第30話 ビリーさん


 お昼休憩で馬車が止まったので、馬車をそっと降りて乗合馬車の御者に他の馬車に空きがないか聞いてみた。



「どこも混んどるねぇ。月2回しかない王都行きの乗合馬車なんだから」

「実はさぁ一緒に乗ってるお嬢様に絡まれてんだよ。降りないなら放り出せってさ。こえーよ」

「ああ、あんお嬢様、あと一人同乗する者はどこにいる。すぐに契約を破棄させろって、オレにも言ってきてよぉ、そんなのオレが知るわけないのによぉ。運が悪かったなぁ、坊主」


「そんなこと言わないでさ、頼むよ。なんか爺さんが金くれるっていうし。分け前渡すからさ」

「そういわれちまったら、助けてやらないでもないぜぇ。前の馬車に商人が多いし、金で場所開けてくれるやついるかもしんないぜぇ」

「わかった。ありがとな、おっちゃん」



 御者に千ヤン渡してから、商人に話しかけるための案を考えた。そうだ手土産持っていこう。

 草原を索敵するとラビット系がちらほらいる。

 手早く2匹倒して、いつもの血抜きをする。

「ほう、無詠唱か。なかなかやるな」

 振り返ると少し離れたところに小さなビリーさんが立っていた。



 体中の血が凍った。

 もう無理だ、父さん母さん。初めての敵がこれじゃ絶対勝てない。



「頼む!馬車変わる算段付けるところだから命だけは助けてください」

 泣きながら飛び上がって土下座する。もしかしてこれがハルマノートにあったジャンピング土下座というものなんだろうか?



「……、別に殺さないけど?」

「うそだ、殺しに来たんだろ。油断させてばっさりなんだろ」

「本当だから」

「ホントに?じゃあ、あともうちょっと後ろに下がってくれる?」

「しょうがないな」

 とビリーさんは後ろに下がる。


「もうちょっと」

 ビリーさん下がる

「もうちょっとだけ」

「お前、俺の事馬鹿にしてるのか?」

 見た目ちびっ子な分、ギャップがありすぎて余計怖いよ~



「だって怖いもん。鑑定しなくったって魔力莫大だもん」

「まぁ、そうだけどよ」

「絶対隠蔽できるもん、私なんか小指でちょいだよ!」

「まぁ、そうだけどよ」

「うわぁ~ん、やっぱり~!」

「うるせぇな、殺すぞ」

 そこからちょっと記憶がなくなってしまった。



 父さん母さん、先立つ不孝をお許しください。











 目を開けるとクララさんの膝の上で寝かされていた。

「あ、気が付いた?ごめんね。マスターがびっくりさせたんでしょ」

「俺は悪くないからな」

「こんな小さな子にマスターの威圧浴びせたらそりゃ意識失います」

 あれ威圧っていうんだ。今度魔獣に使ってみよう。

 生きて帰れたらだけど。



「あっ、ラビット」

「ごめんね、悪くなるといけないからルードが今調理中よ」

「血は抜いておいたんでちょっとは大丈夫です。

それよりルードさんお肉食べるんですか?」

「半分人間だからね」

「そうですか……」

 体が痛い。威圧って怪我してないのに全身筋肉痛みたいになるんだな。



「馬車、出て行かないとダメですよね」

「ウチの対象者は容赦ないからね。むしろ今後の事を考えて移った方がいいわ。

あなたは結構面白そうな子だから私たちは構わないんだけど」

「移ります。ちょっと商人と交渉してこなくちゃ。イテテ体めちゃくちゃ痛い」

「マスターの威圧、本人は弱めたつもりなんだけど、多分見えない程度に細かく傷つけてるみたい。はいポーション」

 傷用のハートポーションを手渡され、ありがたく飲んだ。くぴくぴ。

「ありがとうございます」



「今ね、ビューラムさんが交渉に行ってるの。

あなたにも謝礼があるから心配しないで」

「御者のおっちゃんに分け前渡すことになってるんですけど」

「そうね、その辺もちゃんとしてもらうわ」

「もう何でそんなすごいお嬢様が乗合馬車に乗ってるんだよ」

「そうね、簡単に言えば私たちの依頼人が市井を知ってほしいって思ってるけど、本人はそんなつもりないから」


「でもさすがにビリーさんは怖いみたいですね」

「魔族が嫌いなだけよ。

顔が好みだからルードは側におくなんて、あいつだってダークエルフなのにね」

「ダークエルフって肌が褐色と思ってました」

「いろいろあるみたいよ。でもルード変わってるから」

「魔族もダークエルフも初めて見るから知らないんですけど、本当に残虐なんですか?」

「戦うときにはね。でも普段は平和主義よ。ビリーはちょっと柄が悪いけど」

「よかった。じゃあ種族が違ってもおんなじなんですね」

「エリンくんにはそうかもね」

 ?どういう意味だろ?



 そうだ、クララさんに聞きたいことがあったんだ。

「あの、エヴァンズっていいところですか?」

「ごめん、身元隠すためで私は学院」

「そっか、そうですよね。すみません」

「いいのよ。おかしなメンバーですもんね」

「鑑定はしてないですよ。お嬢様だけです。他は見破られるかもと思って」

「賢明ね。ビューラムさんも元騎士ですごく強いからね」



 ポーションが効いて立ち上がれるようになったら、ルードさんが肉が焼けたと言ってきたのでみんなで食べた。

 うむ、ラビットうまい。

 みんなもバクバク食べてるけど、よく考えたらこれ私が取ったのよね。

 まぁいいや。

 おいしいものを食べられるのも命があるから。

 


 ビリーさんの手加減のおかげです。





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