第6話 冒険者ギルドの講習会
翌日、冒険者ギルドで行う『新人冒険者のための基礎知識』という座学講習会を受けることになった。
座学の後、実地訓練にも参加するので今日は少年のようなズボンをはき、胸だけ当てる簡易な皮鎧と短剣と投げナイフも装備していた。
指定された部屋に入ると机が教室のようにずらっと並んでいて、12、3歳ぐらいの少年少女たちのグループが、パーティーごとに適当に座っていた。
「こんにちは、みなさん。今日この『新人冒険者のための基礎知識』に来てくれてありがとうございます。
私はタンクをしているDランクのリノアです。
新人研修をあと数回行うとCランクに上がることが決まっています。
ちゃんと実力もありますのでご心配なく」
ニコッと笑った赤い髪のリノアさんはとても美人でかわいらしかった。
でもわざわざCランクと言ったのは舐めた行動をしたらただじゃ置かないってことなんだろう。
「ではギルドでの皆さんのランクとランクアップ方法について説明しますね」
「リノアさんよぉ、俺らそんな常識知ってるぜ」と少年たちのグループが抗議した。
「あらお聞きになりたくないですか?構いませんよ。
あなたたちの仮冒険者免許をはく奪するだけですから。
講習免除を言ってくる人ほど、違反を起こしたときにそんなルール知らなかったってみんな判で付いたように言い訳するんですよね。
そういうことがないように講習会に参加しないものは冒険者にしないと決まっています」
ギルドの冒険者はその能力に応じてランク分けされ、自分のランクか、一つ上のランクの依頼を受けることができる。
ランクは、F・E ・D・C・B・A・Sの7段階に分かれ、どんなに能力があってもFランクから始めなくてはならない。
依頼は3種類あって、いつでもやってもいい常態依頼、ギルドの客が依頼する通常依頼、冒険者を指名して依頼する指名依頼だ。
F、Eランクは見習い期間とされ、ランクアップは納品で行う。FからEに上がるには、3か月の間に常態依頼の薬草10回分、ラビット系魔獣を10体納品が義務付けられている。
この間のFランク冒険者免許は仮免許になりEランクにあがって初めて正式な免許となる。3か月たっても納品できない場合、冒険者としての実力が不足していると見なされ、この仮免許ははく奪される。
もちろん実力がある冒険者は格上の魔獣3体以上の納品でも構わない。ただし、代わりに誰かが仕留めたものを納品した場合はもちろん資格はく奪である。
常態依頼はいつでもだれでもやってもかまわない、難易度は低いがずっと必要とされる素材を取ってくる依頼だ。
下級ポーションを作るための薬草、じめじめしたところに湧いて増えるばかりのスライム、森で飛び跳ねているグラスラビットやホーンラビットのような安価でおいしい肉が取れる獲物の納品などでF・Eランクに推奨されている。
Dランクで冒険者としてやっと認められるが、ランクアップの条件は犯罪者の討伐だ。つまり対ヒト相手になる。
捕縛でもいいけれど、討伐依頼が出るほどの犯罪者は捕まれば犯罪奴隷に落ちるので死に物狂いで抵抗してくる。
つまりヒトを殺めることが不可欠になってくる。母さんは私にはここまで上げる必要はないというし、私もそうしたい。
Cランクに上がるのはとても難しい。
推薦と試験をうけてやっとなれるが今回レノアさんがやっているような新人教育30回のようにきっちり理解してないとできない試験もあるので、頭もよくなければならない。
ただし、実力がある冒険者はギルドマスターが試験の免除を宣言すればなれることもある。
B、Aランクも同じように推薦と試験だがどんどん難易度が上がってくるので名前を知られ尊敬を受ける冒険者になれる。このランクだとクランに所属できる。
クランとは実力のあるパーティーが集まって大きな仕事をする集団で、有名なクランに所属できると社会的地位が上がり、名も売れやすい。指名依頼が来るのは個人名の事もあるがクラン名で来ることもあるので報酬の高いよい依頼にあうことができる。
ここニールにも、『ニール防衛隊』というクランが一つだけある。
元は王国から派遣されていた騎士団が始めたクランだったが、今は冒険者のみで構成されている。
クランの規定よりも低いランクでも仮所属は出来るが、実力のある若手を取り込めるメリットもある反面、礼儀作法などいろいろと教育も施さないといけないので誰でも入れるわけではなかった。
Sランクは英雄的な討伐をした者のみが与えられる称号で、めったになれるものではない。ドラゴンを倒したものや
もちろん指名依頼もとんでもない高額報酬が約束されるが、難易度もとんでもなく高いので騙りなど絶対にできない。
冒険者には守らなければならない決まり事もいくつかある。
まず冒険者同士の喧嘩はご法度だ。
冒険者は腕が立つ分、力ではっきりさせたがる。それでギルドの隣にある闘技場で決闘を行い、勝敗を決めることができる。
この決闘場は観客席があり、見世物として入場料を取られる。この入場料が闘技場使用料に充てられる。
冒険者は多くの眼の前で勝敗が付くので、勝てれば誇れるが負ければ馬鹿にされて悲惨である。
そして一般人に暴力をふるうことも禁止だ。
ただし犯罪が行われているなどやむを得ない場合にのみ使用は認められる。
ダンジョンに潜ると今までの能力よりも飛躍的に上がるので、ちょっとした痴話げんかでも相手を殺してしまうこともあるからだ。
つまり父さんを平手で打った母さんは有罪なのだが、お互いの話し合いで解決した場合はうやむやになることもある。愛があってよかったね、母さん。
もし冒険者が罪を犯した場合、被害者が神殿に訴え出ると冒険者は知恵と正義の神ヴェルシア様の裁きを受ける。
そして有罪と判定されるとその人間が一番恐れていることが起こる。街中で突然死する冒険者の多くは犯罪のためであることが多い。
天罰が下ったものにはヴェルシア様の罪の印が体のどこかに出るので病死とは間違えられない。
ダンジョンや依頼先で死んでしまった冒険者を発見してしまった場合は、冒険者登録時にもらう資格カードを持ち帰ることも義務付けられている。その場合遺体が持っている財産は発見者のものとなる。
このルールが悪用され、討伐に成功した冒険者を持ち帰った獲物目当てに殺す事件が過去に多発した。
強い魔獣よりも魔獣を倒して疲れ切った人間の方が簡単に狩れるからだ。
これもヴェルシア様の印が体に表れ、すぐにわかるようになっているので、カードを持ち帰ったときは体中を調べられる。遺体の財産がもらえるのはその迷惑料といってもいいんだそうだ。
そのほかは冒険者が戦っているときの援助は必ず確認してから助けるとか、逆に自分が戦っている敵を他の冒険者に擦り付けないとか、スタンピードの時は無条件で戦闘に参加するとか色々聞き、午前中の座学を終えた。
私はヴェルシア様が冒険者の罪を見極め管理までしていることに驚いた。
それだけ冒険者の力が大きいのだろう。
ヴェルシア様にお願いしたからから私は冒険者にならないといけないんでしょうか?
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