第148話 アシュリー・ドーン


 翌日の朝、教会の奉仕活動を終えるとドラゴ君が私を待っていた。

寮の部屋に魔獣学のザハロワ先生から呼び出しのレターバードが届いていたのだ。



 どうやら誰かがモカのことを先生に告げ口したらしい。

 学校は戦闘従魔は連れていてもいいが、愛玩従魔は許されていない。

モカは可愛いので戦えるのか疑われているのだ。



 実は私自身はモカが戦うところを見たことはない。

 でもドラゴ君が言うには、魔法を使わなくても十分戦えるので心配ないと保証してくれた。

 私が仕事や勉強をしている間にみんなで遊びがてら戦っているようなのだ。

 


 モカの精霊魔法の一つ、『シークレットガーデン』はその場にいるものをモカのテリトリー(庭)に閉じ込めることが出来る。

 そして、その中で行われたことは外部には絶対に漏れない。


 3匹はアランカの森で魔獣を見つけてシークレットガーデンに閉じ込めて倒す。

それを繰り返してどんどん強くなっているそうだ。倒した魔獣は私の作業台の保管庫の中に放りこまれている。

 最近はラビットやウルフじゃなくて、オークとかボアとかも入っていてびっくりしてしまう。



 だから私はお肉を買わなくなった。

 代わりに解体の魔法も習得した。

 前は血抜きだけだったが、今では完全解体が出来るようになった。

 ジャイアントボアの特殊個体の肝はパワーポーション(攻撃力がアップする)の材料になるので完全な形で手に入ってとても嬉しい。



 ドラゴ君と一緒に職員室に向かうと、ザハロワ先生は厳しい顔で私を迎え入れた。

「トールセンさん、あなたの従魔のことで愛玩従魔ではないかと報告が来ています」

「モカはティーカップ・テディベアですが、ずっと野生だったのでその辺の従魔より強いです」


「それを私たちに証明してほしいのだけど」

「わかりました。どうしましょうか。どなたかの従魔とデュエル決闘でもしますか?」

「そうね、でもティーカップ・テディベアはとても高価な従魔だし怪我させるとね」

 いや先生、それってモカが負ける前提ですよね?



「ぼく、喋っていい?」

 ドラゴ君が先生に発言の許可を求めてきた。

「ええ、構いませんよ。どうしましたか?」


「はっきり言うよ。モカはすごく強いから死んでも構わない魔獣を相手にさせた方がいい。従魔はダメだよ。

ぼくが何匹か捕まえてくるから、それを相手でもいいかな。それともズルしたって言われる?」

「そうですね。魔獣の状態を鑑定できる教師は何人もいますから、その点は安心してもらっていいですよ」


「じゃ行ってくる」

 ドラゴ君は転移し、それを見た先生はため息をついた。



「転移するところを初めてみたけれど、さすがね。人語を話す時点で規格外だけど、とても素晴らしい従魔だわ」

「ありがとうございます」


「授業の時に獣化するところを見せてもらわなければ、魔族と間違えるくらいだわ。知能もすごく高いし」

「私もマスターも魔族を隷属させたりしません」

 それにもしドラゴ君やほかの従魔たちが自由になりたいと言ったらマスターは何も言わず解放するだろう。あれほどの度量の広い方は他にはいない。



 5分ほどしてドラゴ君はジャイアントラビットを1匹と、フォレストウルフを3匹連れてきた。

 全部失神状態だ。

「ラビットだけじゃ弱いって思われるかもしれないから、巣で寝ていたウルフも連れてきた」

 ドラゴ君、早すぎませんか?



「は、早かったのね。そうね、皆檻に入れた方がいいわよね」

「そうしてくれる?夕方までには意識も戻ると思うし、そしたらモカと戦えばいい」

 あとは先生にお願いして私は教室へ、ドラゴ君は私の部屋へ戻っていった。




 今日から新しい授業だ。



 火の日の今日は、魔法史学と実学と数学と文学だ。

 噂では実学の授業を減らして他の授業に当てたかったそうなのだ。でも騎士団に入って苦労するのは生徒だとディアーナ殿下が主張されて、1学年の間は実学の授業が残ったのだ。



 私には必要ないけれど、貴族やお金持ちの子女は料理を学べないことは多いし、ましてや王族では絶対させてもらえないだろう。



 今日は調理実習なので、これをお昼ご飯にする。従魔のみんなにはお昼を作って置いてきているので心配ない。

 本当は部屋に戻ってモカに大丈夫か聞きたかったけど、ドラゴ君を信じよう。



「マリウス、玉ねぎは一緒に入れるマメの大きさと揃えてって言ったよね」

「別にスープで煮るし、火が通ればいいじゃん」

「食べるだけならいいけど、よりおいしく食べるには大きさを揃えて同じ火の通りにした方がいいんだけど。逆にジョシュ、そんなに細かくしなくてもいいから」

 しかも超ロースピード。プルプル震えながらゆっくり切っていて見ていてちょっと怖い。



「そうかな、初めてのみじん切りだから」

「まぁいいよ。ジョシュのみじん切りはオークバーグに入れよう。歯ごたえはなくなるけど肉と一体化して美味しくなるから」

 そういえば今日はオークだけれど、牛系魔獣のバーグはどうしてハンバーグというのだろう?

今度ルードさんに聞いてみよう。



 2人と比べてアシュリー・ドーン君の手際は本当に素晴らしいです。



 今回の課題は玉ねぎのみじん切りだ。

 さっきので分かったと思うが、マリウスはおおざっぱでジョシュは細かすぎ&遅すぎ。私は先生の規定通りの大きさにもう切って採点済みだ。

 ドーン君は私と同時に切り始めて、ほぼ同時に終わった。出来栄えもほぼ変わらない。



「ドーン君、手慣れてるね」

「俺は孤児院の手伝いしてるから」

 そっけないけど一応は言葉を返してくれる。彼は騎士科志望だそうだ。



 今回20人のクラスで4人の班分けだったのだが、私たちは3人グループなのでどうしようかと思ったら一人だけでDクラスから来たドーン君が入ってくれたのだ。

 前のダンジョン見学の班分けみたいに大騒ぎにならなくてよかった。



「ユナとはもう話、しないのか?」

 突然ドーン君から話しかけられた。

「私が話しかけると迷惑そうな顔をするからこっちからはしない」

「そうか」

「なんでそんなことを?私と話さないのはユナの方だよ」

「ユナ、前は君の話ばかりしてたから」

 ふーん、そうなんだ。まぁ男の子にメルを狙ってた話なんかできないか。



「残念だけど私にはどうすることもできない。彼女も望んでないんじゃない?」

「そうかもしれない」



 その後はもうこの話はしなかった。

 オークバーグもサラダもマメ入りのミネストローネスープも美味しくできた。

 先生の試食も合格点をもらって、めでたしめでたし。



 アシュリー・ドーンとマリウスとジョシュは結構気が合ったようだ。

 みんな男の子だし、皆剣とか武術が好き(なぜかジョシュも)だからだ。

 ちょっぴり寂しい。

 でも流浪の民になるんだし、こういう事が今後も起こってくるんだ。

 授業の時の班であぶれなければいい。



 でもやっぱり寂しい。






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