第175話 魅了除けの魔道具


 週が明けて学校へ行くと、アシュリーがしびれを切らしたように聞いてきた。

「それで、何かわかったのか?」



 ジョシュが申し訳なさそうに答える。

「洗脳の本なんて図書館にはなかったよ。きっと禁書の棚にあるんだ」

「エリーの方は?」

「こっちもあんまり。ただ洗脳って暴力とか拷問とか、薬を使って人の考え方を変える方法で犯罪なの。そんなのやるとスキルか罪の印がついてしまうんだ。

 私たちは10歳でこれからも何度となくスキルチェックされるでしょ。

 隠蔽が出来るのかもしれないけどそんな危険を冒すのかなぁ?」



「じゃあどうするんだ?」

「それでもしかしたら心制御の方かもしれないと思うんだけど」

「「「それ何?」」」

「話が長くなるから、場所を変えよう」



それで私たちは、お昼休みの食事を兼ねて、校庭の隅に陣取った。


「あのね心制御とは、相手に信頼とか愛情を持って接して、言うこと聞かないとそれが無くなるって不安にさせて人を操る方法なの。これなら、操ってもスキルはつかないよ」

そこで『カナンの慈雨』の前身組織の話をした。


「なんか嫌な方法だな」

「でも効果的ってすごくわかる。私も急に『常闇の炎』から出ていけって言われたら混乱するし、不安になると思う。

だから依存しすぎないように自立も必要だと思うようになったよ」



アシュリーも戸惑って聞いてきた。

「その……心制御ってやつなら、どう対応したらいいんだ?」

「ごめん、よくわからないの。でも1回のお茶会で変わったんでしょ?だったらもしかしたら相手は魅了をスキルに持っているのかもしれない」

「「「魅了……」」」


「お客様相手の商売人なら持っていてもおかしくないスキルよね。ヒトに好意を持ってもらいやすいスキルなの。

これがあれば、相手に自分の考えを押し付けても受け入れられやすいんだって。

でもあんまり強いと精神に作用しすぎてしまうから、スキル封じされることもあるんだそうよ」

「エリーは清廉スキル持ってるんだろ?それとどう違うの?」



 驚いた。私は絶対にジョシュに清廉スキルのことを話していない。

 どうして彼が私のスキルを知っているのだろう。



「清廉スキルは好意を持たれやすいスキルだけど、魅了のように自分の意思で調整できないし、操るとか悪事に使おうと思うとものすごく気分が悪くなるの。

相手に何かの理由で嫌われたら、効果も薄れてしまうし。

 だからそういう風には使えないの」


 私がクライン様を無視しようとするたびに胸がむかついて嫌な気分になった。

 あれは清廉スキルのせいだったんだ。



「魅了か……。それに対抗する方法ってある?」

アシュリーの眼差しが強かった。ユナを本当に助けたいんだな。


「うん、魅了除けの魔道具があるそうだよ。でもダンジョンドロップらしいの。

魅了スキルも見たことがないし、どんなものなのかわからないから私には作れない」

「くそ!そんなの手に入れる方法がない。八方ふさがりか」


「全くない訳ではないよ。クランに教えてもらったいい魔道具屋さんがある。

そこで買うか、ダンジョンで見つけるか。作る方法が分かればいいと思う。

ただ他の魔道具店は行ってはいけないって言われてるの。

魔道具を扱えるということはとても強い魔力の持ち主で、それこそ洗脳も出来るようなヒトもいるらしいから。

だから皆も他の店は行かないって約束してくれる?」


「ああ、それに俺には魔道具なんて買う金がない」

 アシュリーが残念そうに言った。

「俺も」

「僕も。この間のヒヒのお金ならあるけど、それ以上は無理だと思う」



「作るのも難しいみたい。それこそ賢者レベルなんだって」

「エリーの先生は賢者じゃなかったか?」

「ハインツ師ね。そうだけど、手紙で相談したら魔道具づくりは得意じゃなくてレント師を勧められたの。

 でも本当に魅了だと証明できないと、紹介状は出せないって言われた」

「それは……そうだろうね」

 ジョシュがため息をついて、私たちもがっくりと肩を落とした。



 レント師は侯爵家のご出身の賢者で、平民ごときが話しかけられるような方ではない。

 せめてエヴァンズにいらしたら、私は錬金術科志望だからもしかしたら話す機会を持てたかもしれないのに今は学院にお勤めだ。

 錬金術科の学校方針を変えた学長に恨み言を言いたくなった。



「禁書の棚を調べるのはどうする?」

 アシュリーは手段を選ばないなんて顔をしている。


「だめだよ。アシュリー。不法侵入や勝手な持ち出しなんかしたら、私たち全員に犯罪スキルが付いてしまうかもしれない。

そうなったらみんな騎士にも文官にも錬金術師にもなれないよ。

ユナを助けても人生を棒に振ったら、他の人どころかユナ本人だって私たちに寄ってこないよ。それでもいいの?」


「すまん、アシュリー。さすがにそれは俺も出来ない」

「僕も。ごめん」

「いや、エリーの言う通りだ。みんなの人生をかけるわけにいかない」



 ホントにわかっているかなぁ。心配。



「とにかく、心制御の方だと仮定して動いてみよう。魅了について他の人にも聞いてみるから、アシュリーはユナがおかしな行動を取ったら記録しておいて」

「そんなのどうするんだ?」

「その行動記録で魅了されていると判断されたら、ハインツ師がレント師に紹介状を書いてくれるかもしれない」

「わかった」


 本当はそんな保障全然ないんだけど、何かさせていれば勝手に先走ったりしないはず。



「ジョシュとマリウスは、心制御についてもっと調べてくれる?

クランの本だと、そういう事例については載っていたのだけど、具体的にどうやって解いたのかは書いていなかったの」



 それで少し各自で調べて、近いうちににルードさんに紹介してもらったスウィフト魔法具店に行く約束をしてみんなと別れた。







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