第六章

第139話 始業式


 始業式の朝、私は30分前に登校した。

 ディアーナ殿下のこともあるし、クラス替えで何をするのかわからないから。



 久しぶりの学校は何にも変わっていなかった。



 私がドラゴ君、ミランダ、モカと校内を歩いていると、

「嘘、生きてる。死んだんじゃなかったの?」

「あの子のせいで6人も転校したそうよ」

「ええっ?普通平民の方が転校だろ。おかしいじゃないか」

「何人かは平民落ちしたらしいわ。すごいわよねぇ」



 耳にしたくない噂話。ターレン先生の時と一緒だ。



 私はこの国と貴族には何も求めない。

 ディアーナ殿下がかばってくれてもそれはあの方が同席されている間だけだろう。

 どうしてそうしてくださるか不思議でならないけれど。



「「エリー!」」

 大声で呼ばれて振り返ると、マリウスとジョシュが駆け寄ってきた。

 ジョシュが私の手を取って、指があるかを確かめていた。


「生きてる、本当に生きてるんだね」

「うん、憎まれっ子、世に憚っています」

 私は2人を安心させるために手をにぎにぎして、ちゃんと動かして見せた。



「何言ってんだよ。ソフィア様が教えてくれるまで俺何にも知らなかったんだぞ」

「ごめん、マリウス。私もずっと意識不明だったし、王都を出て静養してたから。

学校には連絡したんだけど」

「まぁ、俺も田舎の住所教えてなかったもんな」

 ジョシュはそれについては言わなかった。



「あの時は本当にごめん。僕……何もできなくて」

「俺も。騎士失格だな」

「うーん。実はその時のこと何にも覚えてないの。インフェルノってすごい魔法のせいで私記憶がないの」

 嘘は言っていない。間を端折っているだけ。

「もしよかったら教えてくれる?」


 マリウスとジョシュはお互い顔を合わせて、

「そんなのお安い御用だよ」

「うん、その、その前にエリー」

「何?」

「後ろの従魔紹介してくれねぇかな。

俺、本物のティーカップ・テディベア初めてみるんだ」

 そうだった。マリウスは魔獣が大好きだった。

 モカを紹介し彼女がテトテト歩いて握手をすると、マリウスが抱っこしたがった。



 マリウスは近くでモカの足を見て、

「ちっちゃくて短い脚だなぁ。これで素早く動けるのか?」

 するとモカのご機嫌を損ねたらしく、マリウスはポコポコ叩かれていた。

「どうした?おい、ちょっと痛い」

「モカは女の子なんだよ。脚が短いなんて言っちゃだめだよ」

「あんまりにもかわいくて心配になったんだ。学校では愛玩従魔は禁止だからさ」


 そうなのだ。基本的に従魔は魔法を使うときの補助をするか、一緒に戦闘するかでないと学校に連れてきてはいけないのだ。



 すかさずドラゴ君が、

「モカはこないだまで野生だった。つまりそれまで生き抜いてきたんだ。

弱い訳がない」

「また、ターレンの時みたいに戦わせられるかもな」

 モカはそれを聞いて闘志をみなぎらせた様に、ファイティングポーズをとった。



「なんだか僕らの言葉が分かっているみたいだね」

「結構賢いみたいだよ。ティーカップ・テディベアって」

 これは事実だから構わないだろう。



「私、魔道具作りたい。従魔たちが装備できるような奴」

「うーん、貴族が美しい従魔に宝石を飾っているのは見たことあるけど、戦いを補助するようなもののこと?そんなの見たことないよ」

 ジョシュが見たのはシュレッドホーク引き裂きワシという2mぐらいある鷲の魔獣で足と頭に飾りが付けられて巨大な鳥かごに入っていたそうだ。

 すごいな、見てみたいような、見たくないような。


 従魔たちに付ける魔道具はあんまり出回っていない。

魔獣の体に余計なものを付けることはかえって彼らの動きを妨げてしまうからだ。

従魔の認証タグですら、嫌がって自分で噛み切ったりするらしい。

 でもウチの従魔たちはみんな知能が高いし、勝手に外したりしない。


 

 マリウスが一体どこに着けるんだとまたモカの足を見たので、彼女にポコポコにされていた。

「あっ、待て。ちょっと痛い」

そういいながらもどこか嬉しそうだった。

 マリウス……新しい世界が開けたんだろうか?



 ひとしきりじゃれあいが済んで、

「とにかく教室に行こうぜ。言うの忘れてたけどエリー、クラス替えがあったんだ。でも俺たちは一緒だから」

「Aクラスだってニコルズさんに聞いたけど」

「クラスの全員が集まったら全校集会のため講堂に集まるんだ。

コリントン先生の学校葬があるから」

「そう……。私のダンジョンでの最後の記憶、コリントン先生の皆集まりましたなって声なんだ。薬草のことも色々教えてくれてとてもいい先生だったのに」


 皆でしんみりした。

 コリントン先生はおじいさんだったが、知識豊富で丁寧に教えてくれる素晴らしい先生だったのだ。



「私、死んでたことになってたんだって聞いたけど」

「そうなんだ。俺も帰省直前に聞いてびっくりした。でもすごい大けがだったし、前日にメルがお前んとこのクラン訪ねて、面会断られたって言ってたからさ。

でもちゃんと調べたら良かったぜ」


「ううん、どうしてそんなことになったのかなって思っただけ。誰から聞いたの?」

「誰って、学校の掲示板に貼ってあったから……。ジョシュ、あの張り紙名前とか書いてたか?」

「うーん、内容が衝撃過ぎてあんまり覚えていない。でも学校の専用用紙だった気がする」



 ニコルズさんはそんな話全然してなかったけど。私に黙っていたんだろうか?

今度聞いてみよう。




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