第43話 クラン『常闇の炎』
『常闇の炎』はとっても忙しいクランだ。
創立200年近い歴史あるクランで、創立者は先代勇者のユーダイ様だ。
彼はエンシェントドラゴンの討伐や王都に起こったスタンピードを素早く解決し、数々の特許やアイデアでこのバルティス王国を支えた大英雄だ。
しかも奴隷解放運動や亜人の身分の向上なども手掛け、このクランはその受け皿のために作られたもので今もいろんな種族のヒトが在籍している。
中心人物はクランマスターのビリーとサブのクララさん。そして補佐にルードさん。この3人はずっと働いている。
ここは150人近くいる巨大クランで、能力もピンからキリまで多種多様だ。
そのマネージメントはビリーとクララさん2人を中心に運営するスタッフでやっている。他の人たちはだいたい4つに区分される。
1つ目は、子供や年老いてしまったため仕事にありつけない人たちがする軽作業。掃除、大工仕事、草むしり、家事、棚卸などの戦闘の含まれない仕事になる。
意外と雑用って報酬が安いせいか冒険者ギルドで余っている案件なので重宝されているんだって。
私も造花づくり手伝ったんだ。すごく一生懸命作ったらビリーに、
「エリー、うますぎるからみんなと同じぐらいのレベルで作ってくれ」
とはじかれた。うますぎるとそのレベルで今後納品してほしいと言われるのでよくないんだって。
でも皆がうまくなったらビリーやクララさんがちゃんと報酬を上げてくれるように交渉してくれるのでそういう意味でもクランにいる弱い者は安心なのだ。
2つ目は、本来なら職業ギルドに所属出来るはずなのに様々な理由で不遇な目にあっている職人たちのための仕事。
例えば鍛冶をするドワーフは尊敬されて認められるのに、裁縫をするドワーフが裁縫ギルドに入れてもらえなかったことがあるのだという。
「なんで入れないの?」
「貴婦人がドワーフを恐れるからだってさ」
「どこが怖いの?」
「多分俺たちがいくら考えてもわからないことだと思うぞ」
このはじかれたというターシャさんはドワーフらしく背が低くてがっちりしているけれど、とっても目が優しい素敵な人だ。それに彼女の刺繍やレースは本当に素晴らしく私が弟子入りしたいくらいだ。
「ターシャを下請け職人にして搾取するつもりだったんだよ。その裁縫ギルドの連中は。だからウチで引き取った」
うん、ビリーならそうするね。
もちろんターシャさんのような裁縫士さんだけでなく、いろんな職業の人たちがいる。ルードさんはこのグループにも入っている。もちろん料理だよ。
初めは各職業ギルドに文句を言われていたけど、彼らの仕事の素晴らしい出来に貴族の顧客が増えて今はおとなしくなったんだって。
3つ目。私たちが知っている魔獣や犯罪者と戦う冒険者たちのグループ。
攻略ももちろんするけど、特に常闇の炎は護衛が得意なのだ。
獣人たちの俊敏な動きや巨人族の動きは遅いけれど堅牢な防御など長所を生かして護衛方針を組み立てて配置する。
この方針を組み立てるのはビリーとビリーが育てた護衛専門の人材チームでやっているんだって。この人材チームは頭脳だけでなく実働もしている。
実際口だけで指導されるより同じように動ける仲間の言うことの方が聞いてもらえるからだ。
このクランは従魔もとても多く、それを取り仕切っているのがジャッコさん。
黒髪黒目に浅黒い肌の魔族の男性で、ジョブはテイマーなんだそうだ。
従魔のことならこの人ありということで、なんでも詳しくて教えてくれる。
会うたびに私を猫の子のように持ち上げるのはご愛敬だ。
私が10歳にしては小柄なのを気にして、いつも食え食えと美味しいお肉をお皿に入れてくれる。
世話好きなのかなと思ったらビリーが、
「おいジャッコ、エリーは魔獣じゃないから体重管理はしなくていい」
私魔獣扱いだったのか。何故に?
でもお世話になっていることは変わりがないので私も従魔舎の掃除や餌やりの手伝いをしたいのだけど、とても行き届いていて手伝う隙が無い。
何かしたいといったら、お仕事を頑張った魔獣にブラッシングする仕事をくれた。
ここの従魔たちは敵を偵察したり、怯える依頼者の気持ちを和らげたり、すごく役にたつ子ばかりなのだ。みんな大人しくてとてもお行儀がいい。私がブラッシングしたら穏やかな顔をして、眠りにつく子もいる。
ジャッコさんに聞くと、
「ウチは特別だ。マスターの力が強いからな。主の力が微妙なところはもっと騒いだり、暴れたりするから他の魔獣舎には不用意に近づくなよ」
「学校の従魔舎に私の従魔を預けることになるんですが、大丈夫でしょうか?」
「学校は事故を無くすために、従魔同士が近づけないようにするから大丈夫だ」
とりあえず卵が孵っても苛められる心配はなさそうだ。
4つ目。新しい技術や商品を考えて形にするところ。他のクランとここが一番違っているかもしれない。出世に興味のない魔法士や錬金術師が多いです。
「金も食うけどあたりゃデカい」(ビリー談)
最近では魔力を節約する魔法陣を開発した人がいて、それを魔石コンロなどに書き入れて現在も大ヒット中。
私も入るんだったらきっとここだな。
スライム手袋の話をしたら、ビリーはものすごく食いついてくれて、
「エリーいつになったらウチに入れる?」
「早くて8年後」
「遅い!なんとか3年ぐらいにならないか?」
「さすがに無理」
それを聞いてものすごく悔しそうだった。
私もやりたいよ~!
そんなこんなで、クラン『常闇の炎』、毎日とても楽しいです。
父さん母さん、ヴェルシア様。私は今日も元気です。
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