第210話 愛情の重要性


 夕食の後、私は考えた末モカにエンドさんのことを伝えた。


「ご飯食べてないか……、でもエンドならそうするかもしれない」

 意外なことにモカは驚かなかった。



「モカ、心配じゃないの?」

「心配は心配だよ。ローザリアってホント最悪な悪役令嬢だから。

 あんな奴のところに行ったらエンド、ヒトを殺せって言われるかもしれない」

 ええっ、そこまでひどいの?

 ああ、でも私もつまらないことで殺されそうになった。ありうる。



「それに……、エリーだったらいい?」

 モカはドラゴ君とミランダを振り返った。

 2匹が頷いたので、モカは続けた。


「みんなエリーのご飯好きだからさ、言わなかったんだけど、。

 あたしたち別に食べなくても大丈夫なの」

「そうなの? いつもあんなにもりもり食べるのに」

「食べた方が魔素を得るのに楽なだけで、魔素ってそこら中にあるから食べなくても平気なの。でも私たち魔獣はあんまりそのことを人間に言わないわ」



「どうして?」

「扱いがひどくなるからに決まってるじゃない!

 食べなくてもいいなら何にもしてくれないに決まってるもの。

 例えばシーラみたいに体が大きくて魔素をたくさん必要としているのに食べさせてもらえなかったら生きていくだけで精いっぱいよ。

 そんなことをほとんどの魔獣が喋れないってこともあるけど、自分から言うことはないわ。

 そのことはお兄さんやルードさんは知ってると思う。魔族やダークエルフは魔素の動きに敏感だから」


「でも人間はそうじゃない」

「エリーだってお金持ってるけど、持ってますってわざわざ言わないでしょ。

 そんなこと言ったら別の危険があるから」

 なるほど、その通りだ。



「じゃあ、私はみんなにご飯出していいのね?」

「もちろん! あたしたちエリーのご飯が大好きなの。エリーのご飯は一味違うの」

「多分質だね。エリーはぼくたちに美味しいものを食べさせたいっていつも思ってくれてるでしょ」

 ドラゴ君の言葉にミランダも隣で頷いていた。


「それは当たり前でしょ」

「でもね、その思いはぼくらにとって力になるんだ。魔素から生まれる魔力とは違う別の……愛情と言う魔法だ。そうだね、精霊たちの加護や祝福に近いかな」

 そんないいものじゃないと思うけど、そう思ってくれているなら嬉しい。



「あたしたちがエリーに甘えたくなるのもそれなんだよねー。

 エリーに抱っこされると愛されてるってわかるから。

 あたしたち魔獣は力を求めるの。

 そして愛情と言う魔法は私たちの求める力としては最高のものなの」


「だからエリーに魔獣たちは近づきたがる。

 従魔舎でたくさん寄ってくるのはそのせいだよ。

 シーラは独占欲の強いギーブルだけど、エリーは分け隔てなく愛情をくれるからあんなに簡単に懐いたんだ」


 知らなかった。

 でも知ってしまったからと言って、それを利用しようとは思えなかった。

 だってわざと愛するなんて無理だもの。



「私……、ワームに嫌われてるの。もしかして私が嫌っているから?」

「ワームのように知能の低い魔獣でも好かれているか嫌われているかはわかる。

 でも好かれているとわかっても食べたい本能の方が強かったら食べるから、出会ったら倒した方がいいね」

 そうか。こっちが嫌っているから攻撃されたわけではないってことね。



「これって本当はものすごい秘密だったんじゃない?」

「ぼくらはそれだけエリーを信頼している。エリーは清廉だから」


 清廉スキルって、なんだか足手まといスキルのような気が若干していたんだけど。

 こんな素晴らしい恩恵を私に与えてくれていたのか。


 魔獣たちからの信頼。

 魔力の弱い私がこれからテイマーとして、魔獣たちに助けてもらうにはこんなに素晴らしいスキルは他にない。



「みんな大切な秘密を教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。とにかく話を戻そう。

 モカ、エンドはこの王都にいる。場所はイースト地区だ。心話で繋ぎを取れるね」

「うん。でももっと遅い時間にするわ。周りに人がいるといけないから」


「ドラゴ君、どうしてイースト地区だとわかったの?」

「うん? ウィル様から今聞いた」

 ああ、心話欲しいです。



「ウィル様がエリーは心がまだ育ち切っていないからダメってさ」

 ええっ? マスターどうしてわかったんですか?


「エリーは子供ですぐに相手を信頼しちゃうから。悪い奴に利用されることもあるんだ。心話でつながっている相手に洗脳を施すのは簡単なんだよ。わかるでしょ」

「うん。それでエンドさんからモカを受け取っちゃったもんね」

「それだけじゃないでしょ。ソレイユとかいうフェニックスにスライムをテイムさせられたんでしょ」

「そうなの。モリーっていうの。ソレイユ様がお気にいりで、今はお側にいさせてもらってるわ」



 3匹は頷く。

「わかっている。ぼくらはエリーの従魔だ。だからモリーから心話で挨拶があった」

「そうなの?」

「でもエリーがテイムを迷っているから、一時的な間柄かもしれない。だからぼくらはまだ受け入れていない。それでモリーはソレイユのところにいるんだ」


 そうだったんだ。私もみんなにテイムしたこと言わなかったしな。



「エリーが困っているなら、僕が消してもいいよ」

「待って! そのモリーが嫌いだから迷っているんじゃないの。

 モリーが生まれたいきさつがあのローザリア嬢と関係あるから、ちょっと怖いの」

「わかった。ごたごたを招きそうなんだね」


「そうなの、モリーもエンドさんもローザリア嬢と関わってるなんて。

なんだか運が悪い感じなの」

「違うね。モリーとエンドの運がいいんだよ。

 エリーのような存在がいるから頼れて助けてもらえるかもしれないんだ。

 エリーはエンドの依頼をほぼ完ぺきにこなしている。

 モカはエリーといてほとんど嫌なことないでしょ?」


「うん。安全だし、優しいし、話は分かるし。

 ドラゴ君やミラもいて、たまにケンカもするけど楽しいし。

 それに何よりおにいちゃんにつながるお兄さんに会えた。

 一緒に他の家族が転生してないかも探してくれる。

 こんなヒト、他にいるとは思えない」


 だからねとモカは前足を広げて私に抱きついてきた。

「あたしたちはね、エリーが大好きなの。あたしたちには頼ってきていいの。

 みんなでこの件、乗り越えようよ」

 モカがそういうとドラゴ君もミランダも抱きついてきた。



 ああ、私は幸せだ。

 ヴェルシア様、みんなにお引き合わせくださってありがとうございます。


 そしてどうかモリーとエンドさんを私たちで救えますように。


------------------------------------------------------------------------------------------------

 魔獣と愛情の件は、一応公表されてるんですよ。

 卵を育てるには、魔力と愛情が必要ってね。


2022/04/07

モカのセリフの一人称が間違っていたので修正。

内容に変更はございません。


 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る