第149話 モカの初戦闘
授業が終わった後、ザハロワ先生の元へモカを連れて行かなければならなかった。
学校には模擬戦を行う運動場があって、そこでモカとドラゴ君が捕まえた魔獣を戦わせる。
寮の自分の部屋に戻ると、何やら準備体操中のモカとカバンにミランダをいれるドラゴ君がいた。
「モカも入る?」
「いい。エリーに抱っこしてもらう」
モカは足が……いや背がとても小さいので歩くと遅くなるのだ。魔獣を校内で走らせるのは緊急事態以外禁止である。
「モカ、大丈夫?」
「もちろん、うさぎと狼でしょ。楽勝~」
そう言ってモカが前足を私の方に出してきた。なんとなく握ってる?
「えーと、何かするの?」
「こぶしとこぶしを合わせることはね。友情を表すのよ。あたしはエリーとの友情のために戦ってくるから、応援してほしいの」
「もちろんだよ!」
それでモカのちっちゃなこぶしに私もこぶしをそっと合わせた。
モカありがとう。
嫌なことを思い出したから意気消沈してたのかもしれない。
モカが私との友情のために頑張ってくれる。
だから私も頑張らなくちゃ。
運動場に向かうとザハロワ先生だけでなく結構生徒も入っていた。
「いろんな先生方に魔獣の状態鑑定をしていただいたら、生徒たちも見たいって集まってきたの。でも見届け人が多いほど正確な事実が広まるから構わないわよね」
私がモカを見つめると大丈夫だと言うように小さく頷いた。
見物客にはディアーナ殿下とラリック様。クライン様とダイナー様、マリウスとジョシュとアシュリー・ドーンなどAクラスのほとんどと、リリー寮長などの上級生もいた。
私は首の魔石がしっかりついているか確認し、モカを運動場に放った。
ザハロワ先生もまずはジャイアントラビットを放した。
ジャイアントラビットはジャンピングラビットよりは俊敏性に欠けるが体が仔馬ぐらいのサイズがあり、重量級の蹴りを放ってくる。弱点はやはり眉間だ。
ジャイアントラビットは檻に入れられた上に、隣の檻に3匹もフォレストウルフがいたのでずっと緊張状態にあった。その状態から解放されてすべての怒りをぶつけるように全速力でモカへ向かって走ってきた。
モカもジャイアントラビットの方へ猛スピードで走り、ラビットの真上に前足を横に広げて十字の形に飛び上がった。
そしてそのままラビットの眉間に右後足を振り上げてかかと?を叩きつけた。
そのとき、すごーく嫌なゴリっという音がした。
一瞬だった。
モカはもう片方の足でラビットを踏み台にすると一回転してスチャっと着地した。
ジャイアントラビットはしばらく痙攣していたもののその場で息絶えてしまった。
「ティーカップ・テディベア、モカの勝利!」
ザハロワ先生が判定を下す。
観客たちはあっけに取られていたが先生の声をきっかけに拍手が沸き起こった。
「トールセンさん、次のウルフまでに休憩が必要ですか?」
私がモカを見ると、要らないと首を振っている。
「必要ないそうです。続けてください」
ジャイアントラビットは片付けられ、フォレストウルフ3匹が放たれた。
ウルフは前衛2匹、後衛に一番体の大きなものがいた。前衛でモカを遊撃して疲れさせ、最後に後衛のウルフが喉首を噛み切る作戦のようだ。
こちらも捕まえられていた怒りからか、ガルルルルと闘志をむき出しに唸っていた。
モカは向かってきた2匹のウルフのうち、右側に向かって走っていった。
それを見て左側も右に寄ってきていた。
そして彼女は飛び上がって右後ろ足でウルフの頭を回し蹴りし、そのまま勢いを使って右のウルフの体を左のウルフにぶつけた。
威力がすさまじかったのか、前衛ウルフ2匹はそのまま吹っ飛び運動場の壁にぶち当たった。
そのときすごーく嫌なゴリっという音がして、2匹とも動かなくなった。
一瞬だった。
そのままモカは後衛のウルフの元に駆け寄ると、顎下にちっちゃなこぶしの一撃を入れた。
そのときすごーく嫌なゴリっという音と共にウルフは宙に飛び、地面に落ちた。
一瞬だった。
みんなまたあっけに取られてシーンとしていた。
私がザハロワ先生に呼びかけると、
「ティーカップ・テディベア、モカの勝利!」
