第209話 テイムに必要なこと
クライン様とダイナー様とともに教室に行くと私の様子を見てアシュリーが、
「エリー、何かやらかしたのか?」
「何でわかるの?」
「ウチのちび共がやらかした時と同じ顔をしてる」
アシュリー、すごい観察眼だね。
さすが、マイヤ院長でもわからなかったユナの心制御がわかっただけある。
それでソレイユ様に騙されて、スライムをテイムしてしまったことを話すと、
「「「エリー」」」
3人は可哀そうなダメな子を見る目で私を見てきた。
うっ、私だってまずいと思ってるよ~
「と、とにかくテイムしたものは仕方がない。解除も出来るんだし」
いつも冷静なジョシュも動揺しているようだ。
昨日の今日の話で、こんなこと起こると思わないよね。
「やっぱりミューレン侯爵令嬢に絡まないとダメかな?」
「うーん、クライン様に要相談、だね。
ソレイユ様の意向に逆らえなかったって話にしたらどう?」
いいね、それいただきます。
「でもそのご令嬢、グリフォンもらうんだろ?
野良スライムのテイムぐらいいいじゃん」
「マリウス、相手はそんな物分かりのいい方じゃないんだよ」
「我儘貴族の典型って感じか?」
アシュリーの言葉にジョシュは頷いた。
「そうだ! ジョシュ、そのグリフォンのことなんだけど……」
私が言いかける教室の扉が開いた。
「先生来た。座ろう」
授業は攻撃魔法実習で2時間続けてなので、ジョシュに聞き出せなかった。
昼は給仕だし、3時間目の後は古代語の授業でクライン様に連れていかれてしまって今日も聞けなかった。
早く聞きたいのにこういう時に限ってうまくいかない。
古代語の授業に行くと、ユナがいなかった。
「ユナ・ドーンは冬休みの間に転科することになった。4人で古代語の翻訳をするように」
4人とは、私、クライン様、ダイナー様、メルのことだ。
どうやらユナはレヴァイン先生の追試に落ちてしまったようだ。
さすがに秀才のアシュリーもやってない古代語の勉強は教えられなかったのだ。
錬金術科は履修科目が多いうえに、私のように授業中に課題を終わらせないと宿題もあるので、課題が少なく美容や行儀が習える侍女・メイド科に移ったんだって。
まぁ、それがいいかもね。
彼女が女優になるんなら、ここまでの工芸の技術など必要ないもの。
「僕、ついていけるかなぁ」
メルが不安そうに言う。
「一緒に頑張ろうよ」
「エリー、頼りにしてる」
うーん、そうは言われてもやっぱりちょっと忙しすぎる。
メル、出来るだけ自分でも頑張ってね。
翌日になってやっとジョシュからグリフォンのことを聞き出せた。
「僕もよく知らないよ。ただそのグリフォンも問題があるそうなんだ」
「どういうこと?」
「何にも食べないんだって。言うことも聞かないし。
それで前の貴族から返品されてるんだ」
何も食べない? いうことも聞かない?
「どうしてだ? 体の具合でも悪いのかよ? 我儘なら普通命令で食べさせるだろ?」
うん、マリウスの疑問はもっともだ。
「理由はわからない。でもグリフォンの行動の自由を奪うことは出来るんだけど、他の命令は一切聞かないそうなんだ。
そんな訳アリ、例の我儘令嬢に渡したらもっと問題が起こるだろ?
それでみんな二の足踏んでるんだ」
「それ……たぶんテイムできてない」
テイムとは、力で屈服あるいは愛情で手懐けさせて、魔獣の心を掴み使役することだ。
例えば、私は手懐け派だ。彼らを愛して大事にしたいという気持ちを伝えるのだ。
私の魔力では3匹の中で一番弱いミランダですら屈服させられない。
モカやドラゴ君ならもっと無理だ。
あのベリーニ魔獣店の召喚士は自分の魔法で屈服したと思ったのだろう。
でもあれはモカを守るためのエンドさんの忠誠心の表れだ。
モカがエンドさんに対してどちらなのかはわからない。両方かもしれない。
そんな相手がいるのに、他のヒトに屈服する訳もない。
「僕もそう思う。紋章も入れてもすぐ消えるんだそうだ」
肝心のグリフォンを持つ魔獣店の名前は知らないそうだ。
でもベリーニか、そこが売った別の魔獣店だろう。
学校から『常闇の炎』にご飯を食べに行くと、いつも通り3匹の従魔たちは子供たちに連れていかれた。
私はクララさんがいたのでその話をしに面談の時間を作ってもらった。
私が今の状況を話すと、
「もちろん知ってるわ。でも今交渉がうまくいってないのよ」
「どうしてですか?」
「相手の……その返品した貴族がね、魔族嫌いらしいのよ。あれほど強い魔獣を魔族が従えるなんて反対だなんていうから、魔獣商の方も無下に出来ないらしくて。
だから『常闇の炎』には売ってくれないの」
「返品したのだから関係ないじゃないですか?」
「魔獣商側にしてみれば返品するような商品を売りつけたって商業ギルドに訴えられたら、免許取り消しよ。そんな危ない橋は渡れないわ」
それは……、そうだろう。
「その貴族の方を説得できないんですか?」
「難しいわ。300年前の魔王退治の貢献で貴族になった家柄で、ファセット侯爵家と言うの。今回リッチが出たから王家をお守りするべく戦力補強のため、グリフォンを購入したそうよ。彼らはリッチの裏に魔族がいると思っているみたい」
「そんな……、たとえ魔族がいたとしてもウチは関係ないです!」
くやしい!
だってその論法だと、ひとりの人間が罪を犯したものを、人間すべてが罪を犯したと言ってるのとおんなじだ。
そんなバカな話があるはずもない!
「エリーちゃん、落ち着いて。でもミューレン侯爵家にそのグリフォンを渡すという話はそのファセット侯爵家から出たみたい。同じ侯爵家ならばって話よ」
クララさんは話を続けた。
「ファセット侯爵家って階級は侯爵だけど、他の上位貴族よりは新興であまり重視されてないのよ。だから国の重鎮であるミューレン家に媚びたいのかもしれない」
300年も続くのに新興なんだ。
いったい上位貴族ってどういうことなんだろう?
「私の嫁いだルザイン伯爵家は上位貴族で400年ほど続いているわ。そうね、大体がその300年前より伯爵以上の地位があったかどうかなの。
あと上位貴族の家は精霊の加護や祝福をいただくことが多いわね。
私の義理の妹のリリアナも水の精霊の祝福をもっているわ。亡くなった夫もそうだったし」
「上位貴族に恩が売れなければ手放さないってことですね」
「そういうことになるかしら」
「私一人、とても有力な貴族を知っています」
「クライン様ね。彼ならば家督を継いでいなくても、納得されると思うけどクライン様の方に何か代償を求められるわ。メリットがなければ動かないでしょう」
確かに。私があのいじめっ子たちを許してくれと言ったときも、そうだった。
「エリーちゃん、早まらないでね。クライン様に口利きをお願いして何か約束してはだめよ。この件はマスターの案件なの。
マスターはあなたが自分を犠牲にするようなことは決してお許しにならないわ。
わかるでしょ」
「はい……」
ああ、でもモカになんて言ったらいいんだろう。
エンドさんは何も食べずにモカを待っているんだ。
まかり間違ってローザリア嬢の元になんか行ったら、絶対にエンドさんは苦しめられる。
それは確実だ。
なんとかこのことは阻止しないといけない。
ヴェルシア様、どうか力をお貸しください。
どうかモカとエンドさんがちゃんと巡り合えますように。
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