第123話 教会ダンジョン事件のその後


 ダイナー様がいらしたのは私へのお見舞いと今後の学園生活のことだった。



「トールセン、君が無事で本当によかった。俺はあの時何もできなくて……謝ってももう遅いかもしれないが許して欲しい」

「いいえ、ダイナー様。あのような非常事態を私たちでは対応できなくて当然です。許すようなことは何も」

 するとダイナー様はぴくっとして固まった。



「……もうサミーとは呼んでくれないのか」

「はい、余計な誤解を生む素ですから。クライン様にもそうお伝えください」

「わかった。でも聞いてくださるかの保証はしない。それから君の従魔に助けてもらったことも深く感謝する」



 私は記憶がないのでドラゴ君を振り返ると、

「別に。エリーを助けるためにはあのデカ犬始末しないといけなかっただけだから」

「それでも感謝する。ありがとう」

 そういってダイナー様は頭を下げた。

 貴族が平民やその従魔に頭を下げるなどあってはならないことだ。それでもダイナー様はしてくれた。



「その、遅くなりましたがお見舞いのお花ありがとう存じました。母が感激しておりました」

「俺も君の母上に会えて光栄だった。君に似ていて驚いた。まさかと思って声を掛けたんだ」

「私はどちらかと言えば父に似ていると思っていますが」

「いいや、顔や立ち居振る舞いなどとてもよく似ていた。違うのは目元ぐらいだと思う」

「……、ありがとう存じます」



 それから聞いたのは思いも寄らぬことだった。



「トールセン。夏休み明けにわかることだが1学年はクラス替えすることになった」

「クラス替えですか?」


「そうだ、ディアーナ殿下、ラリック公爵令嬢、そしてリカルド様が学校長に申し入れたんだ。身分ではなく学力レベルが近い者と同じクラスになりたいとね。

それで期末テストの成績で振り分けられることになった。

君が学年首位だ。2番はもちろんリカルド様。俺も君に教えてもらったからギリギリ19位に入って同じクラスだ。君の友人のハーダーセンやジャンセンも一緒だ。

ジャンセンは俺と同じ19位でAクラス20人だ」


「そうですか。2人とは連絡を取っていませんので」

「それは……、実は君が死亡したと1度連絡が入ったんだ」

 何ですと?どうしてそんなことに?



「あの日の3日後ぐらいだった。

君が意識不明の重体だという話がいつのまにか死亡したということで、君とコリントン先生の学校葬を夏休み明けにすると連絡があったんだ。

それで俺はせめて花を供えてもらえないかと思って、こちらを訪ねた時に君の母上に会ったんだ。その時にまだ君が生きていることを知った。

他のみんなにも知らせるべきだと思ったが、生死の境にいると聞いていたので一部の人にしか連絡しなかった。申し訳ない」


「つまり2人は」

「ジャンセンは君が死んだと思っている。ハーダーセンは先日王宮で会ったのでその時伝えた」



 そっか、メルが来てくれたのも2日目くらいだったそうだし、そのあと死亡したということなら誰も来ないか。

 田舎から都会に出てからの死の場合、火葬して骨だけ故郷に送り返すのが基本だもんな。



「俺が知っていたのは君が療養で遠くに行くということだけで、見舞いに行けなかったことを許して欲しい」

「わかりました」

 そうか、そうだったんだ。



「それともう一つ。ディアーナ殿下のご希望なんだが」

「何でしょう」

「その、君の面倒をみたいと仰っておられるんだ」

 何ですと?いったいなぜ?



「今回のことは貴族に処分者が出て思った以上に大ごとになってしまった。

ディアーナ殿下は君を保護観察することで、いじめをなくしたいと考えておられる」

 ええ⁈むしろほっておいてくれた方がいいんですが。

「殿下はご自身が騎士を目指しておられる高潔なお方だ。リカルド様と婚姻を結ぶこともないし、そういう嫉妬心を持つことはない。安心していい」


「ケルピー様とご友人の方々を許していただくという話はどうなったんでしょうか?

私はこのようなことは考えてませんでした。

転校や平民落ちだなんて、大ごとにしたくなかったんです」


「すまない。この件にはシリウス殿下が絡んでしまったのだ。

リカルド様の名誉を挽回するためにも重い処分を与えよとご命令された。

ほとんどの人がリカルド様の名誉が穢れたなどとは思っていないのだが。

クライン伯爵閣下に命令を下されたのでリカルド様も逆らえなかった。

ただ彼女らの家を取り潰すのはやりすぎだと考えてそこは抑えて下さったのだが」



 私は彼女たちの家のことは考えなかった。このことで平民落ちだなんて、想像もできなかったもの。



 馬車を待たせてあるからと、早々にお帰りになったダイナー様を見送って部屋に戻ると、ドラゴ君はモカの魔法を解いた。

「サミーは!」とモカが飛び起きる。


「ごめん、ダイナー様もう帰ったよ」

「ひどーい。リカルド会いたかったよ~」

「いや、クライン様はいらしてないから」

「ううん、馬車で来てたんでしょ?

サミーは雨と舞踏会以外は騎士だから馬か徒歩なの。

だから馬車で来るときは中にリカルドがいるの」


 じゃあさっきのあの馬車にいらしたのか。

 私の男としては好きじゃない発言、きっと報告したよね。怒ってるのかな?面倒だな。


「リカルドの家はお金も権力もあるけど、質実剛健がモットーで馬車も見た目質素なの。中はたまに王族乗せることもあるから立派なんだけど。それも最低限ね」



 うーん、必要かどうかわからないけど、これは聞いた方がいいかもしれない。



「ねぇ、モカ」

「何?」

「その、乙女ゲームの話もっと詳しく私にしてくれる?」



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2023/2/4

ルシウス殿下→シリウス殿下に変更。

内容は変わりません。

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