドではテイムした魔獣は登録して納品が基本だ。

 納品してもらったら、売るなり貸すなり出来て、儲けが出るからな。

 俺もいろいろテイムしたけど、手元にいるのはシーラと、もう1匹の従魔は放し飼いで必要な時に召喚してる。

 シーラも売ってくれって言われたけど、こんなに心を許してくれる相手を手放せないから突っぱねた」


「じゃあ、他のテイムした子たちは全部従魔ギルドに?」

「全部じゃない。一部は魔獣商に売った」

「そうなんだ……」



 ロブは少し黙って考えていた。

「お前さぁ、従魔ギルド入る必要ないんじゃないか?」

「えっ、そうかな?」

「俺がテイマーになったのは魔力過多で体調がめちゃくちゃになったからだ。。

 定期的に魔獣をテイムして力を使うことで魔力量を調整している」

「でもたくさん従魔を引き連れる場合は、従魔ギルドに行くようにって魔獣学の教科書に書いてあったよ」


「そうだけど、お前従魔ギルドの依頼をこなせるほどの魔力ないだろ?」

「そんなに依頼あるの?」

「Bランクに上がるまでに様々な魔獣を1000匹ぐらいテイムして一部以外は納品だ」


「ロブ、そんなにしたの?」

「いいや、シーラのテイムが大きいからな。

 大物をテイム出来れば少なくて済む。俺のもう1匹の従魔はシャドウクロウだ。

 そいつとシーラだけで1000 匹以上に相当する。

 だから俺は300ぐらいしか納品していない」

 なんとなくだけど、シーラちゃん1匹で1000匹以上な気がする。



「シーラのテイムで俺の魔力過多も治まったから辞めてもよかったんだ。

 でも従魔ギルドは魔獣商ともつながりが深いので在籍してる。

 お前のテイム方法って卵孵すか、保護して世話して好かれる、だろ?

 そんな相手、納品できるのか?」

「出来ない……」

「だから登録しない方がいい。モカを納品しろって絶対言われるからな。

 今だったらモリーもだ」



 そんな!絶対に嫌だ‼

 従魔ギルドがいろんな魔獣を納品する必要があることは知っていたけど、手元に置いておきたい魔獣まで納品させようとするの?


「それだけティーカップ・テディベアは金になる。

 納品させるためにお前を嵌めるぐらい平気でやるぜ」

 そ、そんな恐ろしいところなのか?従魔ギルドって。



「最近変わった今のギルマスがあんまりいい奴じゃないんだ。

 サブギルマスのオットーさんが昇格してくれたらそんなことしないんだが」

 上の人の違いで変わってくるんだ。


 そうか、裁縫ギルドではキャッスルさんがトップだったから私をちゃんと扱ってくれたけど、他のところは違うのかもしれない。


「それじゃあ、今回登録できなくてよかったんだね。とにかくよく考えるよ」

「そうしな」



 それからロブはモリーのことを黙っている約束を魔法契約でしてくれた。

 こういう契約は破ったらペナルティーが重い(今回は体の一部を失う)のに。

 

 私たちのためにありがとう、ロブ。







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