第138話 なんとかなる、なんとかする
気の重い話が終わったので寮に向かうと、そこにはリリー寮長とお友達のお姉様方がいた。
「トールセンさん、お帰りなさい」
リリー寮長や皆様が出迎えのハグをしてくれた。
「皆様、只今戻りました。いろいろとご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんて掛かっていないわ。心配はしたけれど」
次々と元気なってよかったわねとか、みんなを守って素晴らしかったとか励ましていただいてなんだか泣けてきた。
こうやって受け入れてくれる人がいることが嬉しかった。
「わたくしたち、あなたを正式な茶会へお誘いすると約束しておきながらあの事件でしょう。事務局からは生きていると聞いていたのに、あなたが亡くなったと噂が立って心配だったわ。
だからわたくしたちは心残りがないようにあなたに招待状をお渡しするわね」
そういって茶会への招待状を手渡された。
「積もる話もあることだし、談話室でお茶でもいただきましょう。
ドラゴ君も来てくれるわね」
「うん、ありがとう。ぼく甘い物大好き」
談話室で皆様が着席した時に、私はモカを紹介した。
「皆様、今度新しく私の従魔になったモカです。モカご挨拶して」
モカは私の膝の上に立ってぺこりとお辞儀をした。
「まぁぁぁぁ~、ティーカップ・テディベア?本物初めて見るわ」
「すごくかわいい!買ったの?」
「いいえ、クランマスターの従魔で私にお貸しいただいてるんです。モカは私の心を癒してくれるんです」
「なんだか、『常闇の炎』に勤めたくなるわね。だってドラゴ君もモカちゃんもいるんですもの」
「ホントですわね。この夏カーバンクルを探し回ったけど全然見つからなかったですし」
「イイズナどころか、オコジョすら見かけませんでしたわ。森や山の涼しいところにいるそうですのに」
皆様、本気でカーバンクル探しされてるんだな。
「詳しくはないんですが、イイズナやオコジョは夏毛が茶色いそうなんです。
ドラゴ君は夏毛にはならないんですけど」
「そうなのね。わたくしたちは来年から騎士としてどこかに配属されているけど、諦めずに探し続けるつもりよ」
皆様のカーバンクル愛に私は驚くばかりだった。
ミランダとモカは人懐っこいので皆様に抱っこされたり、撫でられたりしていたが、ドラゴ君は頑として触られるのを拒否しているからかもしれない。
部屋に戻ってからこっそり聞いたのだけれど、リリー寮長をはじめとする皆様はとてもいい方々でドラゴ君も頭撫でられるくらいならいいかなとは思うそうだ。
だけどこの人たちに許可を出したら、触られたくない人にも許可を出さないといけないかもしれないので断っているんだそうだ。
そうだね。とげとげしい人に触られたくないよね。
王都に帰ってきてから本当に目まぐるしい。
ディアーナ殿下のこと、クライン様のこと、ソフィアのこと、ハルマさんのこと、資格試験のこと、新商品開発のこと、いっぱいすることが山積みだ。
成績だって維持しなくてはいけない。2学期からは攻撃魔法の授業もある。
もっと社交の授業も増えるみたいだし。
こんな状態で誰かのサポートをする?とても無理だ。
そうしたらポンっと肩を叩かれた。魔石の首輪を外したモカだ。
「エリー、そんな思いつめた顔しないの。レオンハルト様も言ってたでしょ。
『自らの魂に正直であれ』って。やりたくないことを無理にしなくてもいいわよ。
あたしはゲームのファンだからまどかが頑張っていたら手伝いたいけど、エリーはそうじゃないもの。
それにあまりにも設定が変わりすぎていて、ここが『アイささ』かどうか怪しいし」
「私としては『アイささ』の方がいいわ。だってRPGの方じゃこの国が戦争になってしまうんだもの」
「それはホントに嫌よね」
「うん、決めた。
とりあえず目の前のことを片付ける。私は私の出来ることをしよう。
まどかさんを助けるのは私の安全が保障されて、余裕があればするよ」
「あんな話聞いたらしょうがないよね。ねぇ、あたし小腹がすいたんだけど。
みんなに撫でられていてあんまりお菓子たべられなかったんだよね」
「わかった。何がいい?」
「そうねぇ、エリーの焼いたお肉がいいわ。あたし肉食女子なの」
「ねぇ、ティーカップ・テディベアは肉食なの?」
「雑食。リンゴも好きよ」
「わかった。とりあえずリンゴ食べてて。その間にお肉焼くから」
「リンゴはウサギさんにしてね」
ウサギさんにするという意味が分からなかったが、モカに教えてもらって皮をむいた。
うん、確かに可愛い。モカの元の世界は小さなことにも気遣いがあるなぁ。
明日からの学校は憂鬱だ。
でも前進あるのみ。1日が終わればそれだけ卒業が1日近づくんだから。
少なくとも私には仲間がいる。
ドラゴ君とミランダとモカだ。3匹とも大好き!
常闇の炎のみんなも、ソフィアもいる。
自らの魂に正直であれ、か。
それをいうなら、やっぱり流浪の民なんかになりたくない。
皆と一緒にいるために、『常闇の炎』にいたい。
マスターへのご恩に報いるためにも、私は錬金術師になるんだ。
アリルさんみたいなヒット作を生み出して、お金になる発明をして、皆の生活を少しでも豊かにするお手伝いがしたい。
『なに腹をくくればなんとかなるものだ』
ハインツ師の言葉だ。
うん、なんとかなる。なんとかする。
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