第32話 攻撃魔法

 

 1週間後のお昼ご飯の後、ルイスさんから報酬をもらった。手のひらの上に乗るくらいの小さな樽だがずっしりと重い。キラーハニービーの蜂蜜だ。

「ありがとうございます。嬉しいです」

「奮発したからね。今日も美味しいご飯をよろしく」

「了解しました!」



 あの日以来、なぜか狩りはいつもビリーと一緒に行っている。

「どうせ俺も狩りに行くんだ。お前に索敵させてから狩ったら楽だ」

などと言うが多分彼は私より100倍以上の魔力があるので、疲れるわけがない。



 初めはビリーさんと呼んでいたのだが、

「見た目5歳をさん付けて呼ぶ10歳。今度は俺の方が外聞悪くないか?」

ということで呼び捨てが決定した。

 ずっとエリーと呼ぶのが気になるが、小さい子だから呼びやすくしか呼べないんだろうと周りに言うとみんな納得したようだ。あっ、ビリーは他の人の前では子供らしいかわいい声で話します。



 今日の狩りは滝つぼで魚を取った。

 やり方は簡単。

 例のバレットを水の中で炸裂させて、魚が気絶したところを拾うだけだ。

 拾った魚は、さっさとナイフで目の後ろとえらと尾のところにナイフを入れて動けなくする。

 生きていると苦しくて暴れてどんどん傷むからだ。それでも傷みにくいだけで魚の足が速いことには変わりがない。

 内臓を抜いて洗い、表面の水気を飛ばす。

 処理をしたらバケツに入れて水魔法から派生した氷魔法をかけて凍らせて保存。

 もう教えないと言っていたのにビリーは結局氷魔法を教えてくれた。



 魚の捌き方はハーフエルフのルードさんから教わった。

 ルードさんは食べることが大好きで、趣味は料理と食べ歩きと言って憚らない。

 エルフ族は基本菜食主義なので、エルフやハーフエルフからは馬鹿にされるらしいが、ルードさんは自分をエルフでも人間でもないルードという人種だと思ってるから全く気にならないらしい。



 私はその意見にとても賛成だ。

 私もエリーという人種ですと言えるくらいになりたい。自分でも私は女だとか、男だとかそんな風に思えないから。

 クララさんはもう少し成長したらわかるわという。

 ホントかな?



「おーい、エリー、そろそろ帰るぞ」

「待ってビリー、この薬草摘んだらすぐ行くから」

貴重な薬草の雪花草が岩場の少し高いところに生えているので、登って引っこ抜く。



 ビリーの口調は大人でぞんざいだけど、実はとてもやさしい。狩りに一緒に行くのもさりげなく私を守ってくれているようだ。



 何からって?

 例の悪役令嬢、ローザリア嬢からです。

 よく考えてみると悪役令嬢って何だろ?悪役ってことは女優?



 私がエイントホーフェン伯爵夫人に教わる前から、彼女も伯爵夫人に教わりたいと申し出ていたんだって。

 自分を断っておきながら、平民の私なんかを教えていたことがとても屈辱的だったらしい。

 でもちゃんと考えてほしいな。

 平民の私を教えるためにエイントホーフェン伯爵夫人はやってきたのではなく、王族であり、教会の枢機卿であるラインモルト様のために来てくださったのだ。



 王族と侯爵家では王族取るでしょ、普通。

 実際レオノーラ王妃から呼ばれたら、すぐにそちらへ飛んで行ったもの。



 話を戻すけど、とにかくローザリア嬢は私の事が目障りらしく、ことあるごとに嫌がらせをしようとする。

 でも料理を作っている最中に火を消してしまうとか、私が捨てたごみをもう一度元に戻しておくとか、やることは小さい。

 もちろん、1度やられたらすぐ対策を講じるので大きな被害はない。



 私が怖いのはビューラムさんや他の大人たちが私への苛めに加担することだ。

大人が本気になったら私は死ぬ。

 だけど『常闇の炎』の皆さんが言うには、

「ビューラムは根っからの騎士だから、こんな嫌がらせをするなど彼の誇りをかけて絶対にやらない。彼がどうしてもやらなくてはならなくなったら死を選ぶだろう」

 心配いらないって意味だけど、私のせいで彼が死んだら嫌だなぁ。



  抜いた薬草を腰の採取袋に入れて降りようとした瞬間、手に触れた岩がものすごく熱かった。

「熱っ!」



 思わず手を放してしまった。何これ?どうして?

 あっ攻撃魔法だ!



 気が付いた瞬間、足元にも火魔法をで攻撃され、私は岩場から滝つぼに真っ逆さまに落ちて行った。

「エリー!」

 ビリーの声がするが、滝つぼに入るとすべての音が聞こえなくなった。



 滝つぼって上の方は明るいけれど、こんなに底が深くて暗いなんて知らなかった。

 いつまで落ちるんだろう。

 ああ、向こうの方でうごめく影に強い光を放つ3つの眼。

 魔獣だ。



 すると上から滝つぼにものすごく強い光がはなたれ、魔獣が苦しみ始めた。



 落ちてゆく私の元に金色の髪に金色の瞳の男の人が泳いでやってくる。

 誰?



 それから私は意識を失った。






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