第120話 高騰の原因


 クランハウスの戻ると、クランマスターはおらずルードさんが厨房で例のメロンパンの試作を行っていた。



「エリーさん、みんなお帰りなさい。是非試食してください。感想が聞きたいんです」

 食べてみると父さんの作るガリガリとしたクッキー生地よりも、柔らかくほろっとしている。

 これはこれでおいしい。



「ふふふ、クッキー生地に膨らし粉を混ぜてみたんです。柔らかい触感でこれも美味しいと思います」

「ええ、なんかお菓子感がさらに上がった感じですね」

「ええ、小さめに作ってお茶うけにどうかと思うんです」

「すごくいいと思います」

「モカどう思う?」


 ドラゴ君が聞いたけど、ルードさんの前で話していいのか迷っているようだった。

「モカさん、マスターからあなたが特殊個体なことは聞いています。だから話していただいて大丈夫ですよ」

「前世で食べてたやつにより近いです。美味しいです」



 さらにモカはこの柔らかさならチョコチップを散らしても美味しいといった。

 チョコチップとはチョコレートを小さな粒状にしたもので、味に変化が出るのだという。

 するとルードさんはすごく神妙な顔つきになった。



「モカさん、あなたの存在は新しい世界を開いてしまうかもしれません」

「ええ?そんな大げさな」


「いいえ、あなたのその前世の知識はこの世界にはないものです。

まるで先代勇者が持っていたもののようです。

だから素晴らしい知識ですが、このメロンパンとあんパンだけにしましょう。

あとはアイデアがあればエリーさんを通して、この世界に出していいのか考えてください。わからなければ私かマスターに相談してください」


「ああ、私父さんに新商品の案出しちゃいました」

「どういうのです?」

「この餡パンみたいに中に餡の代わりにおかずが入っていれば食器がなくてもパンだけで食事になるのでいれたらどうかって言いました」


「ああ、そのくらいならいいと思います。

俺が思うのはもっと見たこともないようなものです。

おいしいものなら俺がこっそり作りますから是非言ってくださいね」

 うん、ルードさん。そこはブレませんね。



「でも今は楽しく行きましょう。モカさん、あなたをこのクランにお招きできて大変光栄です」

「ありがとう……ございます」

「モカさんが喋れるのを知っているのは、俺とマスターだけです。クララにも話していません。気を付けてくださいね」

「はい」


「それから後でマスターから話がありますが、もしモカさんが望むならティーカップ・テディベアの里に送ることも出来ます。

でもモカさんほどの知性の持ち主ならちょっと寂しいかもしれません」


「そんなところがあるんですか?」

「ええ、絶滅を恐れてマスターがかくまったんです。

ティーカップ・テディベアはモカさんほどではありませんがとても賢い生き物です。生きるために可愛く振舞うことも出来る。

それがかえって乱獲につながって、マスターに助けを求めたのです」

「「「そうだったんだぁ」」」



 私たちを危機に陥れかけている、ティーカップ・テディベアの高騰の原因が今わかったのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る