第159話 新しい問題


 週明けに学校へ行くと、マリウスとジョシュとアシュリーが冒険者ギルドに行った話をしていた。


「エリー、聞いてくれよ。ジョシュとアシュリーな、もう冒険者カード作ってたんだぜ」

「ああ、なんていうかほら。例のダンジョンで僕何もできなかったから少しでも強くなりたくて、夏休みの間に登録と講習を受けておいたんだ」

 マリウスにジョシュが済まなさそうに頭を掻いた。



「孤児院ではお金になることは何でもやる。子供でも薬草取りとかスライム狩りは出来るから。それで日銭稼いでた。俺は引率もしてる」

 アシュリーはちゃんとEランク取れてるんだね。


「そうだね。ニールの孤児院でも香りのいい花を摘んでポプリにしたりしてた。

確か野原に出るときに魔獣がいるから大きい子は冒険者資格持ってたと思う。

私も手伝いに行ったことある」

「それはこっちでもやってる」

 アシュリーはいつもの素っ気ない返事を返してきた。



 あれから私はユナやアシュリーのことで悩まなくなった。

 クライン様は相変わらずだが、あんまり気にしないことにした。

 Aクラスの時は話しかけてこないし、古代語と工芸だけだもの。



「だからさ、俺だけ出遅れてて、講習受けなきゃいけなかったんだ」とマリウスは拗ねていた。

「講習は義務だからね。エリーは週末何してたの?」

「私は、3級裁縫師の資格試験。裏地付きのベストを作ったよ。ここまでは防具作る人たちと一緒の試験なんだ」

「エリーは防具作れるのか?」

 アシュリーが目を輝かせた他の2人が聞こうとしていたことをサッと聞く。



「ごめん、私は貴婦人用のドレスを縫うつもりだから、皮革裁縫師の方には今回は行かないんだ。でも1級裁縫師が取れたら、皮革裁縫師も取るよ。資格がないと作れても売れないからね」

 皮革の扱いもすでに学んでいる。

『常闇の炎』には優れた職人が何人もいるので、何でも教えてくれるのだ。



「おお、楽しみだな。いつか俺の防具作ってくれ」

「いいけど、鍛冶師は取らないよ。錬金で作ると思う」

「うわぁ、ますます楽しみ!」

 防具の話になって、マリウスの機嫌は直ったようだった。



「それで?何か納品したの?」

「3人でパーティー組んで、ラビット10匹と小さい魔獣3匹狩っただけ」

「思ったより少ないね」

 Eランクにあげるためには一人ラビット10匹、薬草10回分納品しなくてはならない。これを1日で達成する人も少なくない。


「人が多すぎるんだよ。こっちは全然余裕だったのに。なっ、ジョシュ」

「うん、皆考えることは同じだからね」



 そうなのだ。

 今まで教会ダンジョンは魔法学校の生徒なら冒険者資格を取らなくとも入ることが出来たのに、リッチ事件の後は資格なしでは入れなくなってしまった。

 だから学院とエヴァンズの騎士学部と魔法士学部の生徒が今アランカの森に殺到しているのだ。



「だったらむしろ10匹多い方だったんじゃない?誰か索敵出来るの?」

「うん、僕が出来る」

 さすが、ジョシュ。元Cクラストップの魔力量だもんね。


 今のAクラスだと多分クライン様だろう。あの人には時々底知れないものを感じる。

 他の上位貴族の方々も皆様、強い魔力持ちだ。

 でもジョシュはそれ以上あると思う。多分。



「それよりさ、ヤベーのは薬草なんだよ」

「摘み取られ過ぎてるってこと?」

「そうだ。根こそぎやられてる。次生えてくるか心配だ」

 アシュリーの心配はもっともだ。


 薬草の納品は決められた形で納品する必要がある。

 葉だけ必要な物、根だけ必要な物、花が必要な物と様々で、次に生えてくるようにするために、必要のない部分は採取しないのだ。

 逆に不要な部分が付いていたら薬草の質が下がることになる。

 それなのに全部取られているとなると後々に響くのだ。



「全く、何のための薬草学かわからないよね」

 ジョシュも肩をすくめていた。

「でもEランクに上がらないとダンジョン入れないぜ。他に方法はないか?」

 マリウスはなぜか私に聞いてきた。


「こればかりは畑の薬草はダメだしね。採取が目的なんだし。地元のアシュリーの方が詳しいんじゃないの?」

「エリーはDランクだな」

「そうだけど」

「アランカの森でなく、ヴェルディ領近くのセネカの森ならいける」



 ここから私たちは声を潜めた。

「ヴェルディ領ってまさか?」

「ヴィクトール・クルス・ゼ・ヴェルディ伯爵令息のご領地だ。入ったら切られる」

 ですよねー。


「まずいよ。私、目を付けられてるし」

「ヴェルディ伯爵家って魔獣好きで有名だから。ドラゴ君やモカちゃんなんか、かなりお好みだろうね」

 情報通のジョシュが補足する。


「取られるとかないよね」

「不法侵入が見つかったらマズイね」

「でもクランマスターのだよ」

「君がクランの命令で侵入したと白状したことにすればいい。拷問されるね」

 嫌だ~~~~!ジョシュ、そんなこと冗談でもいわないでよ!



「入らなければいい。森を抜けなければヴェルディ領ではない」

 何だか念を押すようなアシュリー。

「それに私に冒険者させるなら、『常闇の炎』経由でないと困るんだけど」


「みんなでピクニックがてら遊びに行くんだ」

 ニヤリと黒い笑みを浮かべるジョシュ。

「Dランクがいないと行けない森に?私忙しいんだけど」



 3人はものすごく期待のこもった眼差しでコッチを見てきた。

 まずい。3人は私とその森に行く気満々だ。



「とにかく、今週の週末は2級裁縫師試験で行けません!この資格は2日かかるからね」

「何するのさ?」

「男性用のスーツ作る。立体裁断で裏地付きのかっちりしたもの。これが出来れば学校指定の制服も縫える」


「俺らもまだラビット10匹狩らないとダメだし。とにかくいい返事待ってるぜ」

 天真爛漫な笑顔を私に見せるマリウス。



 うわ~ん。ヤダよー!

 ヴェルディ伯爵家、ヤバい感じするもん!



 ヴェルシア様~!何とかお助け下さい!


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ヴェルディ伯爵令息の名前を直しました。イーサンではなくヴィクトールです。

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