第164話 亜人狩り?


 放課後、クランに戻って薬師頭のロッテさんに話を聞くと、『常闇の炎』では子供の薬草採取をやってなかった。



「そうね、ウチは生産部門の畑から薬草の納品があるから困っていないわ。

 でも下手な採取されると困るわよね。今後のことも考えてほしい」

「冒険者ギルドの方でしっかり注意してくれればいいのに」

「そういうのやるの、お貴族様なんじゃない?ギルドは貴族に対しては事なかれ主義なところもあるし」



 ロッテさんはエルフの血を1/4引いていて少し耳がとんがっている。

 ルードさんほどじゃないけどとてもきれいな人だ。

 樹魔法は使えないが、薬に関する才能があってそれで魔法学校も出ていた。

 貴族の横暴は良く知っていて、愛人になれって命令されたこともあるらしい。

 それを断るとどこにも就職できなくなって、『常闇の炎』に来たそうだ。



「アランカの森の薬草は、王都の貧民の主な収入源なのに」

「孤児院にいる友達も収入が減ったって嘆いていました」


「孤児院だけじゃなくて、あまり働き口のない移民とか、スラムの子どもとかの収入源でもあるのよ。

 お金が入らないとなると、万引きやかっぱらいが増えて治安が悪くなるのよね。

 そうなると冒険者が取り締まりすることになるの。

 でも本当に取り締まりたいのは、そういう弱い立場のヒトからお金をせしめてる奴らなんだけどね」


 確かにその通りだ。

 そんな原因をリッチが作り、魔法学校の生徒が状況を悪くしている。



「何とかならないんでしょうか?」

「私には案がないわ。でも心配だわ。治安が悪くなると亜人狩りが起こるの」

「亜人狩り?」

「ほら、同じ人間同士だと躊躇するようなことでも、いつも下に見ている亜人に対してだと平気でする奴いるでしょ。そういう奴らが弱い亜人を暴行したりするの。

でもそれを見ていい気味だと思う人間も少なくないらしいわ」


「そんなヴェルシア様の裁定が……」

「もうすでにスキルに暴行が付いてるんじゃないかな。それに人質取られて訴えられないようにするとか。抜け道なんか色々あるの」

 なんてことだ。そんな暴力が容認されているなんて……。


「ウチに所属しているメンバーは全員気を付けなくちゃ。エリーは人間だけど言いがかりをつけてくる奴がいるかもしれない」

「わかりました。気を付けます」



 嫌な話過ぎてモヤモヤする。

 薬草の枯渇からそんな暴力事件までつながっていくかもしれないなんて。

 王都の治安の良さは、案外脆いのかもしれない。



 ふと、以前出会ったスラムの子どもたちのことを思い出した。

 顔を隠すために変な布をかぶった子もいたからはっきりと言えないけれど、獣人の子どももいたかもしれない。

 そういう子が目の敵にされていないか、心配になった。



 でもこんなこと、どうやって解決したらいいんだろう。



 寮の部屋に戻って私がため息をつくと、

「エリーどうしたのよ。ため息なんかついちゃって」

 モカが聞いてきたので、事情を話した。


「何だ。それならあたしが薬草生やしてきてあげる。あたしの栽培スキルならすぐ生えるよ」

「モカ、モカの存在は誰にも知られたらいけないんだよ」

「うん、だからドラゴ君にエリーのケープ着てもらって、カバンの中から魔法かけるよ。それならいいでしょ」


 私のケープはドラゴ君が着るとちゃんと隠蔽と潜伏が効いて隠密活動できるのだ。

 清廉スキルって、呪いのスキルじゃないですよね?ヴェルシア様。



「そうだね。でもちょっと待ってね。マスターかルードさんに指示をもらおう。

 すぐにやっても、薬草を独り占めする奴らがいるかもしれないし」


 せっかく採取用の薬草を増やしても、悪い奴に根こそぎやられては意味がない。

 解決は薬草を増やすことじゃない。

 そういう自然の恵みは恩恵として受けつつ、こどもたちが生活できる手段がないだろうか?



「わかった。明日お兄さんいるかな?」

「まだお出かけだわ。忙しいみたい」

「そっかぁ」

 モカは寂しそうだった。


 私はベッドに座ってモカとミランダを膝の上に抱き上げた。

「マスターがいないと寂しい?」

「うーん、まあね。でもエンドのことで忙しいのかもしれないし。エリーもいてくれるし大丈夫」

 モカは私の膝の上でミランダのふわふわの毛皮に顔をうずめた。

 やっぱり寂しいんだな。



 それでみんなで一緒に寝ることにした。

 ドラゴ君も誘うと黙ってモカの隣に横たわったので、みんなで並んで寝た。


「こういうのを向こうでは、川の字って言うのよ」

「カワノジ?」

「そう、こう三本縦に線を引くと川の流れみたいでしょ。これをそのまま文字にしているの」


「へぇ、おもしろいね。ものの形が文字になるんだね」

「そうよ。そうやって決まった字の意味を重ねて違う字にしてさらに複雑な言葉も表現できるの。これは漢字という文字よ」

「そうなんだ。やっぱりモカの世界はすごいね」

 モカの世界の文化は聞けば聞くほどおもしろかった。


「川の字はね、家族を表すのよ。両側に親が寝て、真ん中に子供を挟むの。

でも友達とするのも悪くないわね」

 そういって目をつむるモカを私は撫でた。

 少しはモカの寂しさを紛らわせられただろうか?



 ううん、みんな寂しいんだ。

 王都は子供一人では寂しすぎる。

 でも親がいなくて寂しくひもじい思いをしてる子はたくさんいる。

 こうやって安全にみんなでいられる喜びを噛みしめよう。



 ヴェルシア様、今日もお守りくださってありがとうございます。





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