第124話 乙女ゲームのシナリオ1
モカは乙女ゲームについて、それはそれは嬉しそうに話した。
「リカルドとサミーが出てくる乙女ゲームはね、『バルティス王国物語 この愛を君に捧ぐ』っていうタイトルで、『アイささ』ってみんな呼んでたわ。
『アイささ』のヒロインは異世界から迷い込んでしまった私たちの世界から来た女の子なの。
デフォルトネームが『桂木まどか』。でもこの名前は変えられるから、違う名前かもしれない」
「とりあえず、私が主人公ではないね」
「うん、ヒロインはごく普通の女の子なんだけど、天真爛漫で可愛いタイプ。
貴族の女とは全然違うの。異世界の革新的なアイディアや考えを取り入れて、攻略対象と仲良くなるのよ」
「ふーん、そんな簡単に仲良くなれるの?」
「まぁまぁ、そこはいろいろあるんだ」
モカはちょっと勿体付けた。来週から学校だから対策が必要になる。
とにかくさっさと教えてください。
「『アイささ』の攻略対象、恋人になる人のことね。5人で隠しキャラが2人。
王道の第2王子のエドワード、魔術オタクの公爵令息のクリス、クーデレの伯爵令息のリカルド、チャラ男の大商人の息子バート、堅物の学校教師レオンハルトで隠しキャラは高潔剣士の辺境伯令息ユリウス。
この6人にはヒロインの恋を邪魔する悪役令嬢がいるの」
オタク、クーデレ、チャラ男とわからない言葉来たな。
「まず、エドワードルートの悪役令嬢がローザリアと第一王女のディアーナ」
「ローザリア様が例の悪役令嬢って称号の人だよ」
「げ、一番めちゃくちゃ性格悪いヤツきた。邪魔者は殺しも厭わないタイプ」
「まさにその通り。間違いないね」
「クリスルートの悪役令嬢が、フェリスだったかな。セカンドネームがアリア。こっちで呼ばれてた」
「フェリシティーね、いらっしゃるわ」
「うんで、愛しのリカルドは悪役令嬢がいない代わりに、サミーが立ちふさがるの。あとディアーナもちょっと」
「何でいないの?」
「それはねリカルドが特別な理由で婚約者がいないからなの。後で詳しく言うね」
「わかった」
「バートも婚約者がいないんだけど、子爵家に嫁いでる姉のマーガレットが悪役令嬢の代わりをするわ」
うん? マーガレット……、子爵夫人……。まさかね。
「学校教師のレオンハルトにも悪役令嬢がいないの。でも敬虔な国教会の信者でなかなか落ちないわ。代わりにアリアとマーガレットが相手になるわ」
「教会にレオンハルト様っていう、ものすごい美男子がいるけどその人と違うよね」
「それかもしれない。本当は教会にお勤めだったんだけど、還俗して戻ってくるのよ」
「レオンハルト様はものすごい女嫌いよ。寄せ付けようとなさらないわ」
そう、書類整理の時にフェルナンドさんに聞いた話では子供の頃に女性に囲まれ続けたせいで、すっかり女性恐怖症になったって話だもの。
私だって会いに行くときは必ず男装してきてと頼まれてるし。
「それからリカルドルートとクリスルートの派生としてユリウスルートが立ち上がるの。この子初めはリカルドとクリスの親友のモブだったんだけど、絵師様の美麗な絵にファンがいっぱい付いてしまったから派生したんだよね。
彼の悪役令嬢はローザリアとアリアよ。いとこなの」
「バートさんとユリウス様には会ったことないわ」
「ええ?じゃあ他の人はあるの?」
残念ながらあります。
「この全員を落とすことを逆ハーというの。そのルートのことを逆ハールートと言う。重要だから覚えといて」
「あともう一人、隠しキャラがいるんじゃないの?」
「うん、その逆ハーを成功させると竜人のセレスティリュスが現れるの。
これがものすごく難しいの。なかなかの俺様だしね。
逆ハールートでエドワードの妻として王妃になったヒロインが、魔族の国の使者であるセレスと恋に落ちるの。
魔族の国との友好のためにヒロインはエドワードと別れてセレスとの愛を選ぶの」