勝利判定を下してくれて、うわ~っと言う歓声が起こった。
そして、モカは戦闘従魔として認められた。
モカが私の元へやってきた。
ドラゴ君が「エリー手のひらこっち向けて」というのでそうしたら、モカがパチンとその手を叩いた。
詳しく聞くと、ハイタッチと言う『やったね!』という気持ちを表す仕草らしい。
みんなで狩りが成功するとやってるんだって。
マリウスたちが近寄ってきて、
「モカ、すげー。マジやったな!」
「ホントに。ティーカップ・テディベアってめちゃくちゃ強いんだね」
「こんなに可愛いのに。目の前で見なかったら信じられなかった」
マリウス、ジョシュ、アシュリーだ。
モカはえへんとでも言うように胸を反らした。
そんなモカをマリウスは抱き上げて、
「こんなに短い脚でよくウルフ蹴れたな」と失言して、モカに
よかったね、マリウス。
モカが本気で
ポコポコは愛だよ、愛。
後ろから「エリー君」と一番声を掛けてほしくない人から声を掛けられた。
クライン様とダイナー様だ。
「今回の勝利の女神に拝謁したいのだが構わないかな」
するとさっきまでマリウスとじゃれていたのに、転移でもしたのかと思うくらいのスピードでモカは私の足元にやってきた。
目がウルウルして煌めいている。感動の涙で潤んでるのだ。
クライン様は片膝をついて騎士のように恭しくモカの前足を取った。
そして私とモカにしか聞こえない小さな声で、
「聖なる御使いに最大の敬意を表します」
そう言って前足に口づけをした(くっつけない方ね)。
私はエイントホーフェン伯爵夫人との訓練で顔にこそ汗はかかないものの、背中にタラリとするのを感じた。
バレてる?バレてますよね?
でも貴族的表情で誤魔化す。
私は何にも知らないよ~。
「おや、エリー君。君の大事な従魔がフニャフニャになっているんだが」
ああ、モカったら!
憧れのクライン様に会って顔が真っ赤になってる。背骨が無くなったみたいにクンニャリしはじめた。
「申し訳ございません」
私がモカを抱き上げようとかがんだらクライン様は耳元で、
「図らずも君との約束を破る羽目になってしまっていたが、この件を秘密にすることでお互い貸し借りはなしにしよう」
「何のことでしょう?」
「君のモカが私の
知られたら君のクランマスターの所有だろうが確実に国に取りあげられるからね。
だから約束通り私のお茶会にも来てくれまえ」
わ~ん!やっぱりバレてる!!
「いや、今日は大変有意義な一日だった。ではサミー帰るとしよう」
「はい、リカルド様」
「エリー君、ではまた明日」
クソ~!絶対に喋りたくない!
私は深く頭を下げることだけはした。
超ご機嫌なクライン様と私を見比べて、ダイナー様は困ったご様子だった。
私に声をかけようとされたがクライン様がさっさと歩くので諦めて帰っていった。
部屋に戻って魔石を外したモカに、
「前に言ったと思うけど、リカルドって『真実の眼』ってスキル持ってるんだよね。隠蔽なんかしてたら余計確認で見られるんだった」
てへぺろ(ハルマ用語です)とするモカに私は真っ白く燃え尽きるしかなかった。
あの日、レオンハルト様にモカを預けてさえいなければ……。
いやモカが教会に付いてこなければ……。
ううん、カバン重いなって思った時に私が確認を怠らなければよかったんだ。
くぅ~、よりによって一番知られたくない人に知られちゃったよ。
くやじい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!
ヴェルシア様、これが吉と出るか凶と出るか。とにかく突き進むしかありません。
どうぞ私をより良い道へお導きくださいませ。
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poko-pokoと boko-bokoというふりがなを付けたのは、付けないと字面が似すぎていて読みづらかったからです。
追記)ソレイユ(愛称ソル)はリカルドの聖獣の名前です。
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