第147話 裏切り2
あれは1学期最後の光の日の3時限目が終わったときだった。
古代語の授業に向かうために教室でマリウスとジョシュに別れを告げて廊下に出ようとしたら、クライン様とダイナー様がいた。
私はお二人と話がしたくなくてマリウスたちの元に引き返そうとしたら、突然クラスメイトの男子たちに囲まれた。
「おい!人殺し!お前ずっと世話になっていた恩人、殺したんだってな」
そう言われて私は廊下に突き飛ばされた。
「やめて!」
「お前犯罪者討伐にかこつけて、ずっと一緒の飯を食ってた商人殺したんだろ。
冗談言いあうような仲良しのさ。人殺しのくせにエヴァンズに来るな!」
「人殺し、ひとごろし、ひとごろし」
周りが手拍子を付けながら、囃すように私を攻め立ててきた。
「でもその人は誘拐犯で、直前まで知らなか」
「人殺しのくせに、口答えするな!」
最後まで言わせてもらえず、私はもう一度突き飛ばされた。
転んでしりもちをつくと周りは嘲笑した。
「しかも毒殺だって。やっぱ毒婦は違うなぁ」
「怖っ!やべーぞ。こいつ」
そう言ってゲラゲラ笑う中に、ユナがいた。
あれは本当にショックだったし、自分でも顔色が変わったのが分かった。
顔が冷たくこわばり、口の中がひどく乾いて声を出すのも難しかった。
ルイスさんの話をしたのは学校ではユナだけなのだ。
ユナに彼女の大事な夢をしてもらったから、私もルイスさんを討伐してしまったときの辛さを話したのだ。
冒険者ギルドではルイスさんと私の仲が良かったことはそこまで話していなかったから、やはり出どころはユナなのだ。
あの時の彼女の反応では私の好きな男子の名前でも聞きたかったんだろうと思う。
私が彼女の言葉を本気にして、ルイスさんの話をしたことに驚いていたもの。
でも彼女は、私の秘密を違う形で利用したのだ。
その時まだ帰ってなかったマリウスがドンと壁を叩いて、
「お前ら、あの誘拐犯たちをそのまま野放しにして本当に良かったと思ってんのか?
おい、タクト!お前弟が誘拐されていて戻ってきたって言ってたよな。
そっちの、えーとカリナか。お前もいとこが連れ去られていたそうじゃないか。
この学校の生徒だって奴隷にされてたんだぞ。
いつ俺たちがそんな目にあってもおかしくなかったんだ。
そういうことを棚上げしていてよくもエリーを責められるもんだな」
それを聞くとみんな黙った。
その中で一人が声を上げた。
ジェイミー・エドセンという少年だ。今同じAクラスに入っている秀才だ。
「マリウス、お前絶対そいつに騙されてんだよ。美人で頭もよくて性格もいいなんて人間いるはずがないからな」
「エリーは俺の理想とはかけ離れている!俺は淑やかで穏やかな女性が好きだ。
だから騙される要素がない」
「いや、そんな女も存在しないから」
それは決めつけだ。
私がマリウスの範疇外なのは間違いないし、勉強も出来て性格もよく美人で淑やかで穏やかな女性も確かにいる。
ソフィアは学院の入試で魔法士学部3位に入っている。
少しでも教会の負担を減らしたいと頑張ったと言っていた。
「マリウスの女の子の好みは置いといても、エリーが毒殺犯なら今頃犯罪奴隷だ。
彼女は女神ヴェルシアの裁定で無罪とされ、討伐者として認められているんだ。
君は女神の裁定が間違っていたというのか?」
ジョシュも援護してくれた。
「こいつ、10歳にしては小さいし本当は9歳なんじゃねーの?ヴェルシア神は10歳未満の子供の犯罪は不問にするんだから」
「馬鹿か。それでどうやってギルドと教会を騙せるんだ?隠蔽は出来ても年齢偽装は出来ないだろうが」
名前や年齢、スキル、称号などを隠蔽することが出来るが、賢者でも偽装は出来ない。
そのような能力は神の領域なのだ。
「知るか!神でも騙せるような偽装スキルを持ってんじゃねーの?」とジェイミーは投げやりな態度で言い捨てる。
「ふん、滅茶苦茶だな。自分が不利になったら不貞腐れるなんて負けを認めたようなものだ。つまり君は神の御力を信じない不信心者ということだな」
「そんなこと言ってない!俺は国教会信者だ!」
「神を騙せる存在などそれこそ魔王でも余程の能力がないと無理だろうね」
その時、古代語の授業のために通りかかったレヴァイン先生の冷静な声が話に割って入ってきた。
「君たち、あと1分で授業開始だ。
エリー・トールセンは討伐者であって毒殺犯ではない。
それが国・教会・冒険者ギルドの見解で、学校はそれを採用して入学を認めた。
文句があるなら学生裁判でも起こすがいい。確実に負けるがね。
さぁ、トールセン。君も立ちなさい。
君たちもいつまでも廊下にいないで、授業がないならさっさと帰りたまえ」
そういうと先生は自分の教える教室に入っていった。
今思い返せばあの時みんなで言い合いになり、レヴァイン先生の完全否定があったおかげで私の毒殺犯呼ばわりは言われなくなった。
だから残ったのはユナが私の秘密(秘密というより心に深く刻まれた傷だ)を他の人に話してしまったという事実だけだ。
もし脅されたり、迷惑を掛けられたりしたくなかったとしても、私の秘密を話す必要はなかったはずだ。
彼らと一緒になって笑う必要もなかったはずだ。
だからもう信用する気はないし、仲良くする気もない。
彼女はもう私にとって……友達ではなく敵になったのだ。
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