第214話 待ち合わせの変更理由


 土の日が来た。ロブとシーラちゃんとの約束の日だ。

 今日は従魔ギルドに登録するので、学校にモリーを迎えに制服とケープの武装モードで行った。

 もちろんクライン様とダイナー様はいなかったが、ソルちゃんが執務室を開けてくれた。


 これから従魔ギルドに行ってご飯を食べるというと、「ソルも食べたい!」と騒がれたが、執務室をクライン様の許可なく空けることは出来ないので次回誘うことになった。



 従魔ギルド前でロブと待ち合わせなので立っていたら、見知らぬ子どもたちが私にメモ書きを寄こしてきた。


 見るとロブからのメモだった。

『今、中にややこしい奴がいる。そのまま右に曲がって左角にある酒場に来てくれ。従魔も入っていいところだから、みんなを連れてきていい。待ってる』



 裏通りと言うほどでもないので、指定通り酒場に向かった。

 酒場と言ってもお酒を出すのは夜だけでどちらかと言えばご飯屋さんだ。

中に入るとロブが待っていた。シーラちゃんは腕に巻き付いた状態だ。


「どうしたの? 場所を変えるほどややこしい人だったの?」

「ああ、ウチの生徒の関係者が来ている」

「学院の? 不良の先輩か何か?」

「いいや、ある侯爵令嬢のお使いさ。何でも特殊個体のスライムを生きたまま連れて来いと言う依頼を出しに来ている」


 なんかものすごく嫌な内容……。モリーを登録して大丈夫だろうか?



「俺、Bランクだからその場で依頼を指名依頼にされるかもしれないからな。

 学校でも時々絡まれてヤバいんだよ」

「絡まれるって? 侯爵令嬢に?」

「その、何か見込みがあるみたいなことを言われるんだ。

 でもあんなのに見込まれても、1ミリも嬉しくない。

 だけど相手は上位貴族だし無下にも出来なくてさ。だからやり過ごしたい」


 その気持ちめちゃくちゃわかるよ。



「いなくても指名依頼されるんじゃない?」

「面と向かって断るのは難しいが、いなければ学業を理由に断れる」

「じゃあ、今日はもう行かない方がいいよ」

「悪いな。ちょっと早いけど飯だけ行くか?」

「その飯なんだけど、こないだは私がご馳走になったからお弁当作ってきたんだ。

 アランカの近くにピクニックにいい丘があるって聞いたんだけど。

 私、風よけも、あったかくも出来るよ」


「うーん、そこはダメだ」

「どうして?」

「恋人たちが愛を誓いあう丘なんだ。昔、勇者がそこで恋人にプロポーズしたから。だからいつも恋人たちでいっぱいだぞ。むしろ恋人でないなら変な噂が立っちまう」

「そうなんだ。それは……ロブの好きな人に誤解されたら困るしね。」

「はぁ? そんなものいねーわ」

 即答すぎる。いますね、これは。



 ドラゴ君が急に口を開いた。

「プロポーズって先代勇者?」

「いや、300年前の方」

 どうやらモカの代わりに聞いたみたいだ。ユーダイ様の話なら知りたいよね。

 そういえばマツナガ様の仲間の勇者がプロポーズした話、あったな。


「人が多いならどちらにせよ駄目だね。シーラちゃんも元の姿に戻れないし」

「俺の行きつけの店で持ち込み料はらえばいいさ」

「持ち込み料?」

「お客が自分たちで食べ物を持ってきてレストランで注文しないなんて商売あがったりだからな。代わりにお金を払うんだ。それと飲み物は注文した方がいい」

「ごめん、そういうこと気が付かなくて」


「いいさ、わざとじゃないんだ。こっちが迷惑かけたから俺が払う」

「いいよ、私も払う」

「お前忙しいっていってたじゃん。予定が狂うと後で困るだろ」

「うーん、まぁそうだね。それじゃあお言葉に甘えるね」


 ごちそうしてもらったお返しがしたかったのに、余計なお金を出させてしまった。

 次だ。次返そう。



「私の方もちょっと話あるんだ。さっきの話とも関係してる」

「さっきの話? 指名依頼のことか?」

「うん、ちょっとだけ」



 注文した飲み物がやってくるとシーラちゃんが元の姿に戻り、私は作って置いたお弁当を広げた。

 サンドイッチや小分けにしたサラダなど野外でも食べやすくしてあるものだ。

 3匹が取ってきてくれた蜂蜜とクライン様にもらった牛乳で、木の実のキャラメルタルトも作ってみた。

 もちろんシーラちゃん用の生肉もしっかり用意済みだ。


「へぇ、うまそうじゃん」

「一応、仮所属クランで調理も担当してるよ。どうぞ食べて」

「じゃ、いただきます」



「あっ、うまい」

 ロブが一口、食べて呟くように言う。

「ありがと」


「シーラ、エリーのご飯は愛情いっぱいだから、こっちも食べなよ」

 ドラゴ君はそう言ってシーラちゃんに私の料理を分けていた。

 気に入ってもらえるといいな。



「それで話って?」

「特殊個体のスライムのことなんだけど……」

「ああ」

「あの子は私がテイムしちゃったの」

「何だって? そんな簡単にテイム出来るのかよ⁈」


 それで、ソレイユ様の推薦だったから簡単にできてしまったことを話して、私はポケットに入ってもらっていたモリーを出して紹介した。



「ロブ、私の従魔のモリーだよ。冒険者ギルドには登録済みです」

 モリーは私の手のひらの上でこんにちはと言わんばかりにロブに向かって、フルフルと震えた。言ってるのかもしれない。


「特殊個体とは聞いていたが、こんなに小さかったのか……。これじゃあ見つけられないのもしょうがないな」

「そうなの。ソレイユ様はひよこになって羽の下に隠してたの。それで油断してしまってテイムするように誘導されたの」


「ソレイユ様って、クライン伯爵令息の従魔で有名なフェニックスだよな。

 お前、そんな大物にも好かれてるのかよ」

「うーん、扱いやすいって思われてるだけかもしれないけど」



 ロブはコホンと咳払いをした。

「せっかく紹介を受けたのに返さなくて悪い。

 俺はロブだ。モリーよろしくな」


 ロブが右手を差し出すと、モリーの一部が伸びてロブに差し出した。

 彼は目を見開いたが、気を取り直してその部分をつまんで握手していた。


「こんなに小さいのにすげー賢いんだな。そりゃ逃げ出しもするわ」

そう言って納得していた。




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