第176話 ゲームの中のトールセン


「ユナを鑑定するべきなのかなぁ」


 私は男子3人に鑑定のスキルがあることを話していなかった。だからまだユナの鑑定はしていない。

 洗脳や魅了状態なら状態異常として鑑定したらわかるのかもしれない。



 寮の自室に戻って、3匹の従魔たちに相談してみた。


「エリーはあたしの鑑定はすぐにしたでしょ?なんでユナは躊躇するの?」

「モカは喋れたから、もしかしたら熊獣人の赤ちゃんなのかもと思ったの。

 だったら親御さんを探すのが普通でしょ。そう思って悪いけど鑑定したの。


 基本的に相手の許可なく鑑定したら、それは敵対行動を示したということで殺されても文句は言えないんだ。

 ユナはもうすでに私に対する裏切り行為もしているし、私が鑑定したら今度は攻撃してくるかもしれない。

 だから、やりたくないの」


「リカルドは全然してるのに」

「クライン様は多分1年生で彼に勝てる生徒なんていないから。

 それに鑑定じゃなくて真実の眼なんでしょ。鑑定として探るように見たわけじゃないし。王の近習となられるクライン様には必要なスキルだわ。

 彼が王家についてしっかりと政治をしてくれれば、この国は安泰な気がする」


「うん、ゲームでもそうだったよ。ヒロインがエドワード単独ルートに進んだら、エドワードが自分から王にふさわしくなっていくの。それを見たリカルドに王に選任されるのよ。でヒロインは王妃としてこの国を導いていくの」


「ヒロインさんがそのルートに進んでくれたらいいね。でも手伝うのは難しいなぁ。

 クライン様のことで殺されるかもしれないってことは、エドワード殿下だってそうだし、グロウブナー様だってラリック様を敵に回すことになるじゃない。

 そんな怖いこと出来ないよ」

「それはそうよね……」



「ねぇ、ゲームの中のトールセンはどんな人だったの?」

「うーん、それが謎の錬金術師だったのよね。制服だったから学生ってことはわかったけど、顔も見せないし。

 目的もよくわからないけどとにかくお金がいるから、アイテムを売りつけるヒトだった。


 彼は、ゲーム内では男だと思われてたんだけど、学校に自分のアトリエを持っていて何でも作れるの。

それで攻略対象を落とすために必要なグッズを作ってくれるのよ。

 そのためにはお金がいって、ダンジョンとバイトで稼ぐの」


 もっと詳しく聞くと、ゲーム内で金策できなかったら現実のお金を課金して、ダンジョンとアルバイトを成功させるようにしたんだって。



「トールセンはみんなに隠しキャラだと思われていたの。

お金がいるのも失われた王国の遺児で、その国を取り戻すための軍資金なんじゃないかってみんな予想していたの」

「私の場合、それはないな。母さんは確かに貴族だけど、ただの騎士爵と子爵令嬢の子どもだもの」

「うん。その失われた王国の話も、ヒロインが攻略をすべて失敗した時に起こる侵略戦争の話があって、その侵略国の前身になる王家があったって設定だけなのよね。

どんな王国かもわからないし、根拠は全くなかったの」


「つまりみんなの想像なのね」

「ええ、そうよ。気にしなくてもいいと思う。

 ゲームにはね、そういうショップを開く人が必要なの。

 そこで現実のお金を課金してもらうことで、ゲーム会社はお金を儲けるのよ。

 ゲームによって違ってくるけど、普通に学校の購買だったり、外のお店だったり。

『アイささ』はトールセンのアトリエだっただけ」


「どんなもの売ってたの?」

「うーん、ダンジョンドロップがよくなるお守りとか、金貨が倍になる手袋とか、秘密の抜け道に入るための鍵とか。あとは攻略対象の気持ちを惹くためのアイテム。

 お菓子とかハンカチとか本とか。色々よ」

「お菓子とかハンカチとかはともかくお守り、手袋、鍵は作れる気がしない」

「うん、ゲームの仕様としか言えないアイテムだよ」



 ずっと黙っていたドラゴ君が口を開いた。

「そのゲームの目的は何なの?」

「目的?格好いい男の子と恋愛することかな。そして幸せな結婚をしました。めでたしめでたし、みたいな?」

「何でそれが戦争につながるのかさっぱりだな」


「多分お話を盛り上げるために作っただけの設定で、あんまり生きてなかったかも。

 あたしたちプレイヤーは恋愛の方が重要だからさ。

 ミニゲームで稼いだお金でアイテム買って、ライバルの悪役令嬢と戦って自分磨きして、攻略対象に恋を囁いてもらって、きれいなスチルを取れたらよかったの。

 あたしなんか途中からリカ×サミに夢中になったから、バートとか、レオンハルトとか、それほどやらなかったんだよね。

 そっちのバッドエンドは全然覚えていない」


「本当にただの遊びって訳だ」

「うん」

「いや、竜人が出てくるから一体何が目的なんだろうって思ったんだけど」

「ああ、セレスね。『アイささ』には俺様タイプの力強く引っ張ってってくれる情熱的タイプがいなかったの。そこが微妙ってことで入れたキャラクターなのよね。

 でも絵師様の絵が本当に力入っていたから、すごくきれいで大人気だったわ」

「ふーん」

 ドラゴ君はそれを聞くと興味を失ったようだった。



「モカは出てこないの?」と私が聞くと、

「いないよ。クマなんて」

「いたらよかったのに。きっとみんなに大人気なのにね。今でも特にマリウス。モカもお気に入りでしょ」

「なんか、マリウスって友達に一人はいるタイプなんだよね。

 いてくれるだけで安心できるというか、ほっこりするの」

「ああ、わかる。マリウスはすごく友達思いで私もいつも助けてもらってる。

 ジョシュとはちょっと違う感じ」


「ジョシュは逆に付き合うのに頭がいるというか、油断がならない」

「そう?」

「貴族たちとの付き合い方もそうだし、あの子の剣捌きはただものじゃないよ。

 おにいちゃんがありとあらゆるスポーツが得意でいろんな武術で全国大会に出てたんだ。だからあたしも日本のトップクラスの選手を見れたの。

 あんな風には昨日今日じゃ絶対に動けない」

「それはそうだね」


「でもそのこと皆に言ってなかったんだよね」

「うん、でも私はたまたま彼の正体を知ってるの」

「何なの?」


「王宮の庭師の息子なんだって。それでエドワード殿下の幼友達と言うか、多分護衛みたいなことさせられてるんじゃないかな。

 そうあってもおかしくないくらい親しい関係でお忍びに付き合わされているの」

「そんなことが……。それならあんまり言いふらせないか」

「うん。言えないように契約させられてるのかもしれない」


「エリーはそれを信じるの?」

「うん。信じるというか、そういう秘密を持っていても、私の味方をしてくれる数少ない友達なの。私もモカのこととか、クランのことは話していないこともあるし、いいんじゃないかな」



 そうなのだ。私にだって秘密がある。

 母さんのことも、モカのことも、マスターに治癒魔法をかけてもらったことも。

 でもどれも言えない。


 だからジョシュがみんなに黙っていたい気持ちはよくわかる。

 話してしまうことで誰かを傷つけたり、危険に晒してしまうかもしれないから。

 ただ、マリウスが知ったら傷つくかもしれないとは思っている。



 まぁ、ユナの鑑定のことはもう少し様子を見よう。





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