「それ無理がある……」
「乙女ゲームはね、ファンタジーなの。おとぎ話よ。こんなこと実際あったら戦争ものじゃない」
「それに今魔族の国なんかないし」
「ええっ⁈魔王いないの?」
「うん、魔族の国は200年ほど前に滅んだの。魔族は今私たちとも仲良くしてるわ。このクランにも何人かいるのよ」
「そうなんだ。確か乙ゲーの中でも友好国だったと思う」
「そんな話絶対ないね」
ドラゴ君が突然割って入った。
「えっ……何?」
「竜人って人化できる竜のことだと思うけど、人間の女なんかに恋しないよ。所詮人化は擬態に過ぎないんだ」
「そうなの?でもドラゴ君みたいに人化を好むのかもしれないし」
「ぼくは人化の方が獣化の時より体が大きいから好きなだけで、この姿が気に入っている訳じゃないよ」
そうだったんだ。知らなかった。
「ぼくは人間ではエリーが一番気に入っているけどそれはエリーの魔力が心地いいからだ。強くはないけどとげとげしさがないんだ。人間の魔力はとげとげしいのが多いからさ」
とげとげしい?
「そう、自分と違うものを排除したい気持ち。もちろんエリーにだってある。ワームのことを思い出してるときはかすかにとげとげしくなる。エリーを苛めてた女の子の魔力はまだ幼いのになかなか険しかったよ」
「それって攻撃力が上がってるってこと?」
「いいや、なんていうのかな、好みの問題」
「でも、そのヒロインさんが私よりもとげとげしくない魔力の持ち主なら好きになるかもよ」
「ないね。魔獣にとって心の底から好きになっても恋愛感情はない。
相手が望むならそのフリは出来るけどそういうことを望まれた時点で相手にがっかりすると思う。
エリーより仲良くなっても恋には落ちない。ましてや相手を離婚させるなんてありえない」
「そうだね。あたしも今は
エンドのことはものすごく大好きだけど、恋人にしたいとは思わない」
「じゃあ、オークとかオーガとか女の人を捕まえて子供産ませるじゃない?あれはどうなの?」
「あれはただ単に女の人の体に卵を産み付けてるだけだよ。
その女の人に強い魔力があれば卵も強くなる。
産んだ後の人間は弱ってるから、その肉を食べれば子どもにとっていい餌にもなる。
みんな知らないだけで別の生き物に卵を産み付ける魔獣も動物も多いよ」
「じゃあ、男でもいいんだ」
「出来れば子供を育てる袋がある方がいいんだ。男だとないでしょ」
うむ、なかなか厳しい話だ。まさに弱肉強食。
「とにかく異種族である以上、番になる相手に持つような愛情ではないということだ。エリー以上に心地いい魔力だろうがそれは変わらない」
「でもセレスは違うかもよ~。ほら、いろんなヒトがいるみたいにいろんな竜がいてもおかしくないじゃん」
モカが可能性を指摘するが、ドラゴ君の反応は冷たいままだった。
「ありえない。もし例外があるとするなら」
「「あるとするなら?」」
「生まれてすぐヒトに育てられたせいで自分が人間だと思い込んでいる場合。
だけど恋人と結ばれてもすぐにそれが必要のないことだとわかる。それで終わりだ。
僕らは話せようがヒトの姿になろうが、あくまでも獣だ。
自らの本能に従って生きる。ただそれだけだよ」
確信に満ちた言葉にモカがため息をついた。
「乙ゲーはファンタジーだからなー。本能なんか無視して書かれてるもんなー」
「でもそのセレスさんがヒトに育てられてるのかも」
「ないよ~。
200年前に王都で捕まえられたドラゴンの子どもで深い森の奥で封印されてるから。
たった一人孤独に生きてたんだもん。それを魔王に救われてこき使われてるの。
だからヒロインはその孤独を埋めてあげるの」
残念そうにがっくりとするモカを私は撫でておいた。
ドラゴ君はもう口出ししなかった。
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