第144話 資格取得計画


 始業式だったので、今日は早く帰れた。

 それでマリウスとジョシュと校庭のベンチで今後の資格取得計画について話し合った。



「とりあえず冒険者ギルドで登録後、俺とジョシュはEランクのための納品をするぜ。アランカの森に一緒に行くつもりだけどエリーはそれでいいか?」

「いいよ。私もいろいろ講習と試験があるから。手伝える時は手伝うけど」


「何だよ?いろいろ講習って」

「まずは裁縫ギルドからで1級裁縫師目指す」

「そうなの?今まであんまり裁縫の仕事やってなかったよね」

 ジョシュの言う通り、私は裁縫の仕事はちょっとしたお手伝いだけだった。



 私はソフィアのために出来るだけのことがしたい。

もちろん今のままでも技術的にはドレスを縫うことは可能だ。

 でもソフィアは聖女なのだ。

彼女は国内外で注目される存在で、当然その着るものや持ち物も皆から注目される。

 その聖女のドレスを何の資格もない10歳の子供が縫うなんてことが許されるはずがない。

私が縫ったために、ソフィアが侮られるようなことはあってはならないのだ。



「ソフィアのドレスを作ってあげたいの。教会のお金を自分のドレス代に使わず子供たちのために使いたいって。私が縫えば安くしてあげられるから」

「ソフィア様のためか。大いに頑張れ。俺は応援する」


 ソフィアびいきのマリウスは私の背中をポンと叩いた。

 それを見たモカがなぜかマリウスの背中をポンと叩いていた。モカはマリウスが気に入ったみたい。



 まずは裁縫ギルドで貴婦人のドレスを受注できる1級裁縫師になる。

 次に従魔ギルドでテイマー、サモナーの資格を取る。

 その次に調理ギルドで料理・製パン・製菓の資格を取る。



 資格がなくても菓子店で接客は出来るが、最近は入らせてもらえなくなった。

 私がお菓子を作れることはギルドメンバーだけでなく一部のお得意様も知っていて、私が接客に入っていると特注してくださる方がいるからだ。

 10歳の子供が作ったお菓子が珍しいのだろう。



 でもクランではこの特注はあんまり喜ばれていなかった。

計算して新鮮な材料を仕入れて狩っているのに、余分に材料を使うと足りなくなってしまうからだ。



 クランの保管庫は冷蔵は出来るが時間停止ではなかった。

 昔、時間停止だからとポンポン材料を放り込むヒトがいて、菓子専用なのに生肉が入っていたのを先代勇者が生理的に受け付けないと言ったからだそうだ。

 でも今はそんなことする人はいない。

 

 それでマスターがお暇になれば、時間停止にしてもらおうとルードさんと相談している最中に商業ギルドの横やりが入ったのだ。

 結局、菓子店の厨房は冷蔵のみのままだ。



 それから薬師ギルド、細工師ギルドなどを済ませたら、魔法師ギルドで付与魔法と魔法陣の資格を取る。

 付与と魔法陣が一番仕事に使っていたが、これを最後にしろとマスターから言われている。

 この資格を私が取ったら、過大な納品義務を課してくると思われるからだ。

他の資格を取る暇もないくらいに。



 だから全部取ってから資格証書の写しをまとめて商業ギルドに提出して、私が『常闇の炎』の仕事をするにふさわしいことを認めてもらうんだ。



 魔道具ギルドは悩ましいところだ。

 実はアリルさんからかなり複雑な回路も教えてもらっているが、私が製品化したものはまだない。

 もうすでに出来上がっている製品に魔法陣を描き込むだけだ。


 それに魔道具は錬金術師としての根幹にかかわってくる仕事だ。

 ギルドの資格を取るためにはオリジナルの魔道具を納品しなくてはならない。

 そして学校の卒業資格のためにもオリジナルの魔道具を提出するから、2つも製作しなくてはならなくなる。


 でも私にはクランのための商品開発もある。

いくつもオリジナル魔道具を作っている暇があるのか全く見当もつかない。



 資格を取らないのは鍛冶ギルドくらいかな。


 私には火魔法がないし強い魔力もないので鍛冶や陶芸、ガラス工芸なんかも向いていない。

 だからエヴァンズで取る工芸はこの不得意なものを勉強したかった。



 錬金術科ではすべてを網羅する必要がある。

 もちろん才能があって精度の良い品を自分で作れるのはとても素晴らしいことだ。

でもすべてにおいて優れた才能がある人なんていない。それこそチートだ。



 ではなぜ必要なのかというと、錬成するときにイメージするときに必要なのだ。

 手を使って、実際作ってみる。

 その時の熱の熱さ、重み、腕に帰ってくる振動。こういったものを知っているか知っていないかで成功率が高まり、より良いものが作れるのだ。



 それにエヴァンズで授業がある間に不得意分野を履修しておかないと専科に入ってから王立魔法学院で受ける必要が出てくる。

 学院で鍛冶や陶芸、ガラス工芸がどの程度のレベルになっているか他校生の私には知るすべがない。

 行ってとても出来ないほどのレベルに達していたら、私は錬金術師になれない。



 私が流浪の民になっても、錬金術師としての能力があればどこでだって生きていけるはずだ。

 そして戦闘は従魔にバフを掛けたり、傷を治したりの後衛を基本にする。

 後衛の武器は、弓矢と魔法だ。一応接近戦用の短剣も伸ばしていくけど、直接戦うのは従魔になる。



 でも甘えん坊のミランダにそういうの出来るかなぁ。

 ドラゴ君たちと遊びがてら戦いの練習を始めてくれているみたいだけど、私との連携をどうやって教えればいいんだろう。

 いや、だからそのために従魔ギルドの優先順位を上げたんだ。



 先のことばかり考えると憂鬱になる。

 私は『常闇の炎』にいたい。でもご迷惑になるようなら出ていくつもりだ。そのための準備は怠りたくない。

 ああダメだ、後ろ向きになったら。

 目の前のことを一つずつ片付けるのだ。



 とにかく今日はクランに戻って、マスターがいたらモカの隠蔽を相談しよう。そうしよう。

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