第146話 裏切り1


 ビアンカさんとのお話を終えて夕食の席に向かったが、クランマスターは現れなかった。

 それでモカの正体を知っているルードさんに聖獣と隠蔽の件を相談することにした。



 ルードさんは難しい顔をした。

「聖獣遣いがいるとは厄介ですね。エリーさんも今はそうなのですが」

「やっぱりバレる可能性大きいですよね」

「残念ながら俺にそこまでの高度な隠蔽は出来ません。マスターは所用でお出かけですし、困りましたね」

 どうしよう。

 このことでモカを守れなくなったら……。



「マスターが戻るまで出来るだけモカさんに部屋にいてもらうのはどうでしょう。

 ミランダも一緒なら寂しくないですし。

 聖獣遣いが部屋にやってくることはありますか?」

「いえ、男性ですのでありません」


「ではまずそれをやってもらって、それでもバレたら……」

「バレたら?」

「モカさんにそのフェニックスに直接頼んで黙っててもらうんです。お互い聖獣同士ですし、何か対価を求められるかもしれませんが、それはその時考えましょう」


「でも主に黙っていられるでしょうか?」

「答えろと命令されたら難しいですが、モカさんが見たままとは違うと思う人間がそうそういるとは思えません。

従魔は主に自分からすべてを話すわけではありません。聞かれて初めて言うんです」


 クライン様はその、そうそういない人のような気がするんだけど、心配ばかりしても始まらないか。



 モカにそうお願いしたら、ちょっと嫌そうだった。

「うーん」

「やっぱりだめ?その間だけクランに残ってる?」

「それは嫌!そうじゃなくて」

「うん」

「その、あたしリカルドとサミーに会いたいんだよね」

 モカはもじもじしながらそうつぶやいた。


「えーと、モカ。さっきも言ったけどクライン様の従魔が聖獣だからバレないようにってことなんだけど」

「でもさ、ここが『アイささ』の世界かはわからないけど、2人は今あたしと同じ世界に生きてるのよ!ずっとずっと推してきた2人がよ。どうしても会いたいの」


「それはクランマスターが戻ってくるまでの辛抱よ。

 ルードさんは1か月に1度は必ずお帰りになるって言ってたもの。

 お願いモカ。あなたが聖獣だとバレると教会か国に取られるかも知れないの」

「ウヴ~」



「この間みたいにダイナー様だけなら良かったのにね。ごめんね」

「過ぎたことはいいわ。わかった、でもその後は絶対絶対会わせてよ」

「あんまり親しくしたくないんだけど、努力します」



 クライン様と話をすると死が近づくような気がするんだけど、モカには我慢ばかりしてもらっているし何とかしよう。

 錬金術科の生徒しかいない、工芸の授業なんかいいかもしれない。

 ダイナー様にモカを近づければ、お優しいから抱っこしてくださるかもしれない。

 


 でもユナがいるなぁ。



 ユナはもう友達ではない。

 彼女は私を裏切ったのだ。



 ああ、思い出したくない。

 私の心に出来た黒いシミの正体。



 ユナがメルに失恋してから、私たちは前よりも打ち解けて話すようになった。


 あるとき、彼女が友達同士秘密の打ち明け合けっこをしようと言い出した。


 私はあんまり秘密がないわけじゃないが契約上言えなかったので断ったのだが、

「何にも秘密のない人なんかいないわ。エリーはあたしのこと信用してないの?

 せっかく友達になれたと思ったのに」



 そう言われると困ってしまった。

 私は今まで友達があんまりいなくて、特に女友達はいなくてどう付き合ったらいいのかよくわからなかったからだ。


 それで了承してしまった。

 これがすべての間違いの元だった。



「じゃあ、あたしの秘密を話すね」と意気揚々とユナは話し始めた。



 ユナは本当のみなしごではなく、旅芸人の一座の踊り子の娘で赤ん坊を連れて一座で回れないからとお金と共に孤児院に預けられていたのだ。

 しかし、それから10年。彼女の母親は帰ってこなかった。


 帰ってこない理由はわからないけど、よくある話だからとユナは大したことないと笑っていた。

 少なくとも彼女の母親はちゃんとお金と名前を残して行ってくれているのだ。

 愛情があった証拠だ。



 それでユナには演技と踊りのスキルが付いていてそれを生かしたいと思っているんだそうだ。

 自分がその世界で有名になれば、同じ世界にいる母親もどこかで聞きつけてくれる。そう信じていると彼女は希望を語っていた。



「商家にお嫁に行きたいんじゃなかったの?」

「だって女優になりたいって結構恥ずかしいよ。あたし別にすごい美人ってわけでもないからさ。誰かに知られたら絶対に馬鹿にされる」

「そうかなぁ、お母さんに会いたいって素敵な夢じゃない」

「エリーはキレイだからわかんないのよ。平凡顔の気持ちが!」

 プイと横を向いたユナはツンとしてたけど、私はユナを可愛いと思った。



 怒ったのかなとおもったけど、その後も楽しそうに話すユナに私はすっかり安心していた。



 私はそんなユナが好きだった。

 ずっと友達でいたかったなぁ。

 でも手のひらを返されたことは簡単には忘れられない。

 仕方がなかったのかもしれないけど、やっぱりだめだ。



 私を無視したことだけならまだ許せる。

 ユナは孤児院出身で貴族の多いこの学校ではあまり強い立場と言えないからだ。

 でも彼女は私が秘密として話したことを皆に言ったのだ。

 皆と一緒になって私を笑ったのだ。



 私が話した秘密は、ルイスさんを死なせてしまったことだった。


 



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