第167話 セネカの森のピクニック(という名の採取)
「どうしたんだろ、まだこないね」
時間に正確なメルがまだ来ないのだ。
モカが退屈になったのか、マリウスに手のひらを向けさせてハイタッチの練習をしていた。
マリウスの方は何やってるのかわからないけど、遊んでると思っているみたい。
フフフ、モカはマリウスがとっても気に入っているのだ。
そうこうしているうちにメルが息せき切って駆けてきた。
「ごめん、みんな待たせちゃって」
「遅いぞ」
「どうしたの?メルが遅刻なんて」
「出がけにリアに捕まってさ。連れてけって聞かないんだ」
ああ、メルの幼馴染のリアは彼のことが大好きなのだ。
一緒に行くのにユナもいるし、一応私も女の部類に入るから警戒しているんだろう。
「でも今日は無理だよ。セネカの森は結構危ない魔獣が多いんだから」
「うん、遊びじゃなくて卒業するために絶対いるからって説得したんだけど、泣かれちゃって」
「メル、もう観念してリアと婚約でもしたら?」
「婚約⁈僕とリアはそんなんじゃないよ」
「そんなんじゃないから、もめてるんだよ」
私とメルが言い合っていると、さりげなくジョシュが突っ込んできた。
「エリー、そうなったらなったでもめるよ」
「でも学校だし。自分の地位がはっきりすればと思うんだけど」
「エリーってホントに女の子っぽくないよね。地位が確立してようがしてなかろうが、好きな男の側に女の子がいるってだけで焼きもちを妬くものさ」
うーん、確かに私にはそういう感情はないな。
はっ!そうだった。私はこれで貴族のご令嬢方に睨まれているんだった!
「気を付けないといけないね」
「そうだね」とジョシュは私の頭にポンと手を置いた。
「とにかく、全員揃ったね。荷物や装備の確認は各自で行ってくれていると思うからしないけど、何か不安のある人は?」
ジョシュの言葉に手を上げる者はいなかった。
各自色々な装備を身に着けていた。
ドーン組のアシュリー、ユナ、ケインは古いながらも自分の体に合った防具を付けている。
孤児院出身の冒険者たちのおかげでお古だけどいろんな防具が揃っているそうだ。
マリウスは愛用の剣と胸当て、籠手、兜だ。
彼の実家は農家だけど自分たちで魔獣討伐をするらしく、防具が揃っているんだという。
「子供用はまだいいんだけどさ、14,5歳向け位の軽い防具がねーんだよ。にーちゃんが持ってったからな」
マリウスは四男で三男のお兄さんは冒険者になったらしい。
それで私に防具作ってほしいんだな。
マリウスの話を聞いていると、彼は結構大きな期待をされていることがわかる。
小さな村から王都の学校へ行くほどの魔力の持ち主だからだ。
「でもこっちに来たら、俺ぐらいの魔力はざらでジョシュみたいなのもいるんだからさ。困っちゃうよな」
そう言いながらも妬まないマリウスはすごいと思う。
ジョシュは結構成績上位の男の子たちに陰口を叩かれているみたいだ。
貴族並みの強い魔力で、成績も上位。
しかも騎士や魔法士にはならず文官というのもかなり癇に障るらしい。
文官を目指す子は魔力が少ない子が多い。
自分たちは騎士や魔法士になっても大成しないとわかっているから文官を選んだのに、騎士にも魔法士にもなれるのに、あえて文官を選ぶというところが妬まれ要素らしい。
ジョシュの装備は、マントに杖、あと腰に細身の剣が付けている。頭には額に鉄板の入ったハチマキだ。腕には籠手だ。
速度重視なんだな。
メルは私と同じローブに杖だ。彼も戦いを得意としていないから後方支援メインだ。一応武器はクロスボウを持っている。
クロスボウだと照準が合わせやすいんだそうだ。
私は弓矢の方が好きだ。先に習ったからかもしれないけど。
「みんな、ここに出てくる魔獣には毒持ちも多いから、出来るだけ離れて仕留めた方がいい。それから結構大きな鳥系魔獣も出るそうだから、さらわれないように上空も気を付けてね。
いざとなったらドラゴ君に撃ち落としてもらうけど、高いところから落ちるなんて嫌でしょ」
「げっ、マジか」
「連れていかれたら、確実に美味しいご飯にされるからね。それとマリウス、ユナ、森の中だから火魔法禁止ね。延焼なんて起こしたら、ヴェルディ様に殺されるよ!」
「ああ、ちゃんと他の精霊石持ってきたぜ」
ユナは私とは話さないようだった。
ルノアさんの時のことを思い出して、ちょっと嫌だった。
「それじゃあ、出発。メインは薬草採取だ。ラビットは見つけ次第俺らで、そのほかはエリーのパーティーだ」
「でも鳥とか緊急性のある時は攻撃してね。それに自分の身を守るのに躊躇はしないこと」
索敵は私とジョシュが出来る。
まずは魔力だまりを見つけて、薬草を採取。
こっちの森には魔法学校の生徒たちはあまり来ていないみたいで、ランクアップ用の薬草はすぐに採取できた。
あとはユナやケインが孤児院用にせっせと採取。私は取らない。学校で収穫した分がまだあるし、モカのシークレットガーデンの中ですくすくと育っているからだ。
「ラビット、全然いないね。ジョシュは見つけられた?」
「いいや、それだけじゃなく他の魔獣もいない。これヤバいかもしれない」
「どういうことだ?何かあるのか?」
マリウスが怪訝な顔でこちらを見た。
「多分いつもより強い魔獣がいるんだ。弱い魔獣は隠れているか、捕りつくされたかだ。エリーはどう思う?」
「後者かもしれない。薬草が思ったより多いもの。もう帰った方がいい。
帰って冒険者ギルドにこの状況を報告しよう。死んでからじゃ遅いからね」
ジョシュと私は同じ見解だ。
「ドラゴ君はどうだ?」
「うん、いるね。ぼくの方が強いけど、後から強力なのが来られたらわからない」
マリウスは残念そうにため息をついた。
「まだ来て2時間だけど、目標は達成したし帰るか」
「ちょっと待って、ドラゴ君がいけるなら俺たちもう少し薬草が欲しいんだけど」
今まであまり話していなかったケインだ。
「ケイン、私はDランク冒険者だけど経験は浅いし、他のみんなもまだそんなに戦えない。ドラゴ君が大物を相手している間に他の小物相手でもみんなを守れるほど力は私にないよ。この引率は名前だけなんだから」
「でも俺たち、困っているんだ」
「薬草が足りない話は聞いてるよ。でも命を失ったらどうにもならないよ。とにかくこの先にいる魔獣とは戦わない方が賢明。帰ろう」
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