第31話 新しい仕事
ビューラムさんの交渉の結果、私は一番前の商人の馬車に乗ることになった。いろんな商人の人たちがいて全部で12人。定員オーバーすみません。
私の席を与えてくれたのは若い商人のルイスさん。3年ほど修行して独立して10年目の26歳なんだって。濃い茶色の髪で小太りのにこやかでやさしそうな、でもいかにも商人って感じの人だ。
「こんにちは、僕はルイス。主な売り物はこれさ」
と小さな小皿に金色の液体を入れて渡された。
「これ、蜂蜜?」
「そう、舐めてもいいよ。お近づきの印」
甘~い、おいし~い!
カバンの中のパンをひと切れ取り出して、皿にくっついたのも全部取って食べた。
ルイスさんがじっと見てるのでパンをひと切れ分けると彼も蜂蜜つけて食べていた。
「こんな高級品。ごちそうさまでした」
「こちらこそ、一儲けさせてもらったよ」
「僕にはいい迷惑でしたよ」
「アハハ、だろうね。叩き出せって言われたんだって?」
「あれはほとんど殺せでした。怖いです」
「ぼくの場所、狭いけどどうぞ」
「ありがとうございます」
奥の荷物置き場にある蜂蜜樽の上が私の座る場所だった。ルイスさんは6つも樽があって他の馬車にも乗せてもらってるんだって。
お尻痛そうだから、トランクから学校の寮で使おうと思っていた枕を出して敷いて座った。
「その上で暴れて蓋抜けたら弁償してね」
「暴れないし、そんなに簡単に割れないですよね、これ」
「おっ、わかる?一応ちょっとだけ付与かけてもらったんだ」
「ちょっとじゃなくてちゃんとされていますよ。いい付与魔法使いの方ですね」
「そっか。彼当たりなんだ。次も頼もう」
ルイスさんはなかなか好奇心旺盛な人で、冒険者のいでたちの私にいろいろと質問してきた。冒険者には色々聞かないって鉄則知らないのかな?
面倒なのでリノアさんの身の上を話し、孤児院にいたことにした。
「さっきのパンどこで買ったの?おいしかった」
「教会の東にあるパン屋です」
「へぇ、ニールにもおいしいパン屋あるんだな。僕はもっと辺境からの帰りだからさ」
「ニールからさらに辺境ってまさかカーレンリース領ですか?」
「そう、まさにそこ。あそこの森にキラーハニービーがいてね。上質な蜂蜜をため込むのさ」
「キラーハニービーってやっぱりデカいんですか?」
「うん、君ぐらいかな。結構肉もうまいよ。花の蜜や花粉しか食べないから臭みがなくてほんのり甘い」
私と同じ大きさなんだ。なんかヤなこと思い出した。
「ワームも好きそうですか?」
「大好物だろうけど、飛べるからめったに食べられないだろうね」
「ワーム嫌いです。食べられそうになったことあるし。なんか僕の大きさに反応してるっぽかったんです」
「よく生きてるね。近くに冒険者いたの?」
「いましたけど、なんとか一人で倒しました」
「じゃあDランク相当じゃない。すごいね」
「雇いませんか?とりあえず1週間」
「護衛はいらないよ」
「護衛じゃなくて食事作りです。この辺にいる小さい動物なら倒せますし。今日明日はニールで買ったものでもおいしいですけどその後は固焼きパンと干し肉でしょ」
「うーん」
「次の町まで1週間ありますよ。僕料理スキルも持ってるんです」
「うーん」
「お金じゃなくて蜂蜜を少し分けてほしいんです。ルイスさんが僕の料理に払いたいと思う分でいいですよ」
「乗った!」
「じゃあ契約成立。ではまずは1週間で」
「ぼくが支払いケチるとは思わないの?」
「1週間後の報酬が気に入らなかったら残りの1週間は契約しないですから」
わ~い、仕事ができた!
今日の夜休憩。
本当は昼取ったラビット食べる予定だったけど、常闇の炎の皆さんにたべられてしまったので、どうしようか。
ルイスさんの食料1週間分と私の手持ちの食料を見て、献立を考える。
まず鍋に干し肉を細かくほぐし入れて水に入れて戻しておく。これはスープの出汁になる。
戻している間に狩りだ。
近くにいる獲物、ああノームモルモットがいる。あれ見た目もかわいくて意外とおいしいんだよなぁ。
私はナイフを取り出した。
ハミル様のナイフではない。あれは状態異常かかってるからね。これはリターンだけ付与してある。私が投げられる距離よりも遠くにいるから風魔法で当てる。
さぁ、投げようと私が身構えると、
「自分で取りに行くの面倒じゃねえのか?」
振り返るとビリーさんがいた。
「ビリーさん、こんばんは」
「面倒だろうが」
「まぁそうですね」
5歳児にしか見えないビリーさんは私が当たりをつけたノームモルモットを指さす。
「
指先から魔力の小さな塊が出て、ノームモルモットを打ち抜いた。
「え?」
「
呪文を唱えて、手でこちらに引き寄せるように引っ張ると、ノームモルモットの死骸が手元までやってきた。
「す、すごい」
思わず拍手してしまった。
「やってみろ」
ええ~、今見たところですよ。
「初めてだから、これを核にして撃ち込め」
手渡された魔石は、なんだこれ昼の私のラビットの魔石じゃない。
「さっさとやれ」
「わ、わかりました」
手のひらに魔石を置いて魔力を込める。
さっきビリーさんがやったみたいにノームモルモットに当たりをつける。
「ウインドバレット」
すると力を込めた魔石がノームモルモットに当たって、その体を粉々に打ち砕いた。
「ああ!」
「力入れすぎ。もう1度」
それでも何度かやっているうちに魔石すらいらなくなり、バレットの魔法は習得した。
10匹ほどノームモルモットを狩り「アトラクティング」も10匹全部寄せられたので合格点をもらった。
「じゃあこの8匹はもらっていく」
「あ、あの魔法って教えてもらうのってすごくお高いんでしょう?」
「そうだが、まぁなんだ、女の体を傷つけた詫びだ」
「はぁ?女?わた、いや僕まだ10歳だよ」
「そういうことでまけといてやる」
「ありがとう。でもそのモルモット僕が持つよ」
「なんで?」
「5歳児に重いものを持たせる10歳。外聞が悪いです」
「チッ、ただの擬態なのにめんどくさいな」
「まぁまぁ、ビリーくん。お兄ちゃんが持ってあげるからね」
「なんか馬鹿にされてるような気がする」
「ソンナコト ナイヨ ボク ワルイ ニンゲンジャ ナイヨ」
「それを言うのはこの口か」
ビリーは私の唇をつまむと、ちょこっとだけつねった。
「また傷物になってしまった……」
「もう教えねーからな」
「バレたか」
2人で乗合馬車まで戻ると、ルイスさんに「エリン君、ご飯まだなの?!」と怒られた。
だけどノームモルモットの丸焼きはいたくお気に召したようで、半分しか食べてなかった私の分までくれと言うので仕方なくあげた。
これでみみっちい報酬だったら、契約解除後にルイスさんの隣で豪勢な焼肉食ってやる!と心に誓った。
父さん母さん、ヴェルシア様、これが初日です。
私は無事王都へ着けるんでしょうか。
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