第165話 使い魔とセネカの森の情報


 もう2学期が始まって1か月以上過ぎたのに未だに使い魔用の卵を購入することが出来なかった。


 ザハロワ先生からはこう伝えられた。

「現在卵の利用量が増え、大変高騰しています。魔獣商も集めるのに難航しているそうなので今少し時間がかかります。

 3学期に卵を購入し、2学年から使い魔教育を始めることにしましょう」



 どうやら、王立魔法学院の方へ先に卵を納品することになったらしい。

 この高騰の原因はこれまでは希望者だけだったのに、学校が生徒全員に使い魔を持たせることにしたからだ。


 エヴァンズと学院の1年生だけでも150人近い学生がいる。

 単純計算で150個×5(年)=750個も卵がいるとなったらそれは大変だ。

 しかも魔法学校はこの2つ以外にもある。

 そしてそんな高価になった卵を私たち平民のほとんどが借金して買うのだ。

 国が私たちを借金で縛る期間を長引かせようとしている気がする。



 使い魔とは、魔法士及び魔法師と主従の契約を結んだ魔獣・精霊のことをいうが、従魔とは少し違う。

 同じように契約するけれど、相手を屈服させて絶対服従させる間柄なのだ。

 簡単に言えば、私が死ねと言えば死ぬように厳しくしつけるのだ。

 闘いの中で囮に使ったり、魔法の触媒に使ったり、とても嫌なことなのだが使い捨ての相手なのだ。



 ずっとミランダを使い魔にしようと思っていたので、この事を知らされてとてもショックを受けた。

 使い魔とはお使いをメインでやってくれる従魔のことだとばかり思っていたからだ。



 私は今の従魔たちも、そしてこれから卵から孵る従魔も死なせたくない。

 力で屈服もさせたくない。

 それでは奴隷と一緒だからだ。


 愛情で育てるのだから、愛を持って共に生きたいと思う。

 でもそんな考えは甘いと言われる。

 私は錬金術師になるのだから、戦いに身を置きたくないのに。

 でも流浪の民になったら、自然とそうなってしまうだろうか。



 日々は穏やかで切迫した状況は多くは感じないけれど、国や学校の方針が何だか戦いに傾いているような気がするのは、私の考えすぎなんだろうか?


 お願いだから、何も起こらないで欲しい。

 マスターでも誰でもいい。

 エンペラーリッチを討伐して、このとげとげしい体制が早く終わらせてほしい。



 マリウスもジョシュもアシュリーも、この件に関しては苦い顔をしていた。

「金……、かかるなぁ」

「あんまり安い卵だと使い物にならない魔獣の時もあるからね」

「生きていくのでもやっとなのに借金ばかりかさむ」

 3人と私はため息をついた。


「とにかくEランクの冒険者資格を取らなきゃいけないんだし、訓練も兼ねてダンジョンや森で討伐してお金を稼ごうよ。

 私たちは薬も習うんだし、畑の方も頑張って薬を売ればそれもお金になるよ。

 頑張るしかないよね」



 3人は同意し、樹の日の終わりにみんなで待ち合わせて冒険者ギルドに行くことになった。



 セネカの森の入場は冒険者ギルドが管理しており、Dランク以上の冒険者がいないと、森に入る許可が下りない。

 Dランク一人につき引率は6人までで、あと一人枠が空いていたのでメルを誘うことにした。

 メルならユナもマリウスもジョシュも仲がいいからだ。


「そうだね、やっぱりいるよね。冒険者資格」

「メル、錬金術師でなくても付与魔法師でもいるよ。のんびりしすぎだよ」

「でも僕まだ講習受けてないし、どうしよう?」

「じゃあ、明日の土の日は準備期間として闇の日に行こう。みんなもそれでいいよね?」



 ギルドで申し込みを済ませ、メルはギルドの講習会の申し込みをし、他のみんなは準備やパーティーの分け前などの相談に行くという。

 だから私と3匹の従魔はクランハウスに帰った。



 攻略班の誰かにセネカの森のこと詳しい人いないかなと玄関でうろうろしてたら、ジャッコさんが入ってきた。

「ジャッコさーん」

「おっ、エリー。帰ってきたか」

 恒例の襟をひっつかんでの体重測定をされて、軽いと確認されると口の中に大きな飴を放り込まれた。



あのね、聞きたいことあるんですあにょめ、きゃきゃたいとこありゅんでふ

「何言ってるのかさっぱりわからん」

「あのね、エリーはセネカの森のこと知っていたら教えてほしいんだって」

 ドラゴ君、ありがとう。頼りになります。



「セネカ?大した獲物いないぞ。ああ、ただ時々バイパーが出るな」

「バイパーって蛇系魔獣だね」

「毒持ちだ。行くなら毒消し持ってけよ」

 他にもそのバイパーを狙う鳥系魔獣もいて、大型は私たちくらいなら食べるのでそちらも注意だと言われた。


「あとはでっかいベアくらいか。それと火魔法は森の中で使うなよ。常識だけど慌てると忘れがちになるからな」

「ありがとうございます」



 なんかラビットいるのかなぁ。

「ラビットは魔獣の主食みたいなものだからいるよ。大型の鳥が出るってことはアランカより動きが速いかもね」

「なら、メルも活躍できるね」

 メルはバフを掛けるのがうまい。スピードアップもお手の物だ。

 ユナやケインの得意魔法は知らないけど、2人は孤児院のための薬草採取メインだから問題ない。



 ジャッコさんの情報を基にクランの図書室で魔獣図鑑を読んでバイパーと鳥系魔獣とジャイアントベアを調べておいた。


 ジャイアントベア、結構美味なんだって。熊って手も食べられるんだ。

狩れたらルードさんに美味しい料理にしていただこう。

 ただモカのちっちゃな前足を思い浮かべたが、食べたいとは全く思えなかった。

 本を読み進めると、肝は調薬の素材とあった。弱った体に効くんだって。

 うん、ベア来てください!



 バイパーは色によって属性が違っていて、黒が一番要注意。毒が回らないように首を落として仕留めれば、こちらも美味。毒のある牙は武器や調薬の素材になるので割と高値で売れる。

 毒を飛ばしてくるので不用意に近づかないこと。



 鳥系魔獣はやっぱり羽とお肉かな。ものによっては嘴と爪も素材になる。


 魔石はどの魔獣も全部生かせる。


 こんなところかな。



 今日色々教えてもらったから、明日はジャッコさんのお手伝いをしよう。

 夕食後にそう伝えたら、

「明日か、うーんまぁいいか。来たら出来る仕事を置いておく」

「ジャッコさんはお出かけですか?」

「ああ」



 ジャッコさんとおしゃべりできないのは残念だけど、明日のお仕事何かな~♪

 やっぱり、ブラッシングかな?それともクリーンかな?

 フライングシープたちの毛刈りはもう少し先って聞いてるし。


 楽しみ~~~~!







